チベットから亡命したペマ・ギャルポ氏が明かす、中国の恐るべき人権弾圧の実態

拓殖大学教授を務めるペマ・ギャルポさんはチベット出身で、インドを経て日本に亡命した経験をお持ちです。祖国が中国に侵略されたのです。中国がチベットに対して、どういう行動を取ったのか。そこから日本が学ぶべき教訓は何なのか。惨状を目の当たりにしてきたペマさんの言葉には強い説得力があります。

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犠牲者の数は実に120万人

〈ペマ〉
中国がチベットに侵攻を始めたのは、中華人民共和国という共産党一党独裁国が誕生した翌年の1945年。ペマさんは幼い頃の出来事を振り返りながら、侵略の経緯について次のように述べます。

「人民解放軍の基本的課題は、本年中にチベットを帝国主義者の手から解放することである」。それが中国の大義名分でした。
 
当時、帝国主義者とは白人の植民地主義者を意味する言葉でした。しかし、帝国主義者どころか、チベット国内に居住する外国人は僅か7名にすぎません。そこに中国は2万人もの軍隊を送り込んできたのです。侵略という言葉こそ使わなくても、その意図は明白でした。

「帝国主義者からチベットを解放する」という中国の突然の宣言にチベット政府は抗議し、防衛を固めようとしましたが、既に手遅れでした。東チベットに侵入してきた人民解放軍は、少数の、しかも武器の乏しいチベット軍をすぐに駆逐してしまいます。
 
事態の解決を急ぐチベット政府は北京に代表団を派遣しました。しかし、中国は予め用意していた「十七か条協定」を突きつけ、もし協定を拒否すれば、進軍を続けると脅迫。本国政府との連絡を遮断した上で、全権を委任されたわけではない代表団に、偽造した印鑑まで準備して調印をさせるのです。
 
チベットに侵略した当初、人民解放軍や中国からの入植者は「自分たちはチベット人民の釘1本、糸1本取らない」という大らかな態度を見せていました。しかし、それは中国が第二次世界大戦と、その後の国共内戦による疲弊から回復し軍備力を整える間の偽装にすぎませんでした。
 
国内では次第に人民解放軍とチベット人との衝突が繰り返されるようになり、軍は民衆から食糧を強奪し始めました。道路建設のためにチベット人を強制動員したり、放牧地を畑に変えて土地に合わない小麦を無理やり植えさせるようになったのもその頃です。そのためにチベットは史上初ともいえる飢餓に見舞われることになります。
 
しばらくすると人民裁判が始まりました。宗教者をはじめ数多くの人々が反革命分子の名の下、捕えられて虐殺され、チベット文化を象徴する伝統的寺院や仏像は次々に破壊されました。

中国はチベット人の抵抗や激しいゲリラ戦を封じ込めるために最高指導者であるダライ・ラマ法王を掌中に収めようとしましたが、首都ラサの市民は総決起して法王を守り抜き、インドへと逃がすのです。
 
私たちの家族も村でのゲリラ戦に参加していましたが、装備が乏しいために闘い続けることは難しく、救援を求めてラサへと移動した後、法王の後を追って1959年インドへと逃れました。この時、私は6歳でした。
 
かくて中国の支配下となったチベットでは、1980年までに刑務所や強制収容所での死亡、処刑死、餓死、戦闘や逃亡中の死亡、拷問死、自殺を合わせて実に120万人以上の人々が犠牲になりました(チベット亡命政府発表)。

母国語を守ることが国を守ること

ペマさんが強調するのは、中国のこのような姿勢は、いまも全く変わっていないということです。現に中国の長期ビジョンには、日本の解放(赤化)計画が掲げられているといいます。では、私たちはいま何をすべきなのか。ペマさんの警告に耳を傾けてみましょう。

侵攻と言っても最初からいきなり戦闘機で乗り込んで領土を占拠するわけではありません。かつてチベットで行ったような、あまりに高圧的、非人道的なやり方は、いまの国際社会では最早通用しないからです。
 
