島田洋七「佐賀のがばいばあちゃんに学んだ、暗い貧乏・明るい貧乏」

B&Bで一世を風靡した漫才師の島田洋七さん。いまではテレビやラジオに加え、国内累計670万部を記録した『佐賀のがばいばあちゃん』をはじめとする執筆活動にも取り組んでいます。そんな島田洋七さんを支える幼き日に学んだ祖母の姿、言葉から「誰でも楽しく生きる心の持ち方」を学びます。(「がばい」は佐賀弁で「すごい」の意)

ああ、貧乏でよかった

僕は広島で生まれて間もなく父親を原爆症で失い、母が居酒屋をやって一所懸命育ててくれていました。だけど家で留守番をしていると母が恋しくってねぇ。 夜中に家を抜け出しては、スラム街を通って店まで母に会いに行くものだから、 母も心配になって、佐賀の田舎にいたばあちゃんのところに預けられることに なったんです。8歳の時でした。

しかし、僕がばあちゃんに預けられたタイミングは最悪でした。女手一つで7人の子を育て上げたばかりで、やっと肩の荷が下りたところだったんです。

でもまだまだ貧しい時代でしょう。子どもたちも自分のことで精いっぱいで ばあちゃんに仕送りできる余裕はないから、家計は当然苦しい。夕飯も食べられない日もあったくらいだった。
 
だからばあちゃんにとって、育ち盛りの僕を預かるなんて、苦労を背負い込む以外の何ものでもなかった。でもばあちゃんは、夫を亡くして懸命に働いている娘の辛さがよーく分かっていたから、断らなかったんです。

ばあちゃんは様々な工夫をして生活をやりくりしていました。常々、「拾うものはあっても、捨てるものはないと」と言っていましたが、いまでもよく覚えているのは、ばあちゃんが外から帰ってくる時はいつも「ガラガラ、ガラガラ」 と音がしていました。腰に結んだひもの先に磁石を付けて、それを引きずって歩いているんです。

「ただ歩いたらもったいなかとよ。磁石つけて歩いたら、ほら、こんなに儲かるばい」磁石についた釘や鉄くずをバケツに溜めて売りに行くんです。落ちているのに拾わんかったらバチが当たるって。

僕はある時ばあちゃんに、「うちって貧乏だけど、そのうち金持ちになったらいいね!」と言ってみたことがあるんです。するとばあちゃんはこう言うんです。

「何言うとるの、貧乏には2通りある。暗い貧乏と明るい貧乏。うちは明るい貧乏だからよか。それも、最近貧乏になったのと違うから、自信を持ちなさい。 うちは先祖代々貧乏だから。
 
第一、金持ちは大変と。いいものを食べたり、旅行に行ったり、忙しい。それに、いい服着て歩くから、こける時も気ぃつけてこけないとダメだし。その点、貧乏で最初から汚い服着てたら、雨が降ろうが、地面に座ろうが、こけようが、何してもいい。ああ、貧乏でよかった」

人間は死ぬまで夢を持て! その夢が叶わなくても、しょせん夢だから

本当は、絶対に辛かったと思いますよ。でも見せなかったね、暗いところは。やっぱり7人も小さい子どもがいる時に、自分が泣いたら子どもは終わっちゃうじゃないですか。だから絶対に泣くところは見せなかった。逆にケラケラ笑っていました。
 
ご飯の時も、「こんなに食べるものがない家庭も珍しかばい」って笑うんですよ。僕もよく分からなかったけれど、笑うしかないから一緒に笑っていました。アハハハッて(笑)。とにかく命懸けで育ててもらったものね。

大きくなるにつれて、そういう苦労がだんだん分かってくるんです。いまになって気づくこともあるし。「飯食わんか」って言われて、「ばあちゃんは?」と聞くと、「食べた食べた、もう腹いっぱいになったから食べな」と。でも、炊事場にはばあちゃんの箸がないもんね。あぁ、ばあちゃん食ってないやって。

朝暗いうちからばあちゃんがごそごそ出掛ける準備をしていると、こっちも目が覚めるじゃないですか。見てると、どんな土砂降りの日でも頬かぶりして出ていくんです。雪がバーッと降っている時もあった。それはすごかったですよ。 雪の中に消えていくんだもんな。鉄のような人でしたね。

でも、そういうばあちゃんを周りのたくさんの人が応援していました。7人もの子どもを育てた上に、60を越えても孫の僕を預かって苦労している大変な頑張り屋ということで、近所でも有名だったからね。
 
例えば、豆腐屋さんが来るとばあちゃんはいつも僕に、売り物にならない崩れた豆腐を半額の5円で買わせにやっていたんです。

ところが、崩れた豆腐が1つもない日があってね。家に戻ろうとすると、「あったよ!」って呼び止められたんです。振り向くと、豆腐屋さんが手で豆腐をつぶすところがちらっと見えた。

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そんなばあちゃんの人生観の中でも、僕がとりわけ影響を受けたのは、人を羨ましく思わない、という姿勢です。見えを張らないということ。これができたら人生どんなに楽か。自分の分を過ぎたことを求めるから、余計な悩みを抱え込むんです。うちはこれでええねん、と言ったらそれでええんです。
 
50代のおっさんが一流企業をリストラになったら、コンビニでバイトでもすりゃいいんですよ。そのほうが人間大きく見えるって。

それをやりながら本当にやりたい仕事を探したらいいんです。家でふさいでおっても一文にもならんのだし。僕みたいに芸能界にいると、どうしても浮き沈みというのがあります。でも僕は全然平気。だって売れてチヤホヤされている時だけが人生とは思わんしね。
 
仕事がなくてバイトしてもいいんですよ。そうやって自分のやるべきことを ちゃんとやっていたら、きっとまたチャンスがやってくる。僕はそう信じているから。

ばあちゃんも言っていました。「人間は死ぬまで夢を持て! その夢が叶わなくても、しょせん夢だから」って。僕がばあちゃんとの暮らしの中で一番学んだのは、楽しく生きるすべじゃないかと思います。

いまの人は、楽しく生きるって案外難しいもんだと感じているんじゃないでしょうか。でも、人のことを羨ましがったり、見えを張ったりせず、自分の夢に向かってやるべきことをしっかりやっていたら、誰もが明るく、楽しく過ごせるんじゃないかな。

(本記事は『致知』2006年11月号 特集「言葉の力」より一部抜粋・再編したものです。人間力・仕事力を高める記事が満載の『致知』、詳細はこちら!)

◇島田洋七(しまだ・ようしち)
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昭和25年広島県生まれ。小学校・中学校時代を佐賀で過ごす。50年漫才コンビ「B&B」を組み、NHK漫才コンテスト最優秀新人賞受賞。漫才ブームをつくる。現在もテレビ、舞台等で活躍中。著書に『佐賀のがばいばあちゃん』『がばいばあちゃんの笑顔で生きんしゃい!』『がばいばあちゃんの幸せのトランク』BJ COMICS『がばい』『島田洋七とがばい芸人たち 笑魂伝承』などがある。

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