年間2万人が自殺する「自殺大国・日本」への処方箋

年間2万人以上が自殺する、自殺大国・日本。なぜそれほど多くの人が毎年自ら命を絶っていくのでしょうか。自殺したいという人々の電話相談に長年向き合ってきた国際ビフレンダーズ「東京自殺防止センター」理事・研修委員長の村明子さんに、自殺問題への処方箋を教えていただきました。

自殺大国日本の現実

(村)

2万598人、これは警察庁が今年1月に発表した2018年の自殺者の数です。年々減少傾向にあるものの、年間2万人以上が自殺するというのは、先進国の中でも非常に高い水準です。

国が統計を取り始めた1978年以降の推移を見ると、それまで2万人台で推移していた自殺者数が初めて3万人を超えたのは1998(平成10)年。前年と比べ8千472人、34・7%増と急増しています。都心の鉄道で毎日のように人身事故が起こるようになったのもこの頃からです。

自殺が急増した背景の一つには、バブル崩壊に伴う日本経済の悪化が考えられます。当時、証券会社や銀行が相次いで破綻、失業や就職難の深刻化が社会問題となりました。実際この頃に増えているのは働き盛りの男性の自殺です。

それから、他の先進国と比べ日本の自殺者が多くなっている要因には、日本社会では個人の多様な生き方、価値観が受け入れられにくいという点が挙げられます。

いまは少しずつ変わってきましたが数十年前には、有名大学を卒業し、新卒で大手企業に入らなければ幸せになれない、進学や就職がうまくいかず、いったんレールから外れた人は負け組だというような、画一的な価値観が社会を覆っていました。幼い頃から自分の意志を問われるよりも「こうあるべき」姿を求められる日本社会の生きづらさも、自殺率の高さに繋がっていると考えられます。

また、日本の自殺原因で一番多いのは「健康問題」だとされていますが、これには身体的な疾患だけでなく、鬱病など精神疾患も含みます。例えば、仕事のストレスから鬱病になり、不眠が続くなどして体調も悪化し、家族や友人とのコミュニケーションがうまく取れず孤立して自殺する―。

そのように「健康問題」といっても、身体的・精神的な要因が幾重にも重なって自殺に至るケースが多いのです。

多様性を受け入れる社会へ

(村)

私たち国際ビフレンダーズでは、自殺を考えている人々の苦悩・心の叫びを、ボランティアの相談員が電話で直接聞き、受け止め、感情に寄り添うことを基本方針として活動してきました。「ビフレンダーズ」という組織名称は、「BE+friend-ing」という言葉から来ていますが、これには「友達になる」=「寄り添い・支える存在になる」という意味があります。 

現在は、全国五か所(岩手、東京、愛知、大阪、宮崎)に国際ビフレンダーズの自殺防止センターがあり、365日、夜間帯を中心に年間1万件以上の相談に対応している状況です。私が縁あって当会のボランティア相談員になったのは2003年ですが、私個人としても、これまで5000人以上の相談に向き合ってきました。 

具体的には、相談者(コーラー)の「死にたい」という悲痛な訴えを、ボランティアの相談員が友人のようなスタンスで聴いていきます。その際に大事なのは、コーラーが抱いている思いや感情を友人としてどこまでも尊重し、「死んではいけません」「こうしたほうがいい」などと、相談員の価値観を押しつけず、相手のありのままの意思を尊重することです。 

ですから、たとえコーラーが「道具も用意して、すぐにでも死ぬ準備はできています」と電話をかけてきても、「死にたいほど辛いのですね」「楽になるには死ぬしかないと思われているのですね」とその方の思いを受け入れます。 

そうすると、最初は思い詰めた様子だったコーラーも、「きょうは自分の思いを聴いてもらえてよかった」「自分の気持ちを受け入れてもらえて、生きていていいのだと思えた」などと、次第に心のもやもやが薄れていくこともあります。 

私もかつて30代くらいの女性から「人生、何をやってもだめでした。もう死ぬしかない」という切迫した相談を受けたことがあります。 

20分ほどその方の話を伺って、電話を切る際に「あなたと話しても、どうにもならないことが分かりました」と絶望したような口調だったので、何もできなかったと肩を落としたのですが、「でも、これだけ話ができたから、きょうは死ななくていいと思えました」と最後に言ってくださったのです。 

電話相談員を長年続けてきて思うのは、自殺したいと電話してくる方のほとんどが、何かの答えを求めているわけではなく、自分の話を親身に聴いてくれる人を求めているということです。それは裏返せば、多くの日本人が日々の生活の中で安心して自分の苦悩や弱さを打ち明けられる人間関係、環境にないということでしょう。 

日本は戦後、経済中心、効率優先の競争社会になり、いつしか自分と他人に強者・弱者の優劣をつけ、他人の気持ちに寄り添う、それぞれの立場を理解して耳を傾けるという、人間として生きる上で最も大事なことが置き去りにされてしまったような気がします。 

また、「こう生きなければいけない」「これができなければ評価されない」といった価値観に縛られ、自分の本心、欠点や弱さを周囲に打ち明けにくい社会になっているように感じます。日本では病気になっても、苦しいことがあっても、なかなかそれを上司に言い出せず、会社を休むことにも罪悪を感じる人が多いといいます。 

日本の深刻な自殺問題を解決していくためには、他人に対しては多様な生き方、価値観を許容していく、自分に対しては人間であれば誰しも持っている欠点や弱さを否定せず、当たり前に周囲に相談できる社会を実現していくことが不可欠だと思います。そして、何より伝えたいのは、周囲や所属する組織よりも、自分の存在を大事にしてほしいということです。

これからも、自ら死を選ばざるを得ない苦しい状況にある人たちの心に寄り添い続け、誰もが本心を打ち明けられる、互いの本心を受け入れていける寛容な社会の実現に尽力していきたいと願っています。 

(本記事は月刊誌『致知』2019年5月号「枠を破る」から一部抜粋・編集したものです。『致知』にはあなたの人間力・仕事力を高める記事が満載です! 『致知』の詳細・ご購読はこちら

◇村明子(むら・あきこ)

昭和33年生まれ。平成1040歳の時に東京自殺防止センターが設立したことを新聞で知り、12年に東京自殺防止センターのボランティアを始め現在に至る。認定NPO国際ビフレンダーズ東京自殺防止センター 電話相談員 理事研修・渉外担当。新宿区・千代田区・大田区等自治体自殺防止対策策定会議委員、全国自死遺族総合支援センター理事、自殺防止講演、自治体・民間団体等のゲートキーパー研修講師、相談員養成・継続研修講師を務める。

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