侵攻の最初の段階は日本人の精神を奪うことです。日本人から正しい言葉を奪って言語を混乱させ、個人主義を蔓延らせて国への帰属意識や忠誠心をなくすこと、生命や財産に関わる制度を機能不全に陥らせて国への信頼を失わせることなどはその一例です。

そうやって十分地均しをした上で、最後には物理的に侵入を開始するというのが私の描く青写真です。現に、そのために中国は数多くの諜報員を日本に送り込んでいます。
 
そうなった時、日本はどうなるのでしょうか。明らかに言えるのは日本人が二級市民に成り下がってしまうということです。具体的にはどんなに優秀な人でも上級職に就けず、待遇面でもあからさまな差別を受けます。

歴史を知ることで国民の誇りが生まれますから、日本の歴史を封じ込めます。その一方で、日本が大東亜戦争で中国や韓国に対して行った行為はどこまでも誇張して罪悪感を徹底して植え付けることでしょう。当然、政治に対する不満を表すことは許されず、私たちが謳歌している自由や人権は極端なまでに制限されてしまいます。
 
国家の方針に従わなかった場合、そこに待っているのは恐ろしい思想教育です。

不満分子を告発しなかった周辺の人たちも同様の処分を受けます。強制収容所に拘束されて徹底した教育で洗脳されるばかりでなく、拷問も日常的に繰り返されます。その中身は爪の間に針を刺す、物を燃やして煙の充満した部屋に吊すといった極めて残酷なものなのです。
 
それが非現実的な話ではないことは、ウイグルの強制収容所にイスラム教徒を中心に110万人以上が収容され、いまなお宗教弾圧、人権弾圧が行われている現実を見ても明らかでしょう。
 
日本もいまのまま自国の防衛や侵略に無関心でいいはずがありません。憲法を見直すなど国を守る体制を整えるのは最低限必要なことですが、国民にもやるべきことがあります。その一つが母国語を大事にすることです。

中国がチベットやウイグルでやったのは、言語を奪うことでした。目的は民族を滅ぼすためです。言葉を奪うことで、外国勢力はそれだけ侵入しやすくなるのです。

いま、日本の言語はあまりにも乱れていて、メディアでも聞くに堪えない言葉が氾濫しています。母国語が粗末にされるにつれて日本人が大切にしてきた公徳心や家族制度が崩壊し、国に対する誇りも国防意識も失われていきました。これは中国にとっては極めて好都合な状態にあることを意味します。恐ろしいのは日本人が全くそのことに気づいていないことです。

奇しくもこの『致知』1月号を編集中の11月8日は「共産主義犠牲者追悼の日」に当たっていました。アメリカのホワイトハウスは「共産主義犠牲者の国民的記念日に寄せた大統領メッセージ」を発しました。

そこには「共産主義犠牲者の国民的記念日に寄せて、私たちは共産主義の全体主義政権によって殺害され、迫害された1億人以上の人たちを追悼します。また、世界中で平和、繁栄、そして自由を追い求めて奮闘する人たちへの揺るぎない支持を再確認します」などの言葉が並んでいます。革命によって犠牲になった1億人以上の皆さまの冥福を祈らずにはいられません。


(本記事は月刊『致知』2019年1月号 特集「国家百年の計」より一部を抜粋・編集したものです)

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【著者紹介】
ペマ・ギャルポ
1953年チベット生まれ。59年中国軍の侵攻により家族とともにインドに脱出し、65年日本に移住。76年亜細亜大学法学部卒業。80年にはダライ・ラマ法王アジア・太平洋地区担当初代代表を務める。2005年日本に帰化。現在、拓殖大学客員教授のほか、桐蔭横浜大学客員教授、岐阜女子大学名誉教授、チベット文化研究所所長、アジア自由民主連帯協議会会長。著書に『祖国を中国に奪われたチベット人が語る侵略に気づいていない日本人』(ハート出版)など多数。

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