「あなたは荷物を持つ人ですか、それとも持たない人ですか」日本人の聖書『古事記』が示すリーダーの在り方

「古典と歴史と人物の研究――これなくして人間の見識は生まれない」。安岡正篤師の言葉です。古典力を養うことはそのまま人間力を養い、人生力を高めることに繋がっていくに違いありません。全国30箇所で古事記塾を主宰し、7年間で1,000人以上の受講生と『古事記』を学んできた今野華都子さんにその魅力を語っていただきました。

あなたは大国主命になれますか?

『新釈古事記伝』第一集の袋背負いの心では、大国主命とその兄弟である八十神たちが、遠い稲羽の国にいる日本一の比賣神をお嫁にもらおうと旅をすることになります。

ただ、その際に八十神たちは、大国主命に「皆の旅行道具を大きな袋に入れて背負ってきてくれないか」と頼みごとをするんですね。普通だったら、何で自分がってなりますよね? でも大国主命は、「分かりました。よろしゅうございま」すと嫌な顔一つせず引き受けて、見事荷物を稲羽の国まで運び切るのです。

この部分を読んだ後、私は読書会でこう質問するんですね。あなたは荷物を持つ人ですか、それとも持たない人ですか決めてくださいって。あるいは八十神のように持たせる側ですか、と。

ただ、ここで大事なことは、「持たない」と言った人を非難しないことです。

もしかしたら病気の人もいるかもしれない。アメリカ人だったら、「一人で持つのは民主主義に反する」と言うかもしれない(笑)。この物語が教えてくれるのは、多様な価値観を認めた上で、自分はどう行動するだろうかということを各自が考え、皆が和して一番幸せになれるあり方を探っていくことの大切さなのですね。

そして物語は、袋背負いの心から赤猪抱きの場面へと移っていくのですが、結局、比賣神は皆の荷物を背負った大国主命を結婚相手として選びます。

しかし、当初は結婚に納得していた八十神たちも、次第に大国主命への嫉妬の心が膨らみ始め、ついに殺してしまおうという計画が持ち上がります。住民に危害を加えている赤猪を退治するのを手伝ってほしいと、大国主命に持ち掛けるのです。

自分たちは山の上から猪を追うから、大国主命は下で捕まえてくれと八十神たちは言います。快く引き受けた大国主命は、下で待ち構えるのですが、そこへ落ちてきたのは赤猪ではなく、何と真っ赤に焼けた大石。しかし、「何かおかしい」と分かっていながらも、大国主命は責任感からその大石を全身で受け止めます。そして、一人焼け死んでしまう……。

兄弟同士の諍いから、大国主命が亡くなったことを知った母親の刺国若比賣は嘆き悲しみます。それを見て憐れんだ神産巣日之神が大国主命を蘇らせてくれるのですが、八十神の嫉妬は収まることなく、今度は木の股に挟まれて大国主命は二度も殺されてしまうのです。

そして、また神産巣日之神が蘇らせることになるわけですが、ここで刺国若比賣は、「今度は殺されないようにしなさい」と、大国主命を修行の旅に送り出すんですね。

『古事記』が現代の私達に示すもの

これだけのお話ですが、皆さんどう思います? 普通に考えて、悪いのは嫉妬から罪を犯した八十神ですよね。なぜ大国主命が殺されないための修行をしないといけないのでしょう。私たちはこの物語から何を学び取るべきなのでしょう。

一つはリーダーの在り方です。私たちには大国主命のように、時には自分の命を投げ出してでもやり遂げなければならないことがある、という腹の決め方。そして、愚かな者を非難するよりも、正しい意識に目覚めた自分自身がまずその使命を果たしなさいという心構えです。

それから、これは本の解説には書いてありませんが、私は読書会で皆さんにこう質問するのです。もし、自分の身近な人たちが諍いを起こした時に、父親、母親、あるいは一人の人間として、あなたはどう考え、どういう言葉を掛けていきますか、と。

生き方を学ぶというのは、そのような日々の小さな決断の場で、自分の意思を明確にしていき、大きな試練がやってきた時に、しかるべき行動が取れる準備をしていくことではないかと思います。そして、その決断に際して、大和人がどのような価値観を中心軸に置いて生きてきたのかを教えてくれているのが、この『新釈古事記伝』なのです。

(本記事は『致知』2014年10月号 特集「夢に挑む」を抜粋したものです。『致知』には人間力・仕事力を高める記事が満載!詳しくはこちら

◇今野華都子(こんの・かつこ)
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昭和28年宮城県生まれ。平成10年エステティックサロンを開業。16年第1回LPGインターナショナルコンテストフェイシャル部門にて日本最優秀グランプリ、また、世界110か国の中で最優秀グランプリを受賞。タラサ志摩ホテル&リゾート、カルナ フィットネス&スパの社長を歴任。最新刊に『はじめて読む人の「古事記」』(致知出版社)。

『はじめて読む人の「古事記」(今野華都子・文、中尾早乙里・画)定価=本体1,500円+税

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