89年ぶりの逆転劇。箱根駅伝・駒澤大学を日本一へ導いた大八木弘明監督の指導哲学

左が大八木監督、右が太田監督

第97回東京箱根間往復大学駅伝で13年ぶり、7度目となる総合優勝を果たした駒沢大学。 最終区となる10区で大逆転し、 劇的な勝利を収めました。 同大陸上競技部の大八木弘明監督は、伴走車の中から選手に対して「男だろ!」の檄を飛ばすことで知られる名監督。同大野球部の長年率いてこられた名将・太田誠監督と「指導者のあり方」について語り合っていただきました。

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白羽の矢が立ったわけ

〈太田〉
大八木さんが(平成7年に)駒澤に戻ってきた時は、陸上部は大変な低迷期でしたね。

〈大八木〉
はい。当時私は現役を終え、実業団のヤクルトでコーチをしていました。それまで駒澤は29年間連続で箱根に出ていましたが、平成6年には予選会で通過校最下位の6位。かろうじて出場できたものの、来年の出場は難しいだろうと言われていました。

そこで当時、駒澤でヘッドコーチをしていた高岡公さん(現・顧問)から、「何とかしてくれないか」と声が掛かりました。高岡さんは私が24歳で大学に入った際、何かと世話を焼いてくれた先輩でした。母校への愛情というより、恩のある高岡さんに頭を下げられ、断れなかったというのがコーチに就任した本当の理由ですね。

〈太田〉
その方も大八木さんならと見込まれていたんでしょう。

〈大八木〉
ここまで低迷したら、本当に陸上に対して情熱のある人間じゃないと立て直せないと思ったそうです。コイツから陸上を取ったら生きていけないんじゃないかという情熱を、私から感じていたんじゃないでしょうか(笑)。

そうして平成7年にコーチに就任しましたが、もう練習時間の開始はバラバラ、寮の門限はあってないようなもので、食生活も自炊でインスタントラーメンを食べている学生もいて、規則も何もあったものじゃない。当然、箱根も出場できればいいなという程度で、優勝なんて誰も考えていないようなチームでした。

闘う集団へと変える

〈太田〉
生活態度を改善するところから始めていかれたわけだ。

〈大八木〉
そうですね。まず、自由参加だった朝練を6時に全員でやることに決め、午後の練習は3時半から。試合などやむを得ない理由がない限りは授業に出席させ、門限の時間には私が寮の玄関に立って取り締まりました。また肝心の食生活はうちの女房に頼んで、朝晩20人分の食事を作ってもらいました。

〈太田〉
奥さんが。素晴らしい内助の功だね。

〈大八木〉
はい。やっぱり毎日朝晩ご飯を作っている姿を見ていますから。しかし、中にはそれまでの自分たちのやり方を変えられ、反発する学生や練習についてこられない学生もいました。

「俺は優勝するチームをつくるためにコーチを引き受けた。それに賛同して、本気で陸上をやらないのであれば、辞めても構わない」

と言うと、本当に辞めていく学生もいました。結果として陸上が好きで、強くなりたいという学生だけが残りました。念願の箱根で初めて総合優勝したのは平成12年でした。

指導者は「心」と「姿」が大切

〈太田〉
指導者が心掛けるべきことがいくつかあると思います。まず、指導者には根気が必要です。自らやり遂げた上で選手にもやり遂げさせなければなりません。だから根気が大事。

次に丹誠、真心。それから情熱。やっぱり熱い思いがなければ選手はついてきません。それと要求する力。選手にこれまで以上のエネルギーとこれまで以上のプレーを要求する。これは大事なことだと思います。

そしてやっぱり知力が必要です。リーダーは動かなきゃダメです。汗をかいて、その中から得た知恵というのは強いですよ。パソコンから引っ張ってきたものは知恵にはならないんですよ。

〈大八木〉
いま太田先生がおっしゃったのは指導者が本気である、ということじゃないかと思うんです。私はその本気をどうやって学生に見せるかといったら、言葉ではなく姿だと思っています。やっぱり姿を見てもらったら分かるという感覚はあります。

〈太田〉
はぁ、すごいことを言ったね、いま。さすが名監督だ。


▼大八木監督に最新号(2021年5月号)でロングインタビューを行いました▼
低迷した13年間、どのような苦労を経て奇跡の大逆転を引き寄せ、チームを日本一へと導いたのか。総計8ページにわたり、常勝軍団をつくる指導の要諦をお話しいただきました。(リンクあり)


◉大八木弘明監督も『致知』を愛読されています◉
「人生の先輩ともいえる方々の言葉を読んで  いつも思うのは、自分が失敗してしまったことを  きちんと消化することが成功につながるということ。 そして、人の心や痛みを受け止めて、 人間的にいかに重要かということです。 この雑誌の中で得ることができた知識や方法論は、 自分の周りでもすぐに役立つものが多くあります。 ただ、環境が違えば同じことをやっても 結果は変わってくるもの。 ただ単に同じことを実践するのではなく、 自分の中でかみ砕き、アレンジしたものを、 選手に伝えていこうと、日々考えています」 (2015年12月18日発行『スポーツ報知』より)


(本記事は月刊『致知』2015年1月号 特集「堅忍不抜」から一部抜粋・編集したものです)


王貞治氏、稲盛和夫氏、松岡修造氏など、各界トップリーダーもご愛読! あなたの人生、仕事、経営を発展に導く珠玉の教えや体験談が満載、月刊『致知』のご購読・詳細はこちら各界リーダーからの推薦コメントはこちら
◇太田誠(おおた・まこと)
昭和11年静岡県生まれ。中学時代から野球を始め、浜松西高等学校から駒澤大学へ。東都リーグでは2度の首位打者に輝いた。卒業後は社会人の電電東京(現・NTT東日本)でプレーし、46年から母校駒澤大学野球部の監督に。以来35年間同大学野球部の指揮を執り、平成17年勇退。

◇大八木弘明(おおやぎ・ひろあき)
昭和33年福島県生まれ。福島県立会津工業高等学校卒業後、小森印刷(現・小森コーポレーション)を経て58年24歳で駒澤大学に進学。箱根駅伝に3度出場。卒業後はヤクルトで競技生活を続け、平成7年から駒澤大学陸上競技部コーチに就任。14年から助監督、16年に監督に就任。

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