いじめは「握手」では終わらない——弁護士・大平光代氏の体験談

例年、夏休み明けの9月は、子供たちの不登校や自殺が多いと言われています。背景にある原因の一つが「いじめ」。社会に巣くう深刻なこの問題について、教育再建に取り組む中村学園大学の占部賢志教授と、自身もいじめを受けた経験のある弁護士の大平光代氏が本音をぶつけ合いました。

いじめ事件でまったく触れられないこと

(占部)
このところ再びいじめ問題が社会問題になっています。私はこの現象は、ここで楔を打ち込むことができなければより深刻化していくことになるだろうと危機感を抱いています。

昨今の事件も含め、いじめが社会問題化してから様々な報道がある中で、一点だけまったく触れられないことがあるんです。それは、「いじめる子供をどうするか」ということです。

過去10年間、全国の小中学校から文科省に報告されたいじめ件数は約50万件です。できるだけ少なく報告したいのが人情ですから、実際はおそらくその2~3倍はあるでしょう。

高等学校の場合は、陰湿ないじめに対しては懲戒処分がありますが、小中学校の場合は出席停止措置といって、一定期間教室から離してマンツーマンの特別指導を行うことができます。しかし、その実施件数が50万件の中で僅か23件です。

いじめられた子に関しては、例えば校区への転校をしやすくするなど様々な特別措置が既に行われていますが、いじめる子も実は教育の対象なのです。いじめる子をまっとうにする取り組みを同時並行で行わなければならないのに、そこは誰も触れません。

見て見ぬふりの教師たち

(大平)
イギリスのフリースクールに視察に行きましたら、いじめる側のカウンセリングがあったんです。「どうして自分はいじめてしまうのか」と感情を吐露し、そこをきちっとケアしていく。どうしてこれが日本ではできないのだろうかと、日本の遅れを感じましたね。

これはいじめに限らず、例えばドメスティック・バイオレンス(DV)なども同じで、暴力を受ける側のケアはいろいろあっても、振るう側の心を立ち直らせない限り、根本的な解決にはなりません。

(占部)
いじめを起こす子供たちをアンタッチャブルな存在として、社会も学校現場も、その教育を避けてきたんですよね。なぜならその指導方法が分からないからです。

しかし、全国津々浦々探せば荒れ果てた子供たちを叩き直して、見事に教育したケースが少数ですがあるのです。

(大平)
本来、文科省の役割はそういうケースを掬(すく)い上げ、広く伝えることですよね。大津のいじめ事件(大津市中学2年生いじめ自殺事件)の隠蔽に対して学校や教育委員会が大変批判されましたが、あれは文科省の責任も大きいと思うんです。

いじめはあってはならない、いじめゼロを目指せと。そしていじめを発生させたクラスの担任は能力がないとされる。だから予兆があっても、教師たちは「知らなかった」と見て見ぬふりをするのです。

健全な学級経営ではいじめは起きない

(占部)
実際、いじめに関わっているのは数人で、クラスの大半が傍観者。(中略)ひょっとすると、傍観者は教育の力によって、(正義感の強い)仲裁者側に回る可能性を秘めていると、そういう望みが見えると思うんです。

(大平)
それは私も常々思っていることでして、心弱き傍観者は1人では何もできません。でも、そういう子たちが集まって、しかもそこに大人が1人加わって強固なものにしていけば、圧倒的に数が多くなるわけです。そうなると、いじめる側は自然と声が小さくなります。

(占部)
まして子供の世界ですから、そういう雰囲気が出てくれば、一気に変わるんですよ。ただ、如何せん力量のある教師の数が年々減ってきています。

いま学校の中で一番衰えているのは、教師の「学級経営力」です。いい学級をつくって、健全に経営をしているクラスに深刻ないじめが発生することは絶対にないんです。

私は35年の教師生活でただの一度もいじめを深刻化させたことはありません。コツは学級経営にあります。

(大平)
やはり教師の存在は大きいですね。私の時は、「よく話しておいたから、みんなの前で握手して仲直りせい」と(笑)。なんの解決にもなりませんでした。

(本記事は月刊『致知』2013年1月号「教育の視点 いじめにも打ち手はある」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

占部賢志(うらべ・けんし)
昭和25年福岡県生まれ。九州大学大学院博士課程修了。福岡県の高校教諭として奉職、平成23年3月退職。同年4月より中村学園大学教授に就任。福岡県立学校生徒指導主事研究協議会事務局長、福岡県いじめ問題対策協議会委員など歴任。月刊『致知』に「日本の教育を取り戻す」を連載中。

大平光代(おおひら・みつよ)
昭和40年兵庫県生まれ。中学時代にいじめを受けて自殺を図る。その後、非行に走り、16歳で暴力団の組長と結婚。22歳の時、養父・大平浩三郎氏と出会い立ち直り、29歳の時に司法試験に一度で合格し弁護士となる。平成12年に体験記『だから、あなたも生きぬいて』(講談社)を出版、260万部の大ベストセラーになる。

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