創造は混乱の中から生まれる。星野佳路が語った「常に勝つための」組織づくり

「リゾート再生請負人」の異名を持つ星野佳路さん。軽井沢の老舗旅館の跡継ぎに生まれながら、家族経営の陋習・悪習を破り、〝星野リゾート〟経営へと転換させた業界の第一人者です。混迷の時代に自律型組織をつくる要諦、改革を推し進める信念の持ち方とは――。『致知』が2007年に行ったインタビューから、混乱の中で創造を生んだ一連の経緯を抜粋してお届けします。

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常に勝つための組織づくり

――御社では「ユニット制」という組織形態を取られていると聞きました。

〈星野〉
7年前から従来のピラミッド型の組織体制をやめて、10人ほどのグループユニットで構成した、まったくフラットな組織体制へ移行しました。ユニットの責任者であるディレクターは完全立候補制で、やりたい人が手を挙げて、全スタッフによって選任されます。だから新入社員でも立候補できます。

――そのメリットはどんなところにあるんですか。

〈星野〉
いくつも階層があっては指示命令を待つ層が増えていくだけですし、フラットにすることで他の会社では経験できないダイナミックな経営参画ができます。

全社のベクトルはビジョンの達成です。そこは絶対に譲れない。それを達成するためにディレクターをやりたいと立候補する人がいて、その時手を挙げた人の中で一番いい人が選ばれた。ベストな人事ではないかもしれないけど、ベターなオプションによって選ばれたことを全社で共有できるわけです。

ただ、この人事システムを行う前提として、「昇進」とか「降格」という概念を捨てることが必要です。うちでは「発散」「充電」と呼んでいて、ディレクターとなって能力を発散する時期もあれば、他の人に任せて再び充電する時期もある。充電することは、決して悲観することではないのです。

――従来の日本型縦社会の組織とは一線を画す発想ですね。

〈星野〉
でも、プロスポーツでは当然ですよね。大事なのはその時に一番勝てるチームをつくること。アイスホッケーも5人の選手が交代しながら、常に最高の状態で勝利を目指します。ベンチに下がった選手は、また次の試合で頑張ればよいのです。

そういえば、この前うちのコンサルタントが「星野リゾートの魅力は何だろう」といって分析してくれましたが、いわく「究極のフラット感」だと。それを文字で表すと

「侃々諤々」

だって言っていました。要するにみんな言いたいことを言い合って、収拾がつかなくて混乱している(笑)。僕は常々創造は混乱の中から生まれると思っているので、侃々諤々というのは非常に大切な星野の文化だと思って、どんなに大きくなってもなくしてはいけないなと思っています。

最近はこういう変わった会社がおもしろいと思うのか、入社希望者も増えて、今年は60人の新入社員が入りました。

――社長就任時の最大の経営課題は十分にクリアされたわけですね。

〈星野〉
うーん、実態は当時よりは深刻な状態じゃなくなったという程度で(笑)、まだまだ道半ばです。全国13のリゾート地でビジョンをクリアしているところは一つもありませんし。

――家族経営から企業経営に脱皮される際に、ご自身で心掛けていたことは何ですか。
〈星野〉
質素倹約。これはすごく大事ですよね。先ほども言ったように、リゾート産業の社員は整った環境で働いているわけじゃないし、採算性だって楽じゃない。まだまだ社員の労働条件を整える余地がある中で、皆でビジョンを目指していくには、社員との一体感を失ってはいけないと思います。

「何だ、私たちにはビジョンがどうのと言っておきながら、本当は社長は豪華な暮らしをしているんじゃないか」とか、疑われてはいけないのです。

それはビジョンに対して自分の行動がブレないと言い換えることもできます。僕は若い頃から「いい経営者とは何か」と追求してきましたが、それは市場の中で競争優位性を維持していくために、わが社はこの道を行くという戦略を持ち、いったん掲げた戦略に対しては、自分の行動も考え方も社員に対する接し方も、すべてにおいてブレないことだと思います。

――ブレないためには、どうしたらいいでしょうか。

〈星野〉
ブレるきっかけは短期的に儲けようとすることだと思っています。いまの時代、儲け話ってたくさんありますから。しかも「多角化」だとか、それなりの戦略的な名称がついてね。

うちの会社にはビジョンに共感してくれた人たちが集まってきています。前にいた会社を捨てて、当時職場環境もよくなかったこの会社に入ってきた理由は何だろうと思うと、身が引き締まります。ビジョンに向かってまっすぐ最短距離で進んでいくこと。そしてその姿を、常に見せ続けられる経営者でありたいですね。

(本記事は『致知』2007年9月号 特集「運命を切りひらく」より一部抜粋したものです。)

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◇星野佳路(ほしの・よしはる)
昭和35年長野県生まれ。57年慶應義塾大学卒業後、米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。日本航空開発(現・JALホテルズ)、シティバンク銀行を経て平成3年星野リゾート社長に就任。主に経営が傾いた大型施設を引き受け、徹底したマーケティングと顧客満足向上等により次々とリゾート再生を果たしている。

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