なぜ最年長でタイトルを獲得できたのか。「中年の星」棋士・木村一基の原動力

王位就任式にて、日本将棋連盟の佐藤会長より王位杯を授与される木村氏(右)

昨年9月に行われた第60期王位戦を制し、46歳3か月で初のタイトル獲得を果たした棋士・木村一基さん。何度も何度もタイトル戦に敗れるも、決して諦めることなく挑戦し続けてきた木村さんは「中年の星」と呼ばれ、多くの人に夢と希望を与えてきました。その木村さんの将棋への原動力、情熱の源はどこにあるのでしょうか。

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努力したご褒美

(――プロ入り後、特に転機になったこと、思い出に残る対局などがあれば教えてください。) 

〈木村〉
実は思い出に残る対局は特にないんですよ。ただ、24歳でプロになるというのはかなり遅い、ぎりぎりの年齢でしたので、おそらくタイトル戦に挑むような活躍はできないだろうなと思っていました。ところが、2005年、32歳の時、望外に初のタイトル戦となる竜王戦の挑戦権を掴むことができました。嬉しくて一所懸命に準備をして臨んだのですが、一番も勝てずに4連敗してしまったんです。いま振り返れば、コンディションづくりを含めうまく調整できていなかった。 

(――ああ、初挑戦で大敗を。) 

(木村)
乱暴に言えば、4連敗なら誰でもできるんです(笑)。でも一番も勝てなかったのにはさすがに凹みましたし、全7局分の放送時間を確保してくださっていた主催の新聞社の方にも、大変申し訳ない気持ちになりました。タイトル戦が終わった直後の飲み会では、あまりの悔しさからつい呑み過ぎてしまい、翌朝ベッドから転げ落ちて目を覚ましました。

その後も、2008年の王座戦、翌年の王位戦、棋聖戦、2014年の王位戦、2016年の王位戦と、14年間で6回タイトル戦に挑戦する機会を掴みましたが、あと一歩手が届きませんでした。 

(――苦しい日々でしたね。)

(木村)
冒頭にも少し触れましたが、四十歳を過ぎたあたりからは、もうタイトル戦に出る機会も多くないだろうと意識せざるを得ませんでした。実際、2016年の王位戦に敗れた時、自分はタイトル戦を戦う力がないんだ、縁もないんだということも感じましたね。 

ですから、昨年王位戦の挑戦権を掴むことができた時には、これまで一所懸命に努力してきたご褒美だと思ったくらいです(笑)。 

(――タイトルに手が届かない14年の間、どのようにモチベーションを保っていかれたのですか。) 

(木村)
私の場合、将棋そのものが面白い、好きだったから辞めずに続けられたのでしょうね。 

例えばいま人工知能の登場によって、将棋を取り巻く環境も大きく変わってきています。以前はいかに人工知能に負けないかという発想だったのが、いまは人工知能をうまく勉強のパートナーに取り入れようという発想にプロ全体が変わってきているんです。何が言いたいかというと、人工知能と対局して「この手はどうだ」みたいに試してみると、人間なら絶対にやらないような答えがぱぱっと出てきて大変面白いわけですよ。 

ですから、将棋そのものが面白い、何歳になっても気づきや学びがある。それが、私がこれまで将棋の道を歩み続けることができた大きなモチベーションになっているのだと感じます。 

確かに辛いこともたくさんありますが、好きな将棋を仕事にできて、いまでも飽きずに楽しく人生を送ることができている。そういう点では、私は本当に幸せ者であり、運がよかったと思います。 

(――ああ、好きなことだから挑戦し続けることができたと。その運を引き寄せるために大事なものは何だと思われますか。) 

〈木村〉
繰り返しになりますが、やはり、運というのも情熱を持って一所懸命努力したご褒美じゃないでしょうか。 

もちろん、対局の前に神社にお参りをするといったことはしますよ。でも最後は対局に対してどれだけ悔いのないよう努力して臨んだか、その積み重ねが運として返ってくるというのが実感です。

実際、勝ち続けているトップ棋士を見ると、皆ものすごく努力を重ねています。私より3つ年上の羽生善治さんには、何か月かに一度研究会でお世話になっているのですが、羽生さんの研究量、努力量は本当にすごいものがあります。終わった対局に対しても並々ならぬ情熱で研究をされている。その努力と情熱はもっと見習っていかなければなりません。

(本記事は『致知』2020年7月号 特集「百折不撓」から一部抜粋・編集したものです)

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◇木村一基(きむら・かずき)
昭和48年千葉県生まれ。23歳でプロ入り。平成17年に初のタイトル戦となる竜王戦に挑戦する。それを含め計6回のタイトル戦に挑むも全敗。令和元年の王位戦にて463か月で初タイトルを獲得し、最年長記録を更新。師匠は故・佐瀬勇次名誉九段。

 

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