世界的建築家・高﨑正治をつくった原点、創造力の源泉

左が髙崎氏

自然の循環や人間の深層心理をモチーフにした新建築に挑み続けている髙﨑正治さん。見る人を驚嘆させ、また創造性を掻き立てる建築物の斬新な閃きはどこから生まれてくるのでしょうか。その原点ともいうべき貴重な体験談をお話しいただきました。※対談のお相手は、美術家の清水義光さんです。

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体験できる彫刻を

(清水) 

今回の特集のテーマは「閃き」だそうですが、ここで髙﨑さんの閃きの原点はどこにあるのかという話もぜひお聞きしたいところですね。

(髙﨑) 

僕の原点となるのは、やはり生まれ故郷・鹿児島での体験だと思います。小学校の図画工作の先生が、日曜日になると僕たちを田んぼに連れて行ってはメダカやグッピーの観察をさせたり、スケッチをさせたりしました。

僕が絵に目覚めたのはその頃からなのですが、平面的に描いているだけでは物足りず、行き詰まってくるんですね。絵を何とか立体化できないものかというので見様見真似でオブジェをつくり始め、そのうちにオブジェに穴を開けて光を入れたりして、そこに人が住んだらどうなるだろうかと思索するようになったんです。「見る彫刻」だけでなく

「体験できる彫刻」「人が住める彫刻」があってもいいのではないかと。それが14歳の頃だったでしょうか。

(清水) 

何十年も後の話になりますが、その時のオブジェが寺山修司さんが亡くなった後の舞台で、中央に据えられたことがありましたね。これなどは髙﨑さんが中学生の頃からいかに才能に恵まれていたかを物語るものだと思います。

(髙﨑) 

でも、その頃の僕はまだ建築家になろうとは思ったことがなくて、ゆくゆくは小さな日本を出たいということばかり考えていたんです。日本を出ないと自分は駄目になるという思いは年々強くなっていきました。大学は建築科に進みましたが、ずっと海のシルクロードを研究していて、そういう海外への憧れがベースとなって、国際的に通用する建築家を目指すようになりました

それで、大学3年生の時に「物こそ人なれ」という言葉がふいに湧いてきて、精神に訴えることなくしては世の中は決して変わらないということを直感したんですね。前衛的な新建築に魅了されるようになったのも、それによって人間の深層心理や自然エネルギーを建築空間に生かせると考えたからなんです。

(清水) 

そうでしたか。

(髙﨑) 

生意気盛りだったからでしょうか。建築家として世界に伍してやっていく自信があった僕は新建築の国際コンペに応募し、日本人で初のグランプリを獲得しました。全く無名の日本の青年がグランプリを取ったというので一気に注目を集めましてね。

この時審査員を務めていたロンドン大学のピーター・クック先生とのご縁でヨーロッパに渡り、前衛建築でトップクラスのAAスクール(英国建築協会付属建築学校)などで武者修業をするようになるんです。

(清水) 

留学してみていかがでしたか。

(髙﨑) 

最初は違和感との格闘でした。作品は評価していただけたものの、僕自身はヨーロッパのキリスト教文化も習慣も全く分かっておらず、戸惑うことの連続でした。 しかも感性という点で日本人とヨーロッパ人には大きな隔たりがあるんです。ヨーロッパの建築家は陰陽のコントラストをはっきり打ち出そうとしますからインパクトはとても強い。

建物に角度をつけるのも鋭角でシャープな形状を好みます。これに対して僕の建築はふわっとした曲線が特徴です。これは僕の生まれ育った鹿児島の風土や自然環境の影響もあるでしょうが、それ以前に攻撃を好まない日本人の気質ではないかという気がします。 

(清水) 

髙﨑さんのヨーロッパ時代の作品といえば、ギュンター・ドメニク先生のもとで製作に携わったウイーン中央銀行が衝撃的でしたね。整然たる十八世紀の街並みの中に突如、崩れ落ちるかと思うほどの異様なステンレスの建物が出現する。内部では巨大な人間の手のひらが建物を支えている。

この建物ができた時は、大勢の市民が押し寄せて建物に石を投げたり大変だったと聞いています。

髙﨑さんはそういう中で「投げるなら投げろ」と建物の中に立ち続けられたと。

(髙﨑) 

そういうこともありましたね。日本人には理解できないことですが、ヨーロッパ人はイエス、ノーがはっきりしていますから。

だけど面白いもので、このウィーン中央銀行の建物は次第に人々の関心を集めるようになり、観光バスが訪れる名所になりました。いまではウィーン市の観光パンフレットの表紙を飾っています。

その頃から、ウィーン市の空き地には中央銀行に似た斬新な建物がどんどん建つようになりました。

(本記事は『致知』2017年9月号「閃き」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇髙﨑正治(たかさき・まさはる)

昭和28年鹿児島県生まれ。大学卒業後、ヨーロッパに渡り前衛建築を学ぶ。帰国後の57年東京・原宿にTAKASAKI物人研究所を開設。社会芸術としての理念の具現化に向けて住まいや街づくりを手掛けるようになる。平成2年髙﨑正治都市建築設計事務所を開設。王立英国建築家協会ジェンクス賞、日本建築家協会新人賞など受賞。王立英国建築家協会名誉フェロー、京都造形芸術大学大学院客員教授。

◇清水義光(しみず・よしみつ)

昭和19年山口県生まれ。高校卒業後、無人島に住むことを計画するも失敗。美術の道に方向転換。富岡鉄斎の研究が縁で中川一政氏と邂逅。以後、個展にて油絵、銅版レリーフ画、蝋染め、陶芸、篆刻、書などを次々と発表。文化誌『ニューパワー君』編集人。著書に『生命の王者--油絵を描いた禅坊主・中川一政』(河出書房新社)など。

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