劇団四季の人材育成——浅利慶太が大事にした「祈り」とは?? 池田雅之×吉田智誉樹

「劇団四季」を創設し、日本の演劇界に革新をもたらした浅利慶太さんは、どのように日本を代表する演劇集団をつくりあげたのでしょうか。その志を継ぐ四季社長の吉田智誉樹さんと、浅利さんと親交の深かった早稲田大学名誉教授の池田雅之さんに語り合っていただきました。

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「祈り」が人を成長させる

〈池田〉
四季の舞台に立つ俳優さんたちの育成には、どのように取り組んでこられたのでしょうか。

〈吉田〉
メンバーが新しく加わる度に、我われの組織がどんな人たちのサポートによって成り立っているかを話して聞かせます。いずれも日本や世界で優れた実績を上げていらっしゃる一流組織ばかりですから、我われはそれに相応しいグループでなければならないということです。
 
浅利は、芸能というのは社会的逸脱者がやるものだという通念に強く異を唱えていました。演劇をやる人間は、まずよき社会人でなければならないということを、本当に口を酸っぱくして言っていましたね。

〈池田〉
僕のように文学をかじった人間には、どこかにひねくれた気持ちがあるかもしれません。30年ほど昔に四季のミュージカルを初めて見た時は、あの清潔感や健全さが眩しくてしかたがありませんでした。

しかし、最近は逆にその健全性や真っ当さに感銘を受けるようになりました。浅利さんはそういうご自身の明朗な人生哲学を、作品を通じてストレートに打ち出してこられましたけれども、俳優さん一人ひとりに浅利人生哲学がしっかり浸透しているのを感じます。

〈吉田〉
劇団四季には研究所があり、研究生としてオーディションに合格すると、まず1年間、優秀な先生のレッスンを受けたり、稽古場の掃除などの雑用をしながら、プロとしてやっていくための心身の鍛練をしていきます。その間のレッスン料は一切不要で、ここで1年間鍛えられて卒業試験に合格すると、正式に劇団員になれるという仕組みです。

〈池田〉
浅利さんが生前おっしゃっていましたが、オーディションに来た応募者の才能は、ちょっと見れば分かると。しかしその人が内に秘めた「祈り」は、しばらく付き合ってみなければ分からない。この言葉も、僕の心に響いています。

僕もゼミ生を選考する時、学生たちによくこの話をしました。彼らに「祈り」という言葉を使って、彼らのやる気にさぐりを入れたものです。

〈吉田〉
それはいつも言っていました。「祈り」というのは平たく言えば、根性ですね。

〈池田〉
そう、根性です。それを浅利さんが「祈り」とおっしゃったのは、さすがだと僕は思いました。

〈吉田〉
ちょっと歩いたり、声を出したりするだけで、その人の俳優としての技量はすぐ分かる。ただし、その人が演劇人として一流になれるかどうかは、心の内にどれほどの祈り、根性を秘めているか次第。その仕事をやり続ける意志がどこまであるかに懸かっていると言っていました。
 
才能に充ち満ちていて、ピカピカな俳優も来ますけど、ちょっとしたことで折れてしまうことはよくあります。むしろ、不器用だけれどもコツコツやる人のほうが大成する。

浅利もよく言っていましたが、俳優として大成するのは、ウサギとカメでいえば、カメのほうなんだと。カメは失敗しても、「自分に何が足りなかったんだろう」と内省しながら、ゆっくり確実に前へ進み続けます。四季でいま活躍しているメンバーは、皆努力家ですよ。

一人ひとりが主人公

〈池田〉
僕が劇団四季でもう一つ感銘を受けたことは、俳優さんの間にスターをつくらないっていうことですね。

主役もたいてい3人くらいが交代で務めていらっしゃって、スター主義、個人主義に陥らないようになっている。これは、原作と原作者に忠実な舞台づくりを目指した浅利さんの哲学に基づくものと考えてよろしいのでしょうか。

〈吉田〉
おっしゃる通りです。もちろん俳優は大切にしています。けれども、興行の芯はあくまでも作品だというスタンスです。例えば『ライオンキング』は、主役のシンバを演じる○○さんが目当てというのではなく、『ライオンキング』という作品そのものが面白いから観に行きたい。お客様にそう思っていただけるように徹底しているのです。

〈池田〉
これはあくまでも僕の主観ですが、例えば『コーラス・ライン』などを見ても、ブロードウェイのものより劇団四季のほうが遥かに上だと思っているんです。歌唱力や演技力に関していえば、向こうには上手なボーカリストや演技者はたくさんいるけれども、心に訴えかけてくる要素は少々物足りない。歌でも踊りでも、一人ひとりが孤立している感じがある。
 
日本はチームプレーが得意だといわれますが、ブロードウェイのものは、劇団四季の持っている一体感みたいなものがあまり感じられない。やっぱり四季の舞台は、同じ釜の飯を食い、苦楽を共にしながら懸命に舞台を磨き上げておられる劇団員一人ひとりの思いが伝わってくるんですよ。

〈吉田〉
ありがとうございます。確かに四季では、皆の意識は作品そのものに向かっています。

他社の興行では、主役に知名度のあるスターを据えて、その人が美しく、あるいは格好よく見えるようにつくられている舞台もあります。そうすると舞台の残りの要素は、すべてがスターのための「添え物」になってしまう。観客を魅了する緊密な一体感は、そこからは生まれてこないと思うんです。

〈池田〉
『キャッツ』にはたくさんの猫が出てきますが、浅利さんは「一匹一匹の猫の人生が一番輝いた一瞬を切り取って見せるのが『キャッツ』だ」とおっしゃっていました。これは名言で、『キャッツ』という作品は、一匹一匹が主人公のミュージカルなのですね。私たち人間も、自分の人生を精いっぱい生き切るという力強いメッセージです。
 
それから劇団四季のすごいところは、ベテランの方もアンサンブルを務められたりするんですね。

〈吉田〉
恐らく、他の劇団や興行会社では考えられないことだと思います。作品に奉仕するという思いを全員が共有していて、どんな役も厭わず務める。そこが我われの強みです。全員野球の高校球児みたいなものです(笑)。

〈池田〉
そこが肝ですね。現代の演劇や芸能が自己主張の場になり過ぎているのです。

(本記事は月刊『致知』2019年3月号 特集「志ある者、事竟に成る」から一部抜粋・編集したものです。あなたの人生や経営、仕事の糧になる教え、ヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら

吉田智誉樹(よしだ・ちよき)
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昭和39年神奈川県生まれ。62年慶應義塾大学文学部卒業後、四季に入社。主に広報営業関連セクションを担当。制作部広宣・ネットグループ長、執行役員広宣部長、取締役広報宣伝担当を歴任。平成26年四季社長に就任。

池田雅之(いけだ・まさゆき)
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昭和21年三重県生まれ。現在、早稲田大学名誉教授。早稲田大学文学部英文科卒業。ロンドン大学大学院客員研究員。専門は比較文学、比較文化論。小泉八雲など数多くの訳書を手掛ける翻訳家でもある。長らくNPO法人「鎌倉てらこや」理事長を務め、現在、顧問。文部科学大臣奨励賞、正力松太郎賞等を授与される。著書に『猫たちの舞踏会 エリオットとミュージカル「キャッツ」』『日本の面影』(ともに角川ソフィア文庫)『イギリス人の日本観』(成文堂)など多数。訳書に『キャッツ』(ちくま文庫)『猫の童話集』(草思社文庫)など。

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