すべての人に伝えたい、不世出の教育者・森信三の珠玉の教育論

〈写真右が寺田一清氏、左が浅井周英氏〉
国民教育の師父と謳われた森信三師。その活動を傍で支え、同時に長年にわたって薫陶を受けた弟子の寺田一清さん(森師が創設した「実践人の家」元常務理事)が亡くなって1年が経ちました。「森先生の教育論は、極めて有益な人生の心得でもある」。そう説いた寺田さんは『森信三一日一語』などをまとめ、師の教えの普及伝道に尽力されました。同じく「実践人の家」の浅井周英さんとの対談から、その生涯を貫いた切願に思いを馳せます。

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ネオ行者(=現代的実践者)たれ

〈寺田〉
森先生の教育論は、極めて有益な人生の心得でもあると思います。中でも特に大切な心得を私が3つ選ぶとすれば、1つは、

 「人はすべからく 終生の師をもつべし」

と。森先生はこれを口を酸っぱくしておっしゃっていましたね。よき師を持て、生涯の師を持てということをこれほど強調した人は森先生が随一でしょう。そして私にとって生涯の師と言える人は、森先生をおいて他にありません。 

2つ目の心得は、 

「ネオ行者たれ」

ということ。ネオ行者とは現代的実践者という意味で、「それぞれが、一人一形式で、日常生活において、実践の行者たるべし」と説かれています。

ゴミ拾いでも、挨拶でも、これだけはやろうという実践の三箇条を各自がつくり、それを守り切れと。この言葉を私は心に刻みつけておきたいですね。 

3つ目は、仕事処理の原則です。

よき意味の拙速主義が大事で、80点級の出来映えでよいから絶対に期日に遅れるなと。そのためにも即今着手、一気呵成に処理せよ。きょうなすべきことを明日に延ばすな、ということを森先生は強調なさいました。 

この3つの教えは、まさしく私の人生心得帖といえますね。

〈浅井〉
1日で終わらない仕事も、半分を超してから終えるようにという目処も示してくださっていますね。そうすると後がやりやすいと。これもありがたい教えで、私もいつも心掛けてきましたから、いまも何かやる時には自然と、きょう中にここまでやってから寝ようというふうに考えるんです。 

私自身の人生の心得としては、 

「時を守り、場を浄め、礼を正す」 

という教えも挙げたいですね。これは1つの秩序を立てていくための鉄則です。この教えをいただいたことは本当にありがたかった。 

授業では、終わりのチャイムが鳴っても延々とやる先生が多いんですが、休み時間にトイレに行きたい子もあるのに、その時間が短くなってしまいます。森先生は、たとえ中途半端であっても、時が来たら授業を終えなさいと。これは徹底しておっしゃっていました。 

それから、これは人生の心得という点で印象に残っている話なんですけど、森先生が77になられる年に「先生、今年は喜寿のお祝いですね」と申し上げたら、「いや78や。去年までは満年齢、今年は数えにしたんです」とおっしゃるんです。理由を伺うと、 

「皆さんから喜寿のお祝いやと騒がれたら、バケツの底に穴があいてさっぱりダメになってしまう。そこを淡々と乗り越えるために、節目の年は満年齢か数えで乗り越えていきなさい」 

とおっしゃったんです。 

〈寺田〉
含蓄のあるお話ですね。私も先生から「バケツは底が大事。チューブに穴をあけてはならない」と言われたことがあります。

心斎橋の講演で見せた「気迫」

〈寺田〉
先生は年を重ねることに対して、

「人間はおっくうがる心を刻々に切り捨てねばならぬ。そして齢をとるほどそれが凄まじくならねばなるまい」 

という戒めも残していらっしゃいますね。 

〈浅井〉
森先生は79歳の時に、「服装革命」だとおっしゃって、それまで着ておられた衣服を全部処分され、百万円ほどかけて若い人が着るような真っ白なスーツや、真っ赤なネクタイを買い求められました。 

奥様とご長男を相次いで亡くされて大変な時期だったんですが、ここで老け込んではいかん、衣服を一新して精神的革命を起こすのだとご自分を奮い立たされたんですね。 

その頃、実践人の家の1階で会議をしていた時に、「あの本、ちょっと取ってくる」と、急な階段を2階までタッタッタッタッと駆け上がって行かれたのを見てビックリしましてね。「先生、そんなに駆け上がったら危ないですよ」と申し上げたら、「年を取るほど俊敏に動かなければならんのだ」と怒られました(笑)。あの時のことはいまでも脳裏に焼き付いています。 

〈寺田〉
あの頃の先生の気魄はすごかったですね。周りの者が恐れをなすほどでした。 

〈浅井〉
心斎橋で森先生の講演会をやった時のことも印象に残っています。京都大学の有名な先生が前座で、マイクの前に座ってお話しになったんですが、それが終わるや森先生は前に出て演台をパチン!と叩いて、

「年を取るほど講演は立ってやらねばならん」

とやられた。可哀相に前座の先生、見る見るしぼんでしまって(笑)。迫力が違いましたね。


(本記事は月刊『致知』2015年5月号 特集「人生心得帖」から一部抜粋・編集したものです)

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◇寺田一清(てらだ・いっせい)
昭和2年大阪府生まれ。旧制岸和田中学を卒業し、東亜外事専門学校に進むも病気のため中退。以後、家業の呉服商に従事。40年以来、森信三師に師事、著作の編集発行を担当する。「実践人の家」元常務理事。編著書に『森信三先生随聞記』『森信三一日一語』(ともに致知出版社)など多数。

◇浅井周英(あさい・しゅうえい)
昭和11年和歌山県生まれ。35年和歌山大学卒業後、教師となる。50年和歌山市教育委員会に入り、平成4年同教育長、8年より同助役を務める。18年森信三師が創設した「実践人の家」理事長。 

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