AI後進国から脱せよ——月尾嘉男氏が語る日本の未来図

囲碁の対局ゲーム、自動翻訳、クルマの運転支援、大リーグの審判……。人工知能(AI)に関するニュースが流れない日はないほど、この新技術の成長は日進月歩のようです。中には、近い将来、「ヒトの仕事を奪うのでは」といった不安の声も出ています。人工知能の可能性や日本の課題などについて、東京大学名誉教授の月尾嘉男氏に語っていただきました。

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凄まじいスピードで進化するAI

将棋や囲碁の棋士に勝った、あるいは自動翻訳機や自動運転、AI兵器が実現するかもしれないなど、いま人工知能が私たちの生き方を大きく変えようとしています。

将棋も囲碁も一定の規則に基づいているため、記憶や計算が得意な人工知能に有利な分野だと言えます。しかし近年、人工知能は規則のない分野でも目覚ましい進化を遂げています。

いまの人工知能は、コンピュータが自ら学習するディープラーニング、ここ20年で1億倍速くなったコンピュータの計算能力、膨大な囲碁の棋譜などのビッグデータの活用、という3つの基礎的な技術を掛け合わせることで、これまでにない画期的なことができるようになりました。

話題になったのは、IBMの人工知能コンピュータ「ワトソン」の活躍です。約100万冊分の知識を3年ほどかけてワトソンに読み込ませた結果、2011年にアメリカの人気クイズ番組で歴代チャンピオン2人を大差で破って優勝したのです。

2016年には、東京大学の研究所の医師が医学論文約2000万本、薬剤の特許情報を約1500万本記憶したワトソンに、原因が特定できない女性患者のデータを与えたところ、十分で原因となる6個の遺伝子を発見し、治療薬まで提示しました。

自動翻訳もここ5、6年の間で非常に精度が上がっています。例えば、日本のタクシーに中国人が乗ってきても運転手さんは困りません。なぜなら、スマートフォンの音声自動翻訳機能が通訳を務めてくれるからです。

いま話題の自動運転に関しても、膨大な運転履歴などのデータ、多数のレーダー、あらゆる方向が見える10数台のカメラを自動車に搭載することで、人間よりも安全に運転できる技術が実現されようとしています。

人間を超える「シンギュラリティ」問題

情報革命では産業革命では考えられなかった事態が起こる可能性があります。それは、人工知能の驚異的な進歩がいずれ人間の知能を追い抜いてしまう「シンギュラリティ」問題です。

シンギュラリティは、情報技術研究の大家であり、アインシュタイン以来の天才学者といわれるレイ・カーツワイルが2005年に発表した考え方で、彼は「2045年には、人類全体の知的能力を1台のコンピュータが上回るだろう」と予言しました。

シンギュラリティの何が一番問題かというと、人工知能が複雑な計算を瞬時に行い、あらゆる物事の判断をしていく社会では、その判断結果は分かっても、そこに至るプロセスが人間の能力では分からなくなってしまうということです。実際、アメリカで既にそのような問題が起き始めています。

いまアメリカの幾つかの州では、刑務所に入っている犯罪者を仮保釈するかどうかの判断を、再犯歴などのデータを基に人工知能が行っています。ところが、その判断結果を判事が見ても、人工知能がどのような計算に基づき判断を下したのかが分からないのです。

あるいは、いま人工知能を搭載した無人の「AI兵器」の開発が進んでいます。これまでは、人間が遠隔地からコンピュータを使って無人兵器を操作し、爆撃などを行っていましたが、最新のAI兵器は兵器自らが戦場で様々な情報を収集し、自らの判断で敵を攻撃するのです。ただ、その場合にも、攻撃に至った判断のプロセスは人間には分かりません。

人工知能でよりよい社会をつくっていくためにも、人工知能の進化を人間がどう制御し、うまく活用していくかについて、真剣に考えていく必要があります。

巻き返すための進むべき道がある

日本が具体的にどう人工知能と向き合い、国家百年の計を立てていけばよいのかを考えていきたいと思います。まず知っておかなくてはならないのは、人工知能分野において、日本は世界の先端から大きな後れをとっている“人工知能後進国”であるということです。

例えば、人工知能研究で最も進んでいる大学の順位を見ると、1位は中国の精華大学、2位がアメリカのカーネギーメロン大学、3位は中国の北京大学です。日本はようやく14位に東京大学が登場するくらいです。日本は人工知能の研究能力では遅れているのです。

そして、アメリカで開催された人工知能学会(第31回)にアメリカを上回って最も多くの論文を応募したのは中国でした。ここに、ドナルド・トランプ大統領が中国を敵視し始めた背景もあります。日本は6位とはいえ、中国やアメリカと比べれば大差がついています。

次に、国家の情報競争力の順位を見てみます。日本は37位で、香港や台湾、韓国にも負けています。中国が31位なのは、コンピュータの普及の遅れや共産党が情報を統制していることなどが影響しているからです。

しかし、その中でも日本が生き残っていく道はあります。その一つは、これまで長い歴史の中で日本が蓄積してきた多様な文化・伝統、芸術などを、もう一度、価値あるものとして見直すことです。新しい技術を活用し、どのような社会を実現するのか、世界が注目する独自の目標を打ち出していくことです。

人工知能や情報技術を使って、少子高齢化や環境問題を解決する、あるいは、病気や障害などの様々な事情を抱えた人でも十分な収入を得られる平等な社会を実現するという目標を掲げ、それを実現していければ、再び世界が注目する国になれるはずです。

(本記事は月刊『致知』2019年1月号「人工知能が拓く日本の活路」の一部を抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

◇月尾嘉男(つきお・よしお)
昭和17年愛知県生まれ。40年東京大学工学部卒業。46年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。53年工学博士(東京大学)。都市システム研究所所長、名古屋大学教授等を経て、平成3年東京大学工学部教授。11年東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。15年東京大学名誉教授。その間、総務省総務審議官を務める。著書に『日本が世界地図から消滅しないための戦略』(致知出版社)など。

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