【オリンピアンの人間力】卓球×ラグビー:日本代表の躍進に見る〝世界で勝つ〟選手とチームの条件

卓球とラグビー――両競技の、世界の強豪国を相手どった近年の大躍進の裏には、10年、20年に及ぶ長い努力の道のりがありました。それぞれの競技で強化を担当してきた、日本卓球協会副会長・前原正浩氏と日本ラグビーフットボール協会専務理事・岩渕健輔氏に、改革と挑戦の軌跡を語り合っていただきました。

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現状維持では衰退あるのみ

〈前原〉 
日本卓球協会は一昨年からアンダーセブン(7歳以下の日本代表)というカテゴリーをつくり、元日本代表監督でKODAMA国際教育財団理事長の兒玉圭司さんのご協力で、未来のメダリストを育てるための合宿を年に1回開催しているんですよ。

〈岩渕〉 
えー!? アンダーセブンですか。それは驚きです。

〈前原〉 
あとは、大会の運営に関しても改革を断行し、2004年に全日本選手権演出プロジェクトを創設しました。当時は全日本選手権のポスターすらなかったので、ポスターをつくったり、会場内にネット環境を整備したり、表彰式の流れをスピーディーにしたり。

一つヒントを得たのは、K-1の試合を見に行った時でした。日本武道館の最上階の席だったので、リングがマッチ箱みたいに小さくしか見えないものの、パンチが当たる音が「スパン、スパン」って聞こえてくるんです。なぜかなと思ったらスピーカーから音が出ている。「これはいただき」と。それで全日本選手権の決勝でコートに集音マイクを置き、臨場感が出るように演出したんです。

最初は、ポスターにしても表彰式にしても集音マイクにしても、何でそんな面倒くさいことをするのかと皆に反対されました。でも、いままで通りのことをやっていれば、衰退していくことはあっても発展していくことは決してない。僕の好きな言葉は「何もしなければ何も生まれない」なんです。

〈岩渕〉 
私も「同じやり方をしていたら同じ結果しか生まれない」というのが信条で、やっぱり信念を持って新たなチャレンジをすることが大切ですよね。

世界で勝つためのリーダーの条件

〈岩渕〉 
その意味でも、エディー・ジョーンズは本当に優れた指導者だと思っていまして、彼は常に何かを探し求めているんです。例えばコーチングの理論や方法もそうだし、練習の組み方もそう。あらゆるものが本当に世界一かどうか。ラグビー以外の競技や他のビジネス界で成功している人は何をしているか。そういうことをいつも探究していました。その成長し続けようとする姿勢、学び続ける姿勢はリーダーとして重要なことだと思います。

〈前原〉 
数年前、仲のいい海外の指導者と再会した時、「世界チャンピオンを育成するには何が必要か」って2人で話し合ったんですよ。

10項目あって、「技術、フィジカル、メンタル、栄養指導、練習環境の整備、選手の発掘と若い世代からの強化、トップコーチの教育、ビデオ分析とサポートスタッフの充実、それらを実施するお金」と、9つ目までは一致していました。最後になるほどなと思ったのは、「選手を支えるボードメンバー(理事会)のやる気」だと。やっぱりリーダーとか指導者にパッションがなければ、世界で勝つ選手やチームを創り上げることはできませんよね。

〈岩渕〉 
日本代表に選ばれる選手たちは所属チームで成功体験があったり、キャプテンをしていたり、高い能力を持っている人間ばかりです。だけど、そこから先、本当に世界のトップで戦えるか否かは、技術的なことよりもやっぱり人間力のほうが大きい。

ここでいう人間力とは、これでいいんだと現状に満足したり胡坐をかいたりするのではなく、これまでのやり方を捨ててさらに上を目指す。貪欲に吸収して自分を変えていける。そういう人間としての強さです。結局、技術を伸ばせるかどうかも、そこにかかっているのではないでしょうか。

〈前原〉 
ラグビーも卓球も一緒だと思いますが、スポーツの世界では怒られて育ってきた選手は強くなるんですよ、ある程度。でも自分がミスした時にちらっとコーチを見るようになったら、その時点でその選手はもう伸びません。

だから、すごく才能を持った選手でも、高校や大学くらいまでは強くなるのに、途中で止まってしまう選手はたくさんいます。やっぱり伸びる人は自分のミスを自分で消化し、いまなぜミスをしたか、次はどうすればいいかを考えられる人です。

〈岩渕〉 
個人競技であろうが団体競技であろうが、最後は自分で判断して選択する。それが間違いなく世界で勝てるかどうかの分水嶺になると思います。


(本記事は月刊『致知』2020年6月号 特集「鞠躬尽力(きっきゅうじんりょく)」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇前原正浩(まえはら・まさひろ) 
昭和28年東京都生まれ。小学生の時に卓球を始め、大学4年次に全日本選手権シングルス準優勝。51年明治大学卒業後、協和発酵工業(現・協和キリン)入社。翌年より日本代表として世界選手権出場。56年全日本選手権でシングルス・ダブルス共に優勝を飾る。60年男子日本代表監督に就任し、ソウル・アトランタ・シドニーの五輪3大会で指揮を執る。平成25年国際卓球連盟副会長。28年日本卓球協会副会長。

◇岩渕健輔(いわぶち・けんすけ) 
昭和50年東京都生まれ。小学生の時にラグビーを始め、大学在学中に日本代表選出。平成10年青山学院大学卒業後、神戸製鋼入社。ケンブリッジ大学に留学し、イングランドプレミアシップのサラセンズ入団。その後、セブンズ(7人制ラグビー)日本代表選手兼コーチなどを経て、24年日本代表ゼネラルマネージャー。30年男子セブンズ日本代表ヘッドコーチ。令和元年日本ラグビーフットボール協会専務理事。

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