脱「45年体制」——新型ウイルス流行から学ぶ、日本再生のために必要なもの【青山繫晴×櫻井よしこ】

東京を中心に感染者数が再び増加している新型コロナウイルス。その流行を経て見えてきた日本の脆弱さ、そして歴史から学ぶものとは――。ジャーナリスト・櫻井よしこ氏と参議院議員・青山繁晴氏に、この危機を転じて未来を開くための指針を語り合っていただきました。

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日本の脆弱さの根底にある「45年体制」

〈櫻井〉 
一方で武漢ウイルスが露呈して見せたのは、我が国の脆弱さです。例えば安倍総理が4月7日に発令した「緊急事態宣言」、これは散々議論されていますけれども、政府にも都道府県知事にも命令権がほとんどないわけですね。国民に「外出を自粛してください」とお願いすることしかできない。

〈青山〉 
その原因は「45年体制」にあると僕は思っています。「55年体制」という言葉は昔から言われてきて、ご承知の通り自由民主党と社会党の二大政党制のことですが、これははっきり言って虚構です。実際は自由民主党の一党体制を裏で繋がっていた社会党が支えたにすぎません。

敗戦から10年が経った時に55年体制と銘打ったことで、新しいフェーズに入ったかのような印象を与えましたけど、実際は1945年の敗戦のままなんです。なぜか。憲法が全く変わっていない、国民を護る手段が一字も書かれていない占領政策基本法をそのまま憲法としたからです。

ですから、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の置き土産であり、45年体制の頂点に位置している日本国憲法を変えないことには始まりません。憲法九条改正と緊急事態条項明記、これをまずやるべきですよ。

〈櫻井〉 
大賛成です。

〈青山〉 
改憲議論をサボタージュしている野党がおかしいのは当然ですが、「仕方ないね」と見過ごしてきた自由民主党にも問題があるんです。それは憲法改正に慎重な公明党の支援が選挙で欲しいからです。このからくりで長年政治を回しているだけ。それで未知の危機に対応できるわけがない。

日本は幾度も危機を乗り切ってきた

〈櫻井〉 
長い歴史を振り返ると、日本は実に多くの危機を国民が一致協力することで、賢く乗り切ってきました。そういう国はそう多くないと思うんですね。また、日本はすごく不思議な国で、いつの時代も世界のトップ水準にいるんですよ。

まだ中華思想の世界にどっぷり浸かっていた時代に、聖徳太子は「日出処の天子」から始まる有名な手紙で、中国と対等の国であることを宣言し、文字通り対等の国として歩んだわけですね。

時代は下って、8世紀になると天然痘が大流行し、多くの犠牲が出ました。そこで聖武天皇は鎮護国家と災異思想(人間の行為の善悪に応じて天が災害や異変をもたらす)のもとに東大寺の大仏や国分寺の建立を命じられ、聖武天皇のお妃・光明皇后もまた、悲田院や施薬院などの施設をつくられ、孤児や病人を救済されています。これは世界トップ水準の民を思う政治だと思うんですね。

平安時代には紫式部や清少納言をはじめとする煌びやかな文学が並び立ちました。西洋でシェイクスピアが誕生する600年も前のことです。江戸時代は260年の間に人口が約1,200万人から約3,000万人と、倍以上になっている。いかに民が豊かな生活をしていたかが窺えます。明治時代には日清・日露戦争で、当時世界の一流国といわれる国に勝利したわけですね。

ところが、たった一度、大東亜戦争で負けてぺちゃんこにされてしまった。世界の最貧国の一つに落ち、社会基盤を全部破壊されたにも拘らず、国民が一所懸命働き、あっという間に世界第2位の経済大国に駆け上がっていくわけです。

その時々で国の形は随分違いますけれども、我われの先祖は変化に対応し、乗り越え、日本国を創ってきたんですね。その根底に流れているのは、利他の心、公の精神、責任感、そういう立派な国民性だと私は思います。

