北洋建設・小澤輝真社長が語る、受刑者雇用に懸ける思いと信念

これまで500人を超える受刑者を雇用し、その多くを社会復帰へと導いてきた北洋建設(北海道札幌市)。40年にわたって受刑者と向き合ってきた3代目社長・小澤輝真さんは2012年、38歳の時に脊髄小脳変性症と診断され、余命宣告を受けたといいます。難病が体を蝕む中、限られた命を受刑者雇用に懸ける小澤さんと思いをお伺いしました。

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500人を超える受刑者を雇用

――小澤さんが社長を務める北洋建設は、日本で最も多くの受刑者を雇用しながら、再犯率も非常に低いと伺っています。

〈小澤〉
当社はこれまで全国から500人以上の受刑者を雇用してきましたが、日本の出所者の再犯率が約48%(平成28年版『犯罪白書』)なのに対し、当社では2割以下となっています。法務大臣から感謝状もいただきました。

――すごいですね。何か特別な取り組みをされているのですか。

〈小澤〉 
実際の採用では、まず刑務所に出している当社の求人を見た受刑者、刑務所や弁護士から電話や手紙が届きます。その内容を考慮して、犯した罪への反省が伝わってくれば、私が刑務所まで出向いて面接をし、手紙のやり取りなどをしながら、採用するかどうかを決めていきます。先月も山口県の刑務所まで行きましたし、来月は福井県に行く予定です。

2015年以降は、法務省から補助金が出るようにはなったんですが、それまでは全部自腹。いまもたまに予算が切れて自腹で行きます。自分の土地を売ったりしながら採用しています。これまで受刑者の採用にかかった費用は2億円ほどになっているでしょう。

――2億円ですか……。

〈小澤〉 
いざ採用するとなれば、札幌までの交通費に始まり、彼らの着替えや建設業に必要な道具まで全部買ってあげ、私が身元引受人となって三食付きの寮にも入ってもらいます。もろもろの経費を合わせると、1人の採用に約40万円かかる計算です。

受刑者が当社に来た時には歓迎会を開いてあげ、その後も私がなるべく一緒に食事をする、不平不満を聞いてあげるなどして、とにかく孤立させないことを心掛けてきました。社員を銭湯に連れて行って話をすることもあります。

――なるほど、孤立させない。

〈小澤〉 
あと、本人が「もう要りません」と言うまで毎日2千円札を渡すんです。お金を持っていれば心に安心と余裕が生まれ再犯が激減します。特に少年院から来た子は、初めて2千円札を見るのでそれが欲しくて仕事を頑張りますし、お店などで珍しい2千円札を使うと、店員の印象にも残るので、彼らも悪さができません。

――そうした取り組みが、低い再犯率に繋がっているんですね。

〈小澤〉 
もちろん、中には仕事の途中でいなくなってしまう社員もいますし、私はやりたい仕事があればどんどん他に移っていいというスタンスなので、自分の道を見つけて発展的に退社したり、土木技術を身につけて故郷に帰ってしまう社員もたくさんいます。500人を雇用してきたといっても、いまの社員数は約60人で、そのうち受刑者は17人しかいません。

それでも一人の受刑者、一人の加害者を雇用すれば、イコール被害者がいなくなるとの思いでやってきました。受刑者の中には「オレオレ詐欺」をしていた者もいますが、その一人を雇用すれば、詐欺に遭う可能性のある被害者を何人も守ることに繋がるんですよ。

――加害者を雇用することは、被害者を守ることにも繋がると。

〈小澤〉
そして前科があるといっても、いろいろ事情があり、皆が悪いというわけではないんです。

いま寮長を務めている社員には窃盗・詐欺の前科があります。でも、彼はもともと大手飲食店の店長をしていて、その後、引き抜かれた飲食店で何か月も給料を払ってもらえなかった。それで家賃を払えなくