日本一の名旅館「加賀屋」のおもてなしを61年間支え続ける女将・小田真弓の仕事術

年間30万人の宿泊客を魅了してやまない石川県の名旅館・和倉温泉「加賀屋」。プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選にて2015年まで36年連続総合1位に輝くも、2016年に3位。しかし翌年、再び首位1位に返り咲きました。『致知』の愛読者でもある女将の小田真弓さんに、日本一のおもてなしを支える仕事術を学びます。

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感動が覚悟を生んだ

──加賀屋の若女将になることに、不安や迷いはありませんでしたか。

<小田>
そりゃあ、ありましたよ。

その思いを払拭できたのは、嫁いだ翌年、お正月明けに一度里帰りをさせてもらったのですが、 東京から戻ってくる時のことでした。ちょうど三八豪雪と呼ばれる大雪に見舞われてしまい、列車は十何時間と遅れ、ようやく金沢に着いたのは深夜でした。

主人のいとこがトラックで迎えに来てくれたものの、ちょっと走っては雪を掻き分けて、また進むということを延々と繰り返す。お腹が空いてきて、

「何か食べるものない」

と聞いたら、

「後ろに白菜が積んであるからそれをかじれ」

って(笑)。まあ、散々な目に遭って、東京に舞い戻りたいと思いながら帰ってきたんです。で、加賀屋の前に着いた時に、車のライトの先にフーッと何かが浮かんだ。

よく見たら義母が大雪の中、毛布をたくさんかぶって、私の帰りを外でずっと待っていてくれたの。

「ああ、帰ってきたか。帰ってきたか」

って言ってね。その義母の気持ちにものすごく感動しまして、やはり私はここで義母についていこう、背中を見て勉強していこうとつくづく思ったんです。

──加賀屋に骨を埋める覚悟が定まったのですね。

それからは義母の何分の一かでも近づけるようにと思って……

真の喜びに繋がるおもてなし

――小田さんは加賀屋に嫁がれて今年でちょうど55年(※取材当時)の節目を迎えると伺っています。

私は全く素人で入りまして、義母が亡くなるまでほとんど毎日一緒に行動し、言われるとおりにやってまいりました。

いまでも義母だったらどうするかなって考えることがあります。そういう中で、いま私が特に力を入れていることは、お客様へのおもてなしと80名ほどいる客室係への教育、この2つですね。

泊まりに来てくださるお客様には非日常性、最高満足度を提供すること。これがやはり大事だと思います。

ですから例えば、家事や子育てに普段追われている方にのんびりしていただくために、客室係には手の空いた時に子供さんの遊び相手になってあげなさい、と話しています。お客様はいろんな思いでいらっしゃるわけですから、サービスがみんな一緒では困る。

――お客様それぞれに合ったサービスを提供されているのですね。

もう随分昔の話ですけど、私が一番感激したのは、全く目立たない客室係の取った行動でした。

彼女がお母様と娘さんの2人のお客様を担当した時のこと。

最初、何となく雰囲気が暗いなと思ったらしいんですが、「どうかされましたか」と聞くのも失礼ですから、何も言わずにそっとしておいたそうです。それで食事の時にお造りをお出ししたら、

「わぁおいしそう」

って笑顔を見せた。

彼女はそのことを私に伝えてくれたんです。

それじゃあということで、活造りをサービスしたら、

「お父さんがいたら泣いて喜ぶわね」

って言われた。

その時初めてご主人を亡くした奥様と娘さんの旅行だと分かりましたって、彼女が言ってきたんです。それでお花を一輪添えて、陰膳(かげぜん)をお出ししたら、大変喜んでくださいましてね。

いまはサービスの一環としてやっていることですけど、私はその時に、素晴らしい子だなと思ったんです。こんなに目立たなくて、あまり喋らない子が、そこまでお客様の立場に立って思いやる気持ちを持ってくれていたのかと。そういう客室係が一人でも二人でも育ってくれることによって、よりお客様の思いに沿ったおもてなしができる。

その後、お客様からご丁寧なお便りをいただきましたけど、それを見た客室係の喜びは倍になり、もっとお客様のためにという気持ちになるんです。

――感動的なお話です。

お客様と親しくなり過ぎてはいけませんけど、やはり自分の家族や親戚、友達が来たような温かい気持ちでお迎えする。お客様がいまどうしてほしいかってことに気がついて、して差し上げる。

そうして喜ばれる。その喜びが自分の喜びになる。

それと同時に、うちで仕事をしてくれている社員はみんな家族だと思っています。ですから、具合が悪くなれば病院に連れて行ってあげる。困ったことがあったら相談に乗って助けてあげる。やはりお客様の満足度と社員の満足度が一緒じゃないと、いいサービスは提供できません。

(本記事は『致知』2017年4月号「繁栄の法則」より記事の一部を抜粋・編集したものです。)

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◇小田真弓
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おだ・まゆみ――昭和13年東京生まれ。36年立教大学文学部卒業後、加賀屋の小田禎彦(現・相談役)と結婚し、37年加賀屋に入社。38年同社取締役、54年に常務取締役就任。女将として現在に至る。著書に『加賀屋 笑顔で気働き』(日本経済新聞出版社)。

◉小田真弓さんから『致知』へメッセージをいただきました◉

 月刊『致知』創刊40周年おめでとうございます。『致知』には各界の著名な方々が登場され、私の人生の支えとして沢山の方から学ばせて頂きました。この歳になってようやく見えてくることも多く、何歳になっても学ぶことの大切さを痛感しております。
 私共旅館業の使命は明日への活力注入業です。お客様に元気になってご活躍して頂く為に、これからも『致知』に登場される方々から情熱や刺激を頂き、おもてなしに磨きをかけていきたいと思っております。
 ――小田真弓(和倉温泉 加賀屋 女将)

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