2023年08月07日
ChatGPT、囲碁の対局ゲーム、自動翻訳、クルマの運転支援、大リーグの審判……。人工知能(AI)に関するニュースが流れない日はないほど、この新技術の成長は日進月歩のようです。中には、近い将来、「ヒトの仕事を奪うのでは」といった不安の声も出ています。人工知能の可能性や日本の課題などについて、東京大学名誉教授の月尾嘉男氏に語っていただきました。※本記事の内容は2019年当時のものです。
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猛烈なスピードで進化するAI
〈月尾〉
将棋や囲碁の棋士に勝った、あるいは自動翻訳機や自動運転、AI兵器が実現するかもしれないなど、いま人工知能が私たちの生き方を大きく変えようとしています。
将棋も囲碁も一定の規則に基づいているため、記憶や計算が得意な人工知能に有利な分野だと言えます。しかし近年、人工知能は規則のない分野でも目覚ましい進化を遂げています。
いまの人工知能は、コンピュータが自ら学習するディープラーニング、ここ20年で1億倍速くなったコンピュータの計算能力、膨大な囲碁の棋譜などのビッグデータの活用、という3つの基礎的な技術を掛け合わせることで、これまでにない画期的なことができるようになりました。
話題になったのは、IBMの人工知能コンピュータ「ワトソン」の活躍です。約100万冊分の知識を3年ほどかけてワトソンに読み込ませた結果、2011年にアメリカの人気クイズ番組で歴代チャンピオン2人を大差で破って優勝したのです。
2016年には、東京大学の研究所の医師が医学論文約2000万本、薬剤の特許情報を約1500万本記憶したワトソンに、原因が特定できない女性患者のデータを与えたところ、十分で原因となる6個の遺伝子を発見し、治療薬まで提示しました。
自動翻訳もここ5、6年の間で非常に精度が上がっています。例えば、日本のタクシーに中国人が乗ってきても運転手さんは困りません。なぜなら、スマートフォンの音声自動翻訳機能が通訳を務めてくれるからです。
いま話題の自動運転に関しても、膨大な運転履歴などのデータ、多数のレーダー、あらゆる方向が見える10数台のカメラを自動車に搭載することで、人間よりも安全に運転できる技術が実現されようとしています。
日本はもはや人工知能後進国
ここからは、日本が具体的にどう人工知能と向き合い、国家百年の計を立てていけばよいのかを考えていきたいと思います。
まず知っておかなくてはならないのは、人工知能分野において、日本は世界の先端から大きな後れをとっている〝人工知能後進国〟であるということです。
例えば、今年発表された人工知能研究で最も進んでいる大学の順位を見ると、1位は中国の精華大学、2位がアメリカのカーネギーメロン大学、3位は中国の北京大学です。日本はようやく14位に東京大学が登場するくらいです。日本は人工知能の研究能力では遅れているのです。
そして、昨年〈掲載時点〉アメリカで開催された人工知能学会(第31回)にアメリカを上回って最も多くの論文を応募したのは中国でした。ここに、ドナルド・トランプ大統領が中国を敵視し始めた背景もあります。日本は6位とはいえ、中国やアメリカと比べれば大差がついています。
次に、国家の情報競争力の順位を見てみます。日本は27位で、香港や台湾、韓国にも負けています。中国が31位なのは、コンピュータの普及の遅れや共産党が情報を統制していることなどが影響しているからです。
もう一つ、日本がいかに出遅れた状況になっているかを表しているのが、企業の時価評価総額の順位です。
1992年の順位では、上から20位以内に日本企業が15社入っていました。ところが、2018年を見ると、1位から4位までGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれるアメリカのベンチャー情報企業で、6位・7位も中国のテンセント、アリババと、どちらも情報サービス関係の企業です。
日本企業では、トヨタが37位に入っているだけで、情報企業は100位以内に一社も入っていません。
これが日本の現実なのです。
(本記事は月刊『致知』2019年1月号 特集「国家百年の計」より一部を抜粋・編集したものです)
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現在、日本は大きな危機に直面している。三十余年前、世界の株式時価総額のトップ5はすべて日本企業が占めていたが、いまやトップ50にすら1社も入っていません。
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◇月尾嘉男(つきお・よしお)
昭和17年愛知県生まれ。40年東京大学工学部卒業。46年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。53年工学博士(東京大学)。都市システム研究所所長、名古屋大学教授等を経て、平成3年東京大学工学部教授。11年東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。15年東京大学名誉教授。その間、総務省総務審議官を務める。著書に『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)など。