山井太氏が語る、スノーピーク流「ユーザーとの絆」で危機を乗り越える経営

キャンプ事業を新規に立ち上げ、父が創業したヤマコウ(現・スノーピーク)を東証一部上場企業へと育て上げた山井 太社長。社長就任当時の業績不振や値上げによる炎上など、経営の苦境をどのように乗り越えてこられたのでしょうか。同じく新潟発のリーディングカンパニー、ハードオフコーポレーションの山本善政会長と、経営の危機に直面して見えてきた真理を語り合っていただきました。※写真右が山本さん、左が山井さん

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ユーザーと最も距離が近い会社

〈山井〉
私が1996年に社長を継いだ時はマイナスからのスタートでした。6期連続で業績は下がり続け、最高25億円あった売り上げが14.5億円になり、経常利益も3.5億円が0.4億円にまで落ちてしまったんです。

〈山本〉
どう打開しましたか?

〈山井〉
営業マンたちのほうが直接現場を見ていますから、私よりも意気消沈していたんですね。いま営業本部長をやっている社員が「もう自分たちの存在理由が分かりません」と悩んでいて、彼と話している中で「ユーザーさんの顔を見たら元気になれる」というひと言に閃きを得て、ユーザーと焚き火を囲みながら語り合うキャンプイベント「スノーピークウェイ」を1998年に始めたんです。

そこで、「スノーピークの商品はいいけれど高すぎる」「商品が全然流通していない」など、ユーザーの生の意見が聞けたので、それを一つずつ改善していったんです。

具体的には問屋との取り引きをやめ、価格を3~4割下げ、1商圏1店舗を原則として販売店を1,000店舗から250店舗に縮小し、すべての店舗に全商品を置いてもらえるような流通網を築きました。

そうすることで、ユーザーとの間に信頼関係や絆、コミュニティーが徐々に生まれ、そこから増収増益に転じました。やっぱり危機に直面した時に初めて、真理が見えてくるのでしょうね。

〈山本〉
本当にその通りですね。

〈山井〉
スノーピークウェイはそれ以来20年以上続いていて、小規模なものも含めるとキャンプイベント等の取り組みは年100回以上実施しています。そこで定点観測的なアンケートを取り続け、集めたユーザーの声をもとに改良しているので、時に間違った経営判断をしたとしても、その後の軌道修正はおそらく世界一早いと思います。

少しおかしな表現かもしれませんが、僕はスノーピークを自分の会社だと思っていません。僕の立ち位置はどちらかといえば、ユーザーの代表であり、一番のスノーピークファン。だからお客さんとも対等に語り合いますし、それがブランド力にも繋がっています。うちの強みは何といってもユーザーとのコミュニティーで、現在、数%のコアファンが会員売り上げの約半数を占めているんです。

決めるのはすべてお客様

〈山井〉
スノーピークは基本的にはすべての選択権はユーザーにあるという考え方を取っています。

最近はそれほどありませんが、インターネットでコミュニティーができ始めた頃、度々炎上していたんです。例えば、素材の高騰などで値上げせざるを得ないような時に、すごく叩かれました。なかなか収まらないので、僕が表に立って思いを伝えたことがあります。

我われもできれば値上げはしたくはないけれど、赤字になってまでミッションを継続するのは健全なことではない。本来は20%上げなければいけないところを10%だけ上げさせてくださいというのが今回のお願いで、私たちにできる精いっぱいの努力だから、それを買うか買わないか、あなた方に選択権はありますと。そうしたら、ぴたっと収束しました。

〈山本〉
選択権という言葉はいいですね。私たちは「お客様は裁判官」と表現しています。いい悪いを決めるのはすべてお客様だから、お客様のウォンツ(wants)とニーズ(needs)に従おうと社内でよく伝えています。


(本記事は月刊『致知』2020年3月号 特集「意志あるところ道はひらく」から一部抜粋・編集したものです)

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◇山井 太(やまい・とおる)
昭和34年新潟県生まれ。明治大学卒業後、外資系商社勤務を経て、61年父親が創業したヤマコウに入社。平成8年社長就任と同時に社名をスノーピークに変更。26年マザーズ上場、翌年東証一部上場。著書に『スノーピーク「楽しいまま!」成長を続ける経営』(日経BP社)など。

◇山本善政(やまもと・よしまさ)
昭和23年新潟県生まれ。45年拓殖大学卒業後、スーパーマーケット「よしや」入社。47年サウンド北越を設立。平成5年リユース品の仕入れ販売を行うハードオフに業態変更。7年ハードオフコーポレーションに商号変更。12年ジャスダック上場、17年東証一部上場。

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