帝京ラグビー部はなぜ強いのか!? 岩出雅之前監督が考える指導者の条件

大学ラグビー日本一を決める全国大学選手権で帝京大学が早稲田大学を破り、4大会連続13回目の優勝を果たしました。その勝負強さはいかに培われたのか。岩出雅之前監督が本誌『致知』でお話しされた、成果を上げる指導者に欠かせない〝条件〟についての発言を抜粋してお届けします。(本文は掲載当時のものです)

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矛盾することを同時に成し遂げる

――岩出監督の考える指導者の条件とは何ですか。

〈岩出〉
自分がチームをどこに導きたいと考えているのか、その視点がしっかりしていないと何も生まれないと思います。ただ目の前の勝利だけ見ているのと、学生たちの未来まで見てあげているのとでは、彼らの将来はまるで違ってくるでしょう。
 
ですから指導者に努力や学習意欲のないチームには未来はありません。指導者がこれぐらいでいいと考えたところで、学生たちの可能性を摘み、チームの歩みも止まります。だから指導者は成長し続けなければならないというのが僕の哲学です。
 
学生はラグビーがしたくて入ってきます。そこで指導者も同じようにラグビーしか見ていなかったら、たぶんお互いにラグビーのことだけで4年間は終わってしまいます。入り口はラグビーでいいと思いますが、指導者が未来をしっかり見据えて指導することで、社会に出て生きる力を育むことができると思うんですね。
 
僕はいつも学生が卒業する時に言うんです。この4年間が一番幸せだったと思うような人生にするなと。卒業後ももっと大きな夢に挑んでほしいと。

――4年間でさらなる夢に挑む土台をつくるのですね。

〈岩出〉
人間の脳ってすべてをコントロールするんですね。しかし現実的なことにすぐ反応して行動の幅を狭めてしまいがちです。ですから夢を大きく持つことでその幅を大きくするんです。大きな夢を抱くことによって内に秘められた力を引き出すことができる。

ですから僕は指導者として、若い世代たちの可能性を大きく引き出すような指導者でありたいんです。

大学を出てからもっともっと社会で活躍して、幸せになってほしい。そのための根を大学の4年間でしっかり培っていきたいと願っています。

▲『致知』2014年10月号 特集「夢に挑む」より抜粋

成果を上げる3つのプロセス

甲子園春夏連覇を達成した大阪桐蔭高校野球部・西谷浩一監督との対談にて
* * *
〈西谷〉
10連覇がかかった今年1月の全国大学選手権では、惜しくも準決勝で敗退してしまいましたね。

〈岩出〉全国大会で9年勝たせていただいて、逆に今年は敗戦で終わりましたけど、ここでもう一度、いい準備をしなきゃいけないという教訓を学んだと思います。これまで勝利からもたくさんのことを学んできましたが、敗戦でしか学べない部分、不足している部分を気づかせていただきました。

僕自身、そこをしっかり見つめましたし、次の戦いに向けて課題をどうクリアしていくかを選手たちと考え、そのための活動を一つひとつ始めているところです。もちろん選手たちが敗戦を大切な経験だと思えるには時間がかかるでしょう。

そういう意味で、敗戦直後の選手たち、特に卒業する4年生には、「急がずにゆっくりと自分を調えながら、振り返ってみたらどうだ」という話をしました。中には無理をして自分の気持ちを押し殺している選手もいましたので、

「9年間多くのチームの涙を見てきたんだから、きょうは思いっきり泣いていい。そして次は笑えるように、この悔しさを大切にして前を向いて挑戦してほしい」

と。だから、いまチームの雰囲気は意外に明るいんです。敗戦のショックとかネガティブなものはなく、新しいエネルギーが湧き出ているような感じがします。

〈西谷〉
特にどんなことに力を注がれていますか?

〈岩出〉
先ほどのチームカルチャーをもう一度しっかり育てていくことです。9年間皆で醸成してきたつもりだったのですが、世の中も変わり、その影響を受けている学生たちも変わっていく中で、どこを変えてどこを変えないかということを押さえながら、チーム全体がさらに伸びるようにする。

チームカルチャーを土や根に譬えて、皆で体を使い、汗をかいて、いい栄養を含んだ土を耕し、それを吸収できる立派な根を一人ひとりが持とうと。

細かなことを挙げればたくさんあるんですけど、我われコーチングスタッフが学生たちに教え過ぎていないか。彼ら自身が悩み苦しみながら答えを見つけていくアプローチができているか。

あるいは学生たちも、チームの中で先輩が見せるべき姿や後輩への関わり方ができているか。無理な課題に挑戦して挫折するのではなく、最適なレベルの課題に挑戦し、ちゃんとやり切れているか。そういったことをお互いに向き合いながら、もう一度見直しています。ですから、3月は練習時間を大幅にディスカッションに割きました。

〈西谷〉
技術よりも考え方の部分を重点的に。

〈岩出〉
はい。成果に結びつくアクション、行動を生むためにはマインドセット、正しい考え方を身につけることが必要です。ただそれだけでは不十分で、やる気のもとになるエネルギーも高めなければなりません。逆に、エネルギーやマインドセットを抜きにいきなりアクションを求めてもダメ。

この「エネルギー、マインドセット、アクション」という3段階を我われコーチングスタッフも選手たちも理解して、急がずに余裕を持ちながら取り組んでいます。

▲『致知』2019年6月号 特集「看脚下(かんきゃっか)」より抜粋


◉先の見えないコロナ禍、難しさを増す「Z世代」の教育、チームマネジメント……いま多くの教師、指導者が直面しているであろう問題に人一倍悩み、現場での実践を重ねてきたのが岩出雅之監督です。『致知』2023年1月号では「勝ち続けるチームのつくり方 【帝京大学ラグビー部V10への軌跡】」と題して、連覇中、低迷期を通して七転八倒しながら掴んできた組織づくりの秘訣を、分かりやすく解き明かしていただいています。スポーツ分野の指導者のみならず、若手の育成に悩みを抱える方なら必ずやヒントになる言葉と出逢っていただけるでしょう。


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◇岩出雅之(いわで・まさゆき)
昭和33年和歌山県生まれ。和歌山県立新宮高校を経て日本体育大学体育学部卒業。滋賀県の教育委員会、中学校、高校勤務を経て、滋賀県立八幡工業高校へ赴任。同校ラグビー部を7年連続花園出場へ導く。平成8年帝京大学ラグビー部監督に就任。平成22年創部40周年にして初の全国大学選手権優勝。以来同選手権では優勝を続け、今年史上初の5連覇を果たす。著書に『信じて根を張れ! 楕円のボールは信じるヤツの前に落ちてくる』(小学館)がある。

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