北海道コンビニの雄「セイコーマート」の挑戦——ブランド価値をいかに高めるか?

左:糸数氏/右:丸谷氏

東京一極集中、過疎化、高齢化。日本の地方都市を取り巻く環境は厳しさを増しています。しかしそんな逆境にあって、独自のブランド戦略を打ち出し、多くの人々から愛されているのが、北海道で店舗数1位を誇るコンビニチェーン「セイコーマート」です。
同社の店舗では、2018年の北海道胆振東部地震でブラックアウト(停電)が起きた危機的状況で、スタッフが自発的に行動し地域に多大な貢献を果たしたといいます。そのブランド戦略を牽引してきた丸谷智保社長にお話を伺いました。(お相手は沖縄県で百貨店・スーパー・コンビニ事業を手掛け躍進中のリウボウホールディングス糸数剛一会長です)

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〈糸数〉
丸谷さんがシティバンクからセイコーマートに移られたのはどういうご縁だったのですか?

〈丸谷〉銀行時代の先輩がセイコーマートに勤めていまして、後継候補として以前から誘われていたんですよ。50歳を過ぎたら地元に戻ろうと思っていたこともあり、創業者の赤尾昭彦と会ったんですけど、彼の考え方に非常に感銘を受けて入社を決めました。

〈糸数〉
どんなところに感銘を受けましたか?

〈丸谷〉
たくさんありますが、何よりも小売の発想じゃなかったということですね。ある時、面白いことを言いましたよ。

丸谷さん、クロネコヤマトって小売業だよね」と。「いや、あれは物流業じゃないですか」と返すと、「いや、そうなんだけど、よくよく考えると、代引きっていうのは物を渡してお金をもらうよね。これは小売業じゃないか」と。

〈糸数〉
鋭い洞察力ですね。

〈丸谷〉
それで私は、小売業の根幹はいかに物流させるかだと思ったんです。特に我われは60坪くらいの小さいお店で、しかも物流距離が長いですからね。店舗配送ルートの中で、店舗間の物流距離が1番長い場所は何と37キロ。その間、一店舗もないわけです。

だから、効率的に届けることが売ることに直結する。モノを売ることはモノを届けることに等しい。これはすごく肚に落ちました。

入社から2年後の2009年、55歳の時に社長を継ぎましてね。ベースは創業者がつくり上げてきたものを受け継いでいったわけですけど、綻びもありました。それは何かというと、我われのやっていることが地域や顧客に十分伝わっていない。企業のブランド価値を高められていない。これはもったいないと思いました。

〈糸数〉
社長就任後、まず着手したことは何ですか?

〈丸谷〉
すぐにやったのは広告宣伝費を2倍にし、テレビCMの出稿を増やすことでした。

また、我われは毎週約200万部の折り込みチラシを撒いている珍しいコンビニなんですよ。そもそもなぜチラシを撒くのか、このチラシは誰が見るのかと。それを社員に聞くと、水曜日の朝に「きょうの特売はこれですよ」とお客さんに知らせるためにやっていると答えます。

確かにそうなんですが、よくよく考えてみると、そのチラシは前の週の木曜日の夜にお店に入るわけです。で、それを見た店のオーナーや担当者が「これはチラシに載るから売れるんだな」と思って発注する。

つまり、チラシはお客さんの購買意欲を高めるものである前に、オーナーや担当者のモチベーションを上げる企画書みたいなものなんです。

〈糸数〉チラシを通じてお客さんはもちろんのこと、まず店のスタッフに対してメッセージを発する。これはブランド価値を高める上で大事な視点ですね。

〈丸谷〉
もう一つは、店舗の価値を伝えること。セイコーマートの来店客数は1日60万人以上いるわけです。北海道の人口は約500万人ですから、約12%の人が毎日何かを買いに来る。これはテレビ視聴率に置き換えるとゴールデン番組以上の数字です。こういう我われの店舗価値をナショナルブランドメーカーに示していきました。

あと、1万7000人のパートタイマーの教育ですね。ワークショップを年間1400回、各地で開催し、セイコーマートの理念やおもてなしの心について学んでもらっています。その過程で、高齢化した加盟店オーナーから店の経営を譲りたいという要望が多く寄せられたこともあり、店舗の直営化が進み、現在は8割が直営になっています。

最初の頃は「そんなワークショップなんてやってられない」という店も多かったんですけど、本社に支援部という部署をつくって、スタッフを研修に出すことで穴が開いてしまう場合には本社の支援部から人を派遣し、各店舗の人手を穴埋めしていきました。

そのようにしてワークショップを積み重ねてきたことの1つの集大成が、2018年の北海道胆振東部地震で道内全域がブラックアウト(停電)した際のスタッフの対応に表れていると思います。

〈糸数〉
ネット上やメディアなどでも称賛を浴びていましたね。

〈丸谷〉
我われは非常時に備えて、ガソリン車で発電できるキットを全店に用意し、ホットシェフコーナーもガス釜で調理しているため、停電でも営業できる体制は整っていました。しかし、当然働く人がいなければ営業できません。

あの時は、経営陣が指示していないにも拘らず、お客さんが困っているからお店を開けようとスタッフが自主的に行動し、日用品や温かい食事を提供することができたんです。多くのお客さんから、「ありがとう」「助かった」という声を掛けていただけたことは何よりでした。

〈糸数〉
大変素晴らしい地域貢献をされていますよね。

〈丸谷〉
地域貢献に関して言えば、人口900人とか1200人の町からコンビニが一店舗もないので出してほしいという要請をいただくことが結構あります。その要請に何とか応えようと行政とも協力しながら、赤字が出ないような仕組みをつくっていきました。礼文島や利尻島、奥尻島といった離島にも出店し、地域の方から非常に喜ばれています。

私が入社した当時は、「あそこは乗っ取り屋だ」と非難されることもありました。サプライチェーンを築くために企業を買収していきますから、そういうイメージがあったのでしょう。

ただ、これまでお話ししてきたように社内外に対して我われの思いを積極的に知らしめ、1つひとつの活動を真剣に取り組むことで、お客さんの見る目も変わってきましたし、段々とブランド価値も高まっていったように思います。


(本記事は月刊『致知』2020年2月号 特集「心に残る言葉」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇丸谷智保(まるたに・ともやす)
昭和29年北海道生まれ。54年慶應義塾大学法学部卒業後、同年北海道拓殖銀行入行。平成10年より米シティバンクの在日支店勤務。17年顧客・人材開発本部長。19年セイコーマート(現・セコマ)入社。専務、副社長を経て、21年社長就任。26年より内閣府経済財政諮問会議政策コメンテーターを務める。

◇糸数剛一(いとかず・ごういち)
昭和34年沖縄県生まれ。60年早稲田大学政治経済学部卒業後、同年沖縄銀行入行。63年沖縄ファミリーマート入社。取締役営業部長、常務、専務を経て、平成19年ファミリーマートに出向し、米ファミマ社長兼CEO。22年沖縄ファミリーマート社長。25年リウボウホールディングス社長。28年会長就任。

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