〈青山〉 
今回、「百折不撓」という特集を組まれたのは、実に適切だと思うんです。別に『致知』に媚びて言うんじゃなくて、実際に僕自身の議員としての日々と通ずるものがあるからです。

例えば、武漢熱の感染拡大に伴う経済対策の一環として、僕が消費減税を主張すると、「離党しろ」「議員辞職しろ」「ある政党で法案を準備しているから、それに無条件で乗れ」という声が一般からどれだけ来るでしょうか。

総理は当初、減収世帯に限り30万円を現金給付するという間違った決断をされ、それを組み込んで補正予算案までつくりました。僕は「いや、国民一律の10万円にしましょう」と主張し続けたわけですが、離党したり他党と組んだり、ましてや議員辞職して実現できるわけがありません。あくまで内部に留まって百折を経験して、しかし不撓不屈の精神でやって、実際に覆りました。最後の花は公明党が持っていいのです。

大事なのは百折であり失敗こそ財産

〈青山〉 
その経験も含めて申すと、「百折不撓」で大事なのは、「不撓」ではなく、「百折」にあると思っています。櫻井先生がおっしゃったように、2,000年以上の歴史を積み上げてきた国が、たった1回戦争に負けただけでぺちゃんこになったのは、それまで1ミリ四方たりとも領土を占領されたことがないからです。つまり、失敗経験がないので、どうしたらいいか分からない。それが実に75年間続いているんです。

安倍政権も第一次政権の無惨な終わり方、百折に値するくらいの失敗をしたから、いろんな課題はあるとはいえ、足掛け8年も維持できている。これは日本の政治史上、画期的なことです。安倍総理が平和安全法制を通したことも素晴らしいですが、それ以上に「失敗こそ財産だ」という教訓をつくってくれています。

どんな状況でも屈したら終わりですから、「不撓」で立ち向かうのはある意味当たり前で、やっぱり「百折」こそ大事であって、どんどん失敗を経験し、そこにこそ生きるべきではないでしょうか。

〈櫻井〉 
「百折不撓」、どんな困難が何百回とやってきても、必ず打ち克っていく。その言葉がぴったりの民族が日本人だと思っています。

ただ、戦後75年間、私たちは正しい歴史を学校で教えてきたのか、家庭において日本らしい躾をしてきたのか。先ほど青山さんがおっしゃった通り、占領統治で日本の一番強いところを壊されました。しかし、それを放置してきたのは私たち日本人です。

アメリカを非難することは責任逃れであり、自分たちの責任でしかない。日本国憲法という根本的な欠陥を変えていくと共に、一人ひとりの国民がそれを補っていく意識で、まさに「百折不撓」の努力をしなければ、日本国が今後も繁栄し続けていくことは難しくなるでしょう。

これからが日本国民にとって本当の勝負だと思います。この危機を転じて未来を開いていかなければなりません。

(本記事は『致知』2020年7月号 特集「百折不撓」より記事の一部を抜粋・再編集したものです)

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◇青山繫晴(あおやま・しげはる)
昭和27年兵庫県生まれ。慶應義塾大学文学部中退、早稲田大学政治経済学部卒業。共同通信社記者、三菱総合研究所研究員を経て、平成14年独立総合研究所を創立し、代表取締役社長兼首席研究員に就任。28年参議院議員に当選。「日本の尊厳と国益を護る会」代表。東京大学と近畿大学で教鞭も執る。著書多数。最新刊に『その通りになる王道日本、覇道中国、火道米国』(扶桑社新書)がある。
 
◇櫻井よしこ(さくらい・よしこ)
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業後、「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局勤務。日本テレビニュースキャスター等を経て、現在はフリージャーナリスト。平成19年「国家基本問題研究所」を設立し、理事長に就任。23年日本再生に向けた精力的な言論活動が評価され、第26回正論大賞受賞。24年インターネット配信の「言論テレビ」創設、若い世代への情報発信に取り組む。著書多数。最新刊に『言語道断』(新潮社)がある。

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