2億人の命を救った化学者——ノーベル賞博士 大村智氏の信条とは

自身の開発した薬で世界の2億5千人もの人々を病魔から救ったという大村智さん。一夜間教師から、いかにしてノーベル賞博士となり、優れた経営者としてもその手腕を発揮してきたのか。鮮やかに人生を切り開いてきた大村さんにその信条を伺いました。

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研究を 経営する

一般に経営を研究するといいますが、僕はその逆で「研究を経営する」と言っているんです。

まず研究ですから新しい有用な化合物を見つける様々な方法を考案し、研究費を確保して研究が継続できるよう資金繰りも考える。一方で研究者の人間形成も含めた育成や、研究成果を社会に還元することにも尽力する。それらを包括して研究を経営すると言っているんです。

普通、大学の先生がそのまま大学の経営を手掛ける時は、なんとなくそれまでの延長線上でやるんですが、それではダメです。教授は教授で偉いけれども、経営者としてはまったくの素人です。ですから僕は、まず一年かけて徹底して経営の勉強をしたんです。

まず家内の恩師から紹介いただいた経営学の専門家・井上隆司先生につき、貸借対照表の読み方など経営実務の初歩から紐解いていただきました。また日本興業銀行の副頭取から東洋ソーダの経営を手掛けられた二宮善基さんが、研究所の創始者・北里柴三郎先生に縁のある方だったので、こちらにもお願いして帝王学を学びました。お互いに忙しい身ですからいつも食事を兼ねてお会いして、事業の心得から人を導くリーダーシップまで、様々に勉強したんです。

そこで学んだことをもとに、まず職員の数を合理化して3分の2にしました。やみくもに人員を減らすのではなく、補充を控えながら合理化を進めていきました。

例えて言えば、それまでは秋につくるワクチンと春につくるワクチンがあれば、それぞれに携わる人員を満杯に確保していたんです。だから自分がワクチンを製造する時以外は遊んでいる。そこで秋のものも春のものもつくれるように技術を覚えてもらい、同じものを3分の2の人員でつくれるようにしたんです。

それから、グループの病院で優秀な医師を院長に任命して活性化を図るとともに、我われが発見したイベルメクチンの特許料で、埼玉県北本市に新たに「北里研究所メディカルセンター」(KMC)を立ち上げました。

東京海上や日本航空の経営で辣腕を振るわれた渡辺文夫さんも北里研究所と縁のある方でしたが、僕のいないところで褒めてくださったらしいんです。大村は大会社の社長も十分務まると。それを伝え聞いた時は嬉しかったですね。

★あの著名人も『致知』を読んでいます。

★大村智さんが『致知』に寄せたメッセージはこちら

人の恩は 石に刻め

一期一会が僕の信条でもあるんですが、これまで出会いを大事にすることには特別に心を砕いてきましたところが往々にして人は出会いを大事にしない。お世話になりっぱなしで、後は忘れてしまうのです。受けた恩は石に刻めといいますが、恩を忘れてはダメです。

僕はこれまで本当にたくさんの方々のお世話になりました。アメリカ留学にお力添えをいただいた日本抗生物質学術協議会元常任理事の八木沢行正先生、この北里研究所で私を引き上げてくださった元所長の水之江公英先生、若い頃様々な人生訓を与えてくださった山梨大学元学長の安達禎先生、そしてマックス・ティシュラー先生。挙げればきりがありませんが、どの方にも誠心誠意尽くす中で認められ、導かれてきました。本当に僕は恵まれた男だと思います。

僕はいつも、自分の立場でどうすべきかを徹底的に分析し、その上で自分の弱いところを補ってきました。研究所に戻ってきた時に経営を学んだのもその一環です。

何かを成そうという時には、ネックになることがいろいろあるものです。だからダメではなく、高い山を乗り越えて初めて物事は成せるんです。お金がなければいかにお金を集めてくるか、人がいなければいかに育て、活用するか。

与えられた場で自分の役割を果たすことは大事です。しかしただその場に甘んじているのではなく、そこを乗り越えて、自分でなければできないところを見せなければいけないと思います。そういう気概で歩んできた結果、化学者としては一流でも二流でもない僕が、一流の化学者以上の実績を積み上げることができました。

(本記事は『致知』2012年5月号 特集「その位に素して行う」より一部を抜粋・編集したものです。あなたの人生、経営・仕事の糧になるヒントが見つかる月刊『致知』の詳細・購読はこちら)

◇大村智(おおむら・さとし)
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昭和10年山梨県生まれ。33年山梨大学学芸学部卒業。38年東京理科大学大学院理学研究科修士課程修了。40年北里研究所入所。米国ウェスレーヤン大学客員教授を経て、50年北里大学薬学部教授。(社)北里研究所監事、同副所長等を経て、平成2年北里研究所理事・所長。19年北里大学名誉教授。20年(学)北里研究所と(学)北里学園との統合により(学)北里研究所名誉理事長。(学)女子美術大学理事長や山梨科学アカデミー会長なども兼任。日本学士院会員。評伝に『大村智 2億人を病魔から守った化学者』(中央公論新社)がある。

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