【WEB限定連載】義功和尚の修行入門——体当たりで掴んだ仏の教え〈第36回〉土佐清水で巡り合った人々とのご縁

小林義功和尚は、禅宗である臨済宗の僧堂で8年半、真言宗の護摩の道場で5年間それぞれ修行を積み、その後、平成5年から2年間、日本全国を托鉢行脚されました。今回、足摺岬から再び市内に戻りますが、そこでも多くの人と縁を結びます。

 

導かれるように宿泊した旅館

翌朝、広間に行くと、白装束のお遍路さんの一団がワイワイ、ガヤガヤ。賑やかに食事をしている。

「どこで、お経を上げたらいいか」と戸惑っていたら、女将(おかみ)さんが「ここで」と神棚に案内された。

「御僧侶がお経を上げます」と声が掛かると白装束のお遍路さんたちがどーっと集まってきた。

讃、理趣経……最後に南無大師遍照金剛と御宝号を繰り返して30分ほどで終えた。

お遍路さんには、やはりお経である。お経が有り難い。これがお大師様の御褒美(ごほうび)か。合掌しながら喜んでくれた。

その後でお食事を頂いた。女将さんが給仕をしながら、こんな話をした。

女将 「不思議なのよ。昨夜。ウサギの餌をやろうと外に出たのよ」

私 「ウサギの餌やりですか」

女将 「あんなに遅い時間に餌をやったことは一度もないんですよ」

私 「ほう」

女将 「そしたら、あなた、お坊さんがいたでしょう」

なるほど、確かに不思議だ。私が5秒先に行っていたら、女将さんとはご縁がなかった。また、私が5分遅れていたら、これもご縁がない。

その旅館の門前を通過する2秒3秒。そのタイミングで……、女将さんと出逢った。偶然なのか、というよりこの海上館旅館(現在はホテル海上館)に宿泊するように導かれたのか。不思議なことだ。

女将さんはその後、5、6年で亡くなられた。しかし、この旅館にご縁を得て30年。雨が降ろうが風が吹こうが、岬の金剛福寺さんへのお参りを1日として欠かされたことがなかったという。神仏のご縁のままに生きた幸せなお方であった。

ともあれ、宿泊の御接待を頂いて、そこを出発した。

真言を唱えた後の不思議な光景

足摺岬の東側を北に向かい再び土佐清水市に出た。そこを西に市街地を一軒一軒、托鉢(たくはつ)をした。一軒の店の前で托鉢したらガラス戸が開いた。

「お茶でもどうですか」

中に入って二言三言、話を始めた時、白装束をしたお遍路さんが4人。どかどかと入って来た。この家の仲間らしい。

お遍路とは。やはり、お四国だ。ハイキング、山登りより気軽にお寺をお参りする。神仏と向き合うのだ。そうした庶民の生活のなかに現実に生きている。すばらしい。

一時、何やらお互いに話をしていた。先ほどの女性、Tさんが私のそばに来て、勧めた。

「泊まって行きませんか」。私に依存はない。素直に承諾した。

その日の晩であったか、仏壇の前でお経を上げた。終るとTさんが、「ここはお不動さんが強いんです。お仏壇に大きなお不動さんが現れました。お不動さんが大変喜んでいると思います」。

この方も霊感があるのだ。それが分かった。「私の霊感は大したことはないんです」
と、いたって謙虚であるが、ここでも数日滞在した。

Tさんと御祓いに行った。家祓(やばら)いだったか。師匠のやり方で御祓いをした。私はローソクに火を灯し線香を点け、光明真言(こうみょうしんごん)を唱えながら用意した洗米と塩をひたすら混ぜ合わせた。

真言を一回唱えるたびに数珠を、一珠(ひとたま)括(くく)る。丁寧に108回繰り返した。終るとTさんがすかさず口を開いた。

「真言が終る寸前。その洗米がパーッと光ったんです」

私には白い米と塩だけ。無論その光は見えない。しかし、Tさんが嘘をつく人ではない。普通の会話の出来る人だ。人間にはその思いというか、念というか。それが見える。そうした人がいるようだ。

ともかく、その洗米をお供えしてお経を上げ御祓いを済ませた。

さて、その洗米であるが、それは家という建造物の周囲に撒いた。魔除けである。果たしてその洗米に力があるか……というよりその洗米に力があると信ずる心が魔を祓うのではないか。

確か、新約聖書の中でイエスさまが奇跡をおこす。するとそれは〈あなたの信仰があなたを救った〉という言葉があった。

詩吟の先生の時にも家祓いをした。一部屋一部屋、真言を上げて御祓いをしていると、「そこ、その部屋だ」という。

そこで、御祓いを続けた。するとその家の奥さんが立ち上がり廊下を歩き出した。私も真言を上げながら付いて行くと、玄関から外に出た。庭にある祠(ほこら)の前で頭をカクッと落とすと霊が出て行った。

また、Tさんが面白い話をした。何号台風だったか。高知を直撃した。港は無数の漁船が繋留(けいりゅう)されていた。南から強風が吹きつけたら危険だと、湾の入り口に強固な防波堤を造った。

しかし、大自然の猛威である。台風が吹き荒れた。それを窓から見ていたら御不動さんがその防波堤を必死に護っている。それが見えたという。

ジーッとしてはいられない。〈負けるな〉とカッパを着て台風の吹く中、一升壜(いっしょうびん)を抱えて防波堤の近くまで行った。壜の蓋を取り、海に酒を撒いたという。すると御不動さんが俄然元気になったという。

つづく

〈第37回〉霊気溢れる観自在寺の岩山と不動明王

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小林義功
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こばやし・ぎこう――昭和20年神奈川県生まれ。42年中央大学卒業。52年日本獣医畜産大学卒業。55年得度出家。臨済宗祥福僧堂に8年半、真言宗鹿児島最福寺に5年在籍。その間高野山専修学院卒業、伝法灌頂を受く。平成5年より2年間、全国行脚を行う。現在大谷観音堂で行と托鉢を実践。法話会にて仏教のあり方を説く。その活動はNHKテレビ『こころの時代』などで放映される。著書に『人生に活かす禅 この一語に力あり』(致知出版社)がある。

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