母として生きた奈緒の112日間——フリーキャスター・清水健

妊娠をしながらの乳がん治療。苦難の道を突き進んだ清水奈緒さんは、息子を出産した120日後に29歳の若さで天国へと旅立ちました。夫であるフリーキャスターの清水健さんは、現在、がん撲滅のために講演活動などに尽力しています。清水さんが語るシングルファザーとしての奮闘、活動に懸ける思いとは。(本記事は月刊『致知』2019年11月号 特集「語らざれば愁(うれい)なきに似たり」から一部抜粋・編集したものです)

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弱さを見せてもいい

――奥様が亡くなられた後、生後4か月の息子さんを一人で育てると決意されたと伺いました。

〈清水〉 
責任感からか分かりませんが、「いままで通り仕事を100%行いながら、子育ても自分で行い、周囲には迷惑を掛けない」と、意気込んでいました。

しかし、仕事をしながら生まれたばかりの子供を一人で育てるなんて、無謀だったと痛感させられました。そもそも、育児に対する知識が全くなくて一人では手も足も出なかったんです。いまなら無理なことは無理ですとはっきり言えますが、当時の僕は弱音を一切吐けなかったので非常に苦しみました。もちろん、近所に住んでいた僕の母や、既に小学生の子供がいる姉が親身になって助けてくれましたが、頼っていること自体にも罪悪感を抱いていました。

いわゆるイクメンと言えば聞こえはいいですが、常に息子を第一優先で仕事が二番。そのことに対して、仕事を蔑ろにしてしまっていないか、自分を責め続けました。

物理的に会社にいられる時間が減ったため、職場の人たちとコミュニケーションが不足し、上手くいかないことも出てきて、頑張れば頑張るほど空回りばかり。愚痴を言ったり相談ができればよかったのかもしれませんが、僕にはできませんでしたね。

――一人で苦悩を抱えられていたのですね。

〈清水〉 
妻の三回忌を迎える頃、パッと立ち止まって自分を客観視した時、愕然としました。自分でも驚くほどやつれていて、64キロあった体重は44キロにまで激減していたのです。

「妻はいなくなったけど、ちゃんとパパもやるし、仕事もやるから大丈夫! 負けるものか!」、そう自分に言い聞かせていたものの、心も体も追いついていなかったのだと思います。

――その状況をどう打開していかれたのですか?

〈清水〉
初の著書を出版し、講演の依頼が来るようになったことが大きな転機でした。

講演って、過去の自分の後悔も含めてすべてを振り返りながらお話しするので、かなりしんどいんですね。それでも自分の心と向き合い、ありのままの言葉ですべてを曝け出すと、参加者の皆さんが「よく話してくれた」「私たちも一緒だから」と涙を流してくださったんです。

それまでは格好をつけて、「しんどいけど僕は大丈夫」と、無理に笑おうとしていたんですけど、笑わなくていいんだ、弱さを見せてもいいんだと教えてもらいましたね。

――ああ、ありのままでいいのだと気づかれた。

〈清水〉
ある講演で、周囲を憚らずに大泣きされている60代の男性がいらっしゃいました。その方もシングルファーザーで、講演が終わった後、「大丈夫だ。俺を見てみろ。辛い時期もあったけど、いま娘は元気に大学生になっているから」と応援してくださったんです。こうした方々との交流一つひとつが、僕の支えとなっています。

瞳の奥に隠された真意

――人は誰しも、逆境や困難に直面することがあるかと思いますが、そんな時、どのような心持ちでいることが大事だと思われますか?

 〈清水〉 
自分の心に素直でいることだと思います。頑張って無理してしまうと、逆に心が弱ってしまいます。また、「助けて」というひと言を言えるかどうかも大切ですね。渦中にいると、「なぜ自分だけがこんな辛い目に遭うのか」と僻んだり、「全部自分で解決しよう」と背負い込んでしまうものです。僕自身もそうでしたが、その時支えてくれた大勢の方から、「一人じゃない」ことを教えてもらいました。

僕は妻の闘病のことを公言しないという選択をしたため、仕事場で僕の状況を知っていた人は僅かでした。それが正解だったのかどうかは分かりませんが、講演で全国を回るうちに、僕と同じように人知れず闘っている人がいかに多いのかを痛感しました。それは病気だけではなく、本当にそれぞれの環境の中で皆さんグッと堪えて頑張っておられるのです。

愁いや悲しみを語らず、我慢することも格好いいですし、時には涙を流すことも格好いい。その時々の瞳の奥にある真意を察することのできる人でありたいと、僕は思っています。

――瞳の奥に隠された真意を察することのできる人でありたい。

〈清水〉 
いま妻との写真を見返すと、不思議なほど、妻はどの写真も笑顔で写っているんです。将来に対して不安いっぱいでも、痛みで苦しくても、最高の笑顔で笑っている。この笑顔の意味を探していくことが、これからの僕の人生の宿題です。

僕は妻がいなくなってしまったことは、一生乗り越えられないと感じています。だって、5年経っても10年経っても、絶対妻のこと忘れないですから。格好悪くてもとことん引きずっていこうと思っています。ただ、生きている限り、笑わなきゃいけないし、前を向かなきゃいけないですから、妻がいないという現実を受け止めながら、これからも笑顔で全力で生きたいと思います。

よく、「奥様は29年間よく生き切りましたね」と声を掛けていただくことがあるんです。でもやっぱり、生き切ったはずがないですよね。もっとやりたいことはたくさんあったはずですし、生きたかったはず。ですからいま生かされている僕は、この瞬間を全力で生きよう、そう誓っています。


(本記事は月刊『致知』2019年11月号 特集「語らざれば愁(うれい)なきに似たり」から一部抜粋・編集したものです)

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◇清水健(しみず・けん)
昭和51年大阪府生まれ。中央大学文学部社会学科卒。平成13年読売テレビに入社。21年から夕方の報道番組「かんさい情報ネットten.」を担当し、「シミケン」の愛称で親しまれる。25年スタイリストの奈緒さんと結婚。翌年長男が誕生。その112日後に奈緒さんが亡くなる。28年一般社団法人清水健基金を設立し、代表理事に。29年読売テレビを退社し、子育てをしながら全国で講演活動を行っている。著書に『112日間のママ』『笑顔のママと僕と息子の973日間』(共に小学館)がある。

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