ノーベル化学賞・吉野彰博士の研究を支えた「執念深さ」と「まぁ何とかなるわいな」精神

2019年にノーベル化学賞を受賞した旭化成の吉野彰名誉フェロー。ノーベル賞の記念講演では、「困難は乗り越えられる」と力強くおっしゃっていたのが印象的でした。月刊『致知』2019年3月号に登場した際には、リチウムイオン電池など未踏の領域に挑み続けた半生を振り返り、「少々のことではへこたれない」厳しい姿勢と、「まぁ何とかなるわいな」という楽天的な考えを併せ持つことの大切さを強調しています。

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研究テーマ設定で3回続けて失敗

――企業で研究する道を選ばれていますね。

〈吉野〉
僕が旭化成に入社した1972年頃というのは、日本の化学産業そのものが曲がり角を迎えていた時期でした。既存の製品だけでなく、新しい事業をつくっていかなければという機運が高まっていたため、自分もチャレンジしてみたいと思ったんです。

とはいえ、最初は失敗の連続でした。入社3年目から、新しい技術の種を見つける「探索研究」に取り組み始めましてね。この探索研究というのは個人で研究テーマを設定し、2年をひと区切りにして見込みの有無が判断され、可能性があれば研究を続けられるのですが、可能性がなければ別のテーマを探すというもので、僕はこの段階で3回失敗しているんですよ。

――なかなか芽が出なかった。

〈吉野〉
そうですね。研究者の仕事というのは、大まかに言うと「仮説を立てる、実験する、考察する」というサイクルの繰り返しで、実に孤独な作業なんです。しかも基本的には自分で考えるしかないわけで、当然、分からないこともいっぱい出てくるから、しょっちゅう壁にぶち当たる。それだけに、いくら失敗しようとも、少々のことではへこたれない執念深さというのは必要でしたね。

ただし、100%それだけだとめげちゃいますから(笑)、「まぁ何とかなるわいな」という能天気さでバランスを取れるようになれないとうまくいかんでしょうな。

ジェットコースターに乗りながら針の穴に糸を

――優れた研究をするために大切なことは何だとお考えですか?

〈吉野〉
基本的には極めて単純な話です。自分が持っている知識、あるいは技術といったシーズ(種)と、世の中で必要とされているニーズ、この2つを線で結びつければいいだけのことなんです。ところが厄介なことにシーズもニーズも日々変化していく。

技術というのは日々進化していくので、昨日まで不可能だったことが翌日には可能になることがある。また、昨日までは世の中で必要とされていたことが、ある別の製品の開発によってわざわざ研究する必要がなくなることだってある。つまり、動いている物同士をどうやって線で繋ぐかという、非常に難しい問題なんです。

それがどれほど難しいかというと、何か難しいことを表現するのに「針の穴を通す」という言葉がありますよね。実際の研究開発では、ジェットコースターに乗りながら針の穴に糸を通すようなものだと僕は思うんです。5年、10年先のことを先読みできるかが大事になってくるんです。

目の前のニーズをいくら追いかけても、時間の経過とともにいずれそこからいなくなる。いま見えているターゲットに弾を撃ったところで、研究開発の世界では絶対に当たりません。そうではなくて、あっちの方向に向かって撃てば、こういう軌道を描いて当たるだろうと考える。そういう読みが大切ですね。


(本記事は月刊『致知』2019年3月号 特集「志ある者、事竟に成る」から一部を抜粋・編集したものです)

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日本の経済成長を牽引してきた科学技術の停滞は著しく、この現状を悲観する識者も少なくありません。しかし本当にそうでしょうか。令和元年にリチウムイオン電池の研究と普及でノーベル化学賞に輝いた旭化成名誉フェロー・吉野彰氏と、電子顕微鏡分野で世界シェア首位を誇る日本電子の会長・栗原権右衛門氏。両氏の熱論からは、立国の礎たる科学技術の活路、目指すべき立志のありようが見えてきます。【詳細・購読は下記バナーをクリック↓】

 

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◇吉野 彰(よしの・あきら)
昭和23年大阪府生まれ。47年京都大学工学研究科石油化学専攻修了後、旭化成工業(現・旭化成)に入社。60年リチウムイオン電池の基本概念を発表。平成29年から同社名誉フェロー。名城大学大学院理工学研究科教授。日本国際賞をはじめ数々の賞を受賞。

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