村井温×井上康生 社員や選手の「自己マネジメント能力」をどう育むか

 

日本を代表する民間警備会社であるALSOKの代表として日本の安全を守ってきた村井温さん。リオオリンピック全7階級メダル獲得という快挙を成し遂げた全日本柔道男子代表監督の井上康生さん。それぞれの分野で、後進の育成にも尽力してきた二人が語り合う、自己マネジメント能力を備えた人材の育て方とは??

自分で考える人材をつくる

(村井) 

今回のテーマは「内発力」だそうですが、まさに井上さんがいま言われた「熱意」「誠意」「創意」は、すべて内発力から来ているものですね。井上さんは選手やチームの内発力を高めるために大事なことは何だと思いますか。

(井上) 

一つには、「自己マネジメント能力」を持った選手をいかに育てるかが大事だと思います。

特に日本のスポーツ社会ではどうしても平均を好む、突出したものを押さえつけてしまう部分があります。「先生と選手」という関係性が強すぎ、例えば、先生が言ったことに対して疑問を持とうが何だろうが、「はい、分かりました」ですべてを済ましてしまう。

じゃあ、あなたは本当に理解しているのかと聞いてみると、本人は何も理解していないということが結構起こっているのです。

スポーツ社会で目上の人に敬意を払うことは絶対に必要です。しかし、最終的に戦うのは選手ですから、本来は彼ら自身が自覚と意識を高く持って戦える指導法を考えていかなくてはいけません。

(村井) 

選手の自己マネジメント能力を高めるために、どのような取り組みをしてこられましたか。

(井上) 

これは日本代表に選ばれるような、意識の高い選手たちの集まりだからできることでもありますが、とにかくいろいろな情報や知識をどんどん与えていっています。そして、それを自分自身で選択して考え、オリジナリティに変えていくのはあなたたちだと。

例えば、日々選手と向き合う中で、逆に「あなたはどう思っているの?」と聞き返し、彼らの考えを引き出すような環境をつくったり、合宿の時に「自分はこういう練習がしたい」と言ってきた選手には、皆で統一しなければいけないところは統一しつつ、望むものを提供してあげる。あるいは、合宿中に柔道とは異なる分野で活躍している方に講義してもらう、他のスポーツを経験してもらうといったことも実践してきました。

(村井) 

なるほど。選手が自分自身で考える環境をつくっていくと。

(井上) 

村井会長は、社員や組織の内発力を高めるために特に心掛けてきたことはございますか。

(村井) 

スポーツと違って、普通の企業や組織では全員が「ぜひこの会社で働きたい」と燃えて入社してくるわけではありません。ですから、そういう社員たちをどうやって持続的に燃え続けられる集団にしていくかが大事なのです。

実際、当社にも業績があまりよくない支社があり、独立の別会社にすれば従業員らも皆燃えて働いてくれると思って独立させたのですが、やはり、やる気になったのは最初だけで、しばらくすると元に戻ってしまいました。警察に勤めていた時にも、警察署のトップに燃えた人が来ると、一時的には組織全体を引っ張ってはいくのですが、その人が転勤などでいなくなってしまうと、また元に戻るということが結構多くありました。

(井上) 

持続しないのですね。

(村井) 

それでどうしたらよいかということですが、私の結論は先ほどの北宗禅の話と同じで、絶えずいろんなモチベーションを繰り返し与えながら、1人でも10人でもいいので少しずつ社員の意識、内発力を高めていき、それを会社の社風、組織の「気風」にまで育てる他ないということですね。

世の中には社員の意識、やる気を高める方法が書かれたノウハウ本がたくさんあるようですが、やはり、根気強く、時間を掛けながらも着実に進めることで、初めて社員たちの自発性、内発力も出てくるというのが私の実感です。

あと、内発力があり、成長していく社員というのは、素直で何事でもよいほうに解釈していく明るい人です。どんなに優秀でも、性格が暗かったら伸びませんね。

(本記事は月刊誌『致知』2018年9月号「内発力」から一部抜粋・編集したものです。『致知』にはあなたの人間力・仕事力を高める記事が満載です! 現在特典付き購読キャンペーンを開催中!詳細・ご購読はこちら

◇村井・温(むらい・あつし)

昭和18年大阪府生まれ。41年東京大学卒業後、警察庁入庁。富山県、熊本県、福岡県警察本部長、中部管区警察局長などを歴任し、平成8年退官。預金保険機構理事を経て10ALSOK副社長、13年社長などを経て24年より現職。

◇井上康生(いのうえ・こうせい)

昭和53年宮崎県生まれ。平成9年東海大学入学。11年バーミンガム世界選手権大会100キロ級優勝を皮切りに、12年シドニーオリンピック柔道100キロ級金メダル、13年全日本選手権大会100キロ級で優勝し、3冠王者に輝く。同年東海大学卒業。東海大学大学院体育学研究学科体育学専攻修士課程修了後、ALSOK入社。20年現役引退。東海大学柔道部副監督などを経て、2411月より全日本柔道男子代表監督に就任。リオオリンピックで史上初の全7階級メダル獲得を達成。

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