アドラーとドラッカーは何を伝えたか——心に留めたい3つの教え 岩井俊憲×佐藤等

現代心理療法を確立したアルフレッド・アドラー、マネジメントの父と称されるピーター・ドラッカー。それぞれの偉人に学び、その教えを広く社会に伝えている岩井俊憲さんと佐藤等さんに、ストレス社会や多様性社会といわれる現代社会を生き抜くヒントを語り合っていただきました。

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劣等感は悪者ではない

〈佐藤〉
岩井先生が特に心に留めているアドラーの言葉は何ですか?

〈岩井〉
3つに絞ってご紹介したいのですが、1つは、『生きるために大切なこと』に出てくる「人は誰でも劣等感を持っている。劣等感それ自体は病気ではない。むしろ健全な向上心に繋がるきっかけになるだろう」という言葉です。

劣等感と聞くとだいたいネガティブな印象を持ちますよね。ただよく吟味すると、アドラーの文脈では2通りの意味があるんですよ。1つは他者との比較に基づく劣等感です。あの人に比べて自分は劣っている。これは反対に、あいつより自分はすごいという優越感を生み出して、上下関係ができるんですね。これは劣等感の弊害です。

もう1つは、目標を持つことによる劣等感があるんですよ。いまよりももっとよくなりたいと目標や理想を持つと、現状との比較で陰性感情が出ます。悔しい、もどかしい。これも劣等感なんですね。

アドラー

〈佐藤〉
なるほど、対象が異なるわけですね。

〈岩井〉
アドラー自身、子供の頃にくる病を患って、大人になっても身長が154センチしかなかったんです。ですから、アドラーの1907年の著書は『器官劣等性とその心理的補償の研究』で、他者との比較による劣等感がテーマだったんですけど、やがて自分の目標と現実とのギャップによる劣等感に転換します。

で、アドラーが盛んに言うのは、後者の劣等感は進歩向上のモチベーションになるから、病気でも悪者でもないと。むしろ、大事な味方であるというメッセージを発しているんです。

2つ目は、「何度も何度も個人心理学は、『共同体感覚』と『勇気』という標語を示さなければならない」。『子どもの教育』という本の中で、アドラーは「共同体感覚」と「勇気」の2つを車の両輪のように語っています。共同体感覚に欠けている人は、一方では勇気が欠如している。勇気がないからこそ人の足を引っ張る。だから自分の勇気づけができていると、人に対しても貢献できるんだと捉えるわけですね。

〈佐藤〉
己が満ち足りて初めて人に施しを与えることができると。

〈岩井〉
3つ目は、この言葉です。

「誰かが始めなければならない。他の人が協力的でないとしても、それはあなたには関係ない。私の助言はこうだ。あなたが始めるべきだ。他の人が協力的であるかどうかなど考えることなく」

これはアドラーが講演で話している言葉で、変革の思想なんです。研修をやっているといろんな人がこう言います。「この研修を上の人に受けてほしい」って。「上の人が受けて変わらない限り、この組織は変わりませんよ」とおかしなことを言うんですよ。それは大きな勘違いだと私は言っています。

あなたは何かを変えられるんですか。変えるための行動をしていますか。アドラーは、他人様を変えようとするのではなく、あなた自身が変えてみせることが大事だと言っているんですよ。

〈佐藤〉
いま変革についての話がありましたが、ドラッカーの本にも、「継続と変革」という言葉が並列で出てきます。やはり目的と手段の関係で、継続するために変化するという読み方をしないといけないと思うんです。

また、物事を変える時はどちらか一方だけ変える。明治維新もそうですね。保存をしながら世の中を変革していくっていう変え方。そうじゃないとうまくいきません。これが保守主義の本質です。

未来志向というのは何かを変えていくんですけど、過去を否定して変えていくのではなく、過去の基盤に立って未来をつくっていく。道具をつくりながら新しいものもつくるというのは無理で、世の中を変えるための道具はいま持っているものでしかないよと。これがドラッカーの取った手法なんです。

だから、ドラッカーは自分のことを漸進的保守主義者という言い方をしています。

ドラッカー

〈岩井〉
不易と流行をしっかり弁えなければいけませんね。


◇岩井俊憲(いわい・としのり)
昭和22年栃木県生まれ。45年早稲田大学卒業後、外資系企業に勤務。人事課長、総合企画室課長などを歴任。60年ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。アドラー心理学に基づくカウンセリング、研修、講演、執筆を手掛ける。中小企業診断士。著書は『アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)など50冊を超える。

◇佐藤等(さとう・ひとし)
昭和36年北海道生まれ。59年小樽商科大学商学部商業学科卒業。平成2年公認会計士試験合格。佐藤等公認会計士事務所開設。14年同大学大学院商学研究科修士課程修了。主宰するナレッジプラザの研究会として「読書会」を800回にわたって開催。編著に『実践するドラッカー』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。

(本記事は月刊『致知』2019年9月号 特集「読書尚友」から一部を抜粋・再編集したものです。電子版はこちら)

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