【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第56回=最終回〉仏の道を求めて辿り着いた境地

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。全国各地を回った末に改めて自己と向き合い、そして仏教の将来に目を向ける和尚が抱く境地とは——。

(写真=導かれるように辿り着いた神奈川県海老名市の大谷観音堂の前で、㊧が義功和尚)

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再び修行の旅に向かう

宮崎から鹿児島へ歩を進め、フェリーで沖縄へ直航した。さらに石垣島を往復。反転して屋久島。そして、ようやく鹿児島港に着岸。平成7(1995)年9月24日、最福寺に戻った。ほぼ2年で全国托鉢行脚を達成した。

最福寺の行は1日から20日である。その後、師匠は京都や東京に出張する。師匠はいないし行はないので、弟子たちは多少なりとも緊張感から解放される。そこに私が戻った。歓迎してくれたが、私には次の目標がある。

数日待って師匠が戻った。早速、師匠に全国托鉢行脚の報告を済ませ、すかさず、申し上げた。

「托鉢行を続けさせて下さい」

「うむ」。師匠はそれ以上何も言われなかった。しかし、反対もしていない。私は許可を頂いたと解釈して、その日に再度出発した。

大谷観音堂との不思議な縁

〈まずは高野山に御礼参りだ〉と交通機関を使って大分県佐伯市に向かう。そこからフェリーで四国の高知県宿毛(すくも)市に来て、土佐清水市のTさんに電話をした。行脚をしていた時のご縁の女性だ。そこに宿泊した夜、仏壇でお経を上げた。

すると、「次は関東ね」。霊感が一段と強くなっていた。

翌朝、本屋さんで関東の地図を買い、Tさんの前に広げた。ジーッと見てはいるが視線は宙にある。すると右手が静かに膝を離れ神奈川県海老名市を指した。

〈ギクッ〉とした。私の生家は相模湖である。その湖底に水没した部落の住人20家族がこの海老名市に移転したからだ。Tさんが知る由もない。するとこう告げた。

「ここから(海老名市の国分寺を指し)真南にきた、ちょっと西寄りの山の麓のお堂がそれです」

半信半疑であったが、翌日、交通機関を乗り継いで海老名駅に到着した。そして、地図を頼りに歩いて来たらあった。大谷(おおや)観音堂である。不思議なご縁である。そのお堂で修行生活を送ることになった。

しばらくして御近所の方々と親しくなり、御老人から聞かれた。

「このお堂は3か月前に床板から濡れ縁全部、綺麗に修理したばかり。どこかで聞いて来たんかい」

「違いますよ」と丁寧にそのいきさつを説明したが、3か月前とは、私が来る寸前である。ラッキーといえばラッキーだが、絶妙のタイミングだ。

さらにその老人はこうも言った。「このお堂は樹木が鬱蒼(うっそう)と茂り、空も見えなかったんだぜ」

何気ないこの言葉に私はハッとした。1年前の記憶が瞬時に蘇った。

悟りを求めて新たな修行生活

草木が生い茂る大谷観音堂で日々修行を続ける

私は北海道の小樽市の銭函(ぜにばこ)にいた。ご縁のあったKさんという女性。この人も霊感がある。宿泊させて頂いた。私が仏壇でお経を上げると、こう告げた。

「私はカラーで見えるのよ。あなたのお寺さんのようね。木に囲まれた古い寺。何百年前の……。色は褐色」

私が入ったお堂は、3か月以前は樹木で覆われていた。そのお堂を銭函の女性が見たのだ。ということは、北海道にいた1年前に、私はここへ来ることになっていた。

延岡市で〈次はお堂だ〉と直感したこと。最福寺を再度出発したこと。土佐清水市での霊感による指示。そして、この大谷観音堂に来たこと。全てが一本の糸で繋がっている。不思議なことが次々と重なっている。視線が宙をさ迷った。

お堂に入って、まず方針を立てた。1か月を二分して、1日から15日までは行。16日から月末までは托鉢。これを繰り返すことにした。ところが一人で行をするのはいいが、私が悟ったとする。それが正しいと証明する人物がいない。どうするか? しばらくして次のことが頭を過(よぎ)った。

〈そうだ。禅宗でお悟りの書といわれる『臨済録』『無門関』がある。これは難解だ。これが分かれば、自分が悟ったという証明になる〉

あくまでも自分が悟ったという確認だ。それからの私は絶えず『臨済録』『無門関』を開いていた。その解説書も数冊読んだ。一字一句、禅学大辞典、佛教語大辞典と格闘した。分かりそうなところからと、一つ一つ読み進めて行った。

しかし、いずれも肝心要の部分は不明である。そんなことを数年続けている中に、『臨済録』『無門関』の問答がある。そのやり取りのポイントが分かってきた。そこで『義功和尚の臨済録』『人生に活かす禅 この一語に力あり」(致知出版社)を上梓させて頂いた。

仏教の将来を見つめ続ける

これからも「仏とは何か」を探求していく

仏教はこれからますます重要である。世界の宗教の根幹となる。私にはその確信がある。しかしながら、仏教界は停滞から衰退へ、転げ落ちるように突き進んでいる。

特に、禅門の根幹は「仏とは何か」、それが基盤である。今日の日本は経済的には豊かになった。しかし、その心は空白である。そこを埋めるのが禅宗宗門の役割である。

和尚や雲水を集めて、公開で『臨済録』『無門関』について自由に語らせたらどうか。貴重な意見がそこから飛び出してくる。それを繰り返すのだ。その発言を積み上げていけば、必ず『臨済録』や『無門関』が分かってくる。宗門の自信はそこから生まれ、その自信が行動力となり、社会を変革する起爆剤となる。そのくらいのことをしなければ駄目だ。

振り返れば私の人生は「仏とは何か」、その一点にあった。釈尊は「人生は苦である」と喝破した。そして、その苦脳を脱する境地を獲得した。それが「悟り」である。私もその釈尊に倣って悟りを求めた。己の苦悩を脱するためにと。

60歳で「仏とは何か」の大体の決着はついた。しかしながら、人間関係はといえば、心のキャッチボールというか、スムーズに会話が出来ていたかといえば、まだ出来てはいない。

世間は絆、絆と叫びをあげる。しかし、私は対人関係に悩まされて40年。七転八倒の苦悩の連続であった。それから解放されたのが、70の古稀を迎えてからだ。アタマが整理されただけではまだまだ。それが血となり肉となるには時間がかかる。消化して栄養が補給され細胞が働く。そのためには時間が必要なのだ。

「開かずの扉」が開いた。諦めず仏道を求め続けた、その結果である。体当たりで仏道に励んだ私の人生体験録はこれで終わりとします。有り難うございました。

【読者の皆様へ】「義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え」は今回で終了します。長い間、ご愛読いただき有り難うございました。

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小林義功
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こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

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