2020年04月20日
在宅勤務、テレワーク、リモートワーク――。新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、これらの言葉を目にしない日はなくなりました。多くの企業でテレワークの導入が行われる一方、急場での完全な切り替えに戸惑う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、平成20年、日本初のテレワーク専門のコンサルティング会社を設立し、28年には厚労省の「輝くテレワーク賞」個人賞を受賞された田澤さんのお話から、テレワークのメリットからスムーズな導入と活用のためのポイントや役立つツールまで、詳しくご紹介いたします。
※本記事の情報は掲載当時(2017年9月時点)のものです
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テレワーク導入の正しい手順
多くの企業が「うちはテレワークでできる仕事は少ない」と思い込み、導入をためらっているようですが、まず「テレワークでできる仕事は限られる」という思い込みを捨ててください。「いつもの仕事をテレワークでできるよう仕事のやり方を変える」という考え方を持つことが第一歩です。
テレワークを導入するための1番目のポイントは、業務の洗い出しから始めることです。テレワークの導入を検討し始めると、「さぼるのが不安なので、規則をどうするか」などの議論から入る企業が少なくありません。しかし、そうした心配事から議論を始めると全体の議論が進まなくなってしまうので、いまの仕事をテレワークで行うためにはどうすればよいかを先に考えることが大切です。
そのためには、「いまの仕事」を把握する必要があります。その際に重要なのは、テレワークでできる仕事だけではなく、「すべての仕事を洗い出してリスト化する」ことです。初めはテレワークを推進する担当者が自らの業務について洗い出しを実施し、その洗い出しリストのもと、どのようにして「仕事のやり方」を変えていくかを検討していきます。その手法をもとに、順次テレワークを実施する社員に広げていくとよいでしょう。
2つ目のポイントは、紙のデジタル化を明日にでも始めることです。「膨大な紙資料があるのでデジタル化は無理だ」と、最初からテレワークの導入を諦める企業が少なくありません。しかし、テレワークに限らず、情報のデジタル化はこれまでも、これからも企業にとって必要なはずです。テレワークの導入は、デジタル化を進めるチャンスなのだと発想を変え、すぐにでも取り組んでください。
ただし、過去の膨大な紙資料を無理にデジタル化するのは大変です。「今年度から」「今年から」など、原本をデジタルデータにする日を決めて進めましょう。過去の紙資料は必要になったタイミングでその都度デジタル化すればいいのです。
鍵はいつでも一緒にいるような環境をつくること
3つ目のポイントは、無料&低価格のツールを積極的に活用することです。
特に中小企業にとって、テレワークは、ツールの導入など大きな初期投資が必要だと思われています。確かに、かつては初期費用だけで数百万円かかることも珍しくありませんでしたが、「クラウド型」のサービスが主流となり、いまや「初期費用なし」「お試し期間は無料」「月額1人数百円」「自動的に更新して機能アップ」が当たり前の時代になっています。
例えば、マイクロソフトが提供する「Office365」は、ワード、エクセル、パワーポイントなどの最新版とクラウド上の保存場所を含め、月額一人900円から利用できます。この値段であれば導入の壁はかなり低くなるはずです。
追加コストになると思われるかもしれませんが、考えてみてください。テレワークで出社しないでも仕事ができる社員や日数が増えれば、人数分のオフィス、机などの備品を用意する必要もなく、通勤手当を支払う必要もなくなります。
また、Web会議により自宅で「朝礼」に参加し、出先で「会議」に参加し、自宅で「報告書」を書くことができれば、どうでしょうか。営業先へ直行し、営業先から直帰することで、会社への往復時間が節約できますし、もう1件営業に回る時間を取りつつ、毎日の残業時間をなくすこともできます。
4つ目のポイントは、気軽に声掛けできる環境を用意することです。在宅勤務をするとコミュニケーションが稀薄になるのではないかと懸念する声がよく聞かれますが、そこで活躍するのが「会議システム」や「チャット」といったツールです。それらを活用し、まるで相手が目の前にいるかのような環境をつくることが、テレワークを成功させる鍵になります。例えば、クラウド上のオフィスを実現できる「バーチャルオフィス」を利用すれば、常に一緒にいるような感覚で仕事をすることができます。
そして5つ目のポイントは、テレワーク時の細切れ時間を管理することです。テレワーク導入にあたり、次に心配されるのが「目が行き届かないので、さぼるのではないか」ということです。
しかし、それも「仕事を中断する時間」の管理ができるツールを活用すれば解決できます。「F‐Chair+(エフチェアプラス)」という時間管理ツールがありますが、これは着席、退席をするたびに、パソコンの画面で打刻できるようになっています。
ただ、「『着席』『退席』が自己申告だと、ごまかす社員もいるのではないか」と言われることがよくあります。その課題を解決するために「F‐Chair+(エフチェアプラス)」には、本人が「着席」している間、パソコンの画面がランダムに保存され、上司が見ようと思えば、行っている作業を一覧で見ることができる機能が備わっています。この機能を活用すれば、自宅や出先でも会社で働くのと同じ緊張感を持って仕事をすることができます。
新しい働き方を実現し人手不足の時代を生き抜け
テレワークの導入は、一歩一歩確実に手順を踏んでいけば、誰でも、どの企業でも実現可能なのです。
以前、ある中小企業の経営者の方に、「最近はワークライフバランスとかダイバーシティとかテレワークとか、カタカナ語ばっかりでよく分からないよ」と、言われたことがあります。
ワークライフバランスとは「仕事と家庭の調和」、人(社員)の生き方です。ダイバーシティとは「個人個人の違いを尊重し受け入れる多様性」、社会(企業)のあり方です。テレワークは、これらを実現するための働き方に他なりません。
これから深刻な人材不足の時代が本格的にやってきます。その厳しい時代を生き残るためには、ワークライフバランスとダイバーシティを実現し、優秀な人材が長く働き続け、効率よく仕事をし、無駄なコストを抑えることができるテレワークという働き方が不可欠です。
一社でも多くの企業がテレワークを導入して、経営者も、従業員も、皆が幸せに働き続けられる社会を実現していただきたい。それが私の心からの願いです。
(本記事は『致知』2017年10月号 連載「意見・判断」から一部抜粋・編集したものです。『致知』にはあなたの人間力・仕事力を高める記事が満載! 詳しくはこちら)
田澤由利(たざわ・ゆり)
昭和37年奈良県生まれ。上智大学卒業。シャープ㈱にてPC関連業務を担当していたが、夫の転勤と出産でやむなく退職。子育てをしながら、フリーライターとして独立し、パソコンを活用して働き続ける。平成10年に在宅でも働ける会社を目指し、ワイズスタッフを設立。20年には日本初のテレワーク専門のコンサルティング会社、テレワークマネジメントを設立。企業、国や自治体のテレワーク普及事業などを実施している。28年「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」個人賞受賞。著書に『在宅勤務が会社を救う』(東洋経済新報社)などがある。