娘の病気が発覚した日のこと—— 。 競泳・池江璃花子選手の母が語る

日本人選手として史上初のアジア大会六冠を達成した競泳の池江璃花子さん。その類い稀な才能と人間性はどのように培われたのでしょうか。璃花子さんを含め3人のお子さんを女手一つで育てると共に、幼児教室の運営を通じて約2000名の子どもの能力開発に携わってきた池江美由紀さんの実践的子育て論とは。親としてコーチとして、杉山愛さんを女子テニスのトップ選手に育成してきた杉山芙沙子さんに迫っていただきました。

娘の病気が発覚した日のこと

(杉山)
璃花子ちゃんの退院祝いに、きょうはお花を持ってきました。

(池江)
どうもありがとうございます。

(杉山)
昨年(2019年)2月、海外で合宿中に体調不良で緊急帰国し、検査の結果、急性リンパ性白血病と診断され、闘病生活をずっと支えてこられましたね。それほどの窮地に陥ったことがないので、簡単に「心中お察しします」なんて言えないです。

(池江)
病院の先生から病名を告げられた時は、ただただびっくりして。家族の中でも一番年下の、一番元気であるアスリートの娘が白血病? って。どんな病気か多少の知識もあったので、大変なことになってしまったなとショックを受けたんですけど、ただそこで立ち止まっていられないですから。治療に向けて、現役復帰に向けて、歩き出さなければいけないんだなと、その場で気持ちを切り替えることができました。

(杉山)
その場で?

(池江)
母親としてとにかく子どもを導いていかなきゃいけない。勇気づけてあげなきゃいけない。親が取り乱していたら子どもが前向きになれるわけもありませんから。

(杉山)
冷静ですよね。私だったらきっと取り乱しているわ。

(池江)
私は平成7(1995)年に幼児教室を開校しまして、自分の子ども三人を育てながらたくさんの生徒さんの能力開発に携わってきました。その親御さんと接する中で、私が築いてきたメソッドや子育てのヒントをお伝えすることで、若いお母さんたちを勇気づけられたらいいなと思って、講演活動をし始めた矢先だったんです。娘の病気が発覚した2日後に大分で講演があって、それはさすがに断ることができずに、なんとか役目を果たしたんですけど、それ以降、幼児教室以外の仕事はすべてキャンセルして、毎日病室に通っていました。

特にうちは母子家庭で、子どもが小さい頃から全部私が守ってきたので、こういう病気になった以上、子どもを何とか支えていきたい、守っていきたい。それが私に与えられた使命なんだろうなって。

カエルの子はカエルか トンビがタカを産むか 

(杉山)
とはいえ、やっぱり命に関わる重い病気ですから、ネガティブなことが頭をよぎってしまうこともあるのではないかと思うのですが、そのポジティブさはどこから来るのでしょうか?

(池江)
やっぱり幼児教室の仕事がすごく生きました。私がやっているメソッドの創始者である七田眞先生は、どんな状況でも人生に対してプラス思考で歩んでいくことを教えてくださったんです。

私自身、皆さんのように学歴や職歴があるわけでもないですし、裕福な家庭で育ったわけでもありません。何一つ思い通りにならなかったんですね。ところが、子どもを出産して、幼児教室の仕事を始めてから、すごく道が開けたというか、自分の可能性が広がりました。

(杉山)
そういう実体験がベースにあるのですね。

(池江)
初めての子を妊娠した時、「カエルの子はカエルじゃないんだな」と思ったんです。カエルだと思ってカエルの子育てをするからカエルになるのであって、私のようないわゆるトンビでもタカの子育てを真似てやればタカになるんだな、とたくさんの本から学びました。

それ以来、常に子どもに対してポジティブな言葉を掛けていきました。「あなただったら、できるよ」「あなたの中には、もっともっと可能性があるんだよ。もっともっと天井は高いし、天井の上には空があり、さらに宇宙がある」と言って、決して限界をつくらない。

(杉山)
いまトンビとタカの話が出ましたけど、長女の愛は結構早い時期から注目されていたものの、私自身がテニス選手ではなかったので、「トンビはタカを産まないわ」って最初は思っていたんです。でも、少しずつ「いや、そうじゃない。私と彼女は違うし、私はトンビかもしれないけど、彼女はタカかもしれない」と切り替わっていきました。愛がよく言っていたのは、「私は何かやりたい、こうしたいと思った時に、ママからダメって言われたことがない」と。日常生活の中で「ダメと言わない」っていうのは、池江さんの「限界をつくらない」にも通じると思います。

親の一言一句が子どもの人間形成を決める

(池江)
だから私は、生徒さんのお母さんに対しても「女優にならなきゃいけないのよ」って言うんです。いくら実際の生活ではダメな部分があっても、子どもの前ではやっぱりそれを見せてはいけない。たとえ「おまえはこうだったくせに、よく子どもにそんなこと言えるな」ってご主人に言われたとしても(笑)、親という仕事をしているからには子どもがちゃんとした人間になるよう教えるべきだと。

私自身、善いことも悪いこともゼロ歳の時からしっかり教えて、ある程度の年になったら親がいなくても、自分で判断して乗り越えていける人に育ってほしいという思いでやってきました。

(杉山)
時には女優で、時には過去の自分では辻褄が合わなくなってしまうから、女優になり切ることが大事なのですね。

(池江)
幼少期の子どもは本当に暗示にかかりやすいんですよね。親の言葉や行動をすべて吸収して自分の性格をつくっていくわけですから、親が常にポジティブな言葉を掛け、ポジティブな行動をしていれば、そういう子どもになっていく。反対に、常にネガティブな言葉を掛け、ネガティブな行動をしていれば、子どもの自己肯定感は育っていきません。

どのお母さんも子どもをよくしたいと思っているんですけど、ついついマイナスな言葉を使ってしまっているんです。子どもが横にいるのに、「先生、うちの子、落ち着きがないんです」って。

私は「お母さん、まずそこから直さなきゃ」と言うんです。親のその言葉を聞いた子どもは「ああ、自分は落ち着きのない人間なんだな」と思い込んでしまう。「そういうマイナスな言葉は絶対に本人の前で言わないでください」って指導していますね。

(杉山)
「○○ちゃんはできるのに、何であなたはこうなの?」とかね。もしそのように言っているとしたら、それは大変な暴言を吐き続けていると認識しないといけませんね。

(池江)
親の一言一句が我が子の人間形成に大きな影響を与えるということをぜひ分かっていただきたいです。

(杉山)
だから「何気なく」じゃダメで、子育ては本当に気合が要りますよね。

 

(本記事は『致知別冊「母」VOL.2』(弊社刊)より一部を抜粋・編集したものです。)

池江美由紀(いけえ・みゆき)
EQWELチャイルドアカデミー本八幡教室代表。東京都生まれ。結婚・妊娠を機に、出産や子育てのことに関して幅広く勉学を積む。日本における幼児教育・右脳教育の第一人者である七田眞氏を師と仰ぎ、平成7年七田チャイルドアカデミー(現・EQWELチャイルドアカデミー)小岩教室開校(28年閉校)、12年本八幡教室開校。2女1男を育てると共に、これまで約2000名の生徒たちの能力開発に携わってきた。

杉山芙沙子(すぎやま・ふさこ)
一般社団法人次世代SMILE協会代表理事。東京都生まれ。医学博士。聖心女子大学卒業。早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。テニスコーチとして多くのジュニア選手を育成。また、娘の杉山愛選手のコーチ、チームディレクターとして世界ツアーを共に転戦。著書に『一流選手の親はどこが違うのか』(新潮社)など。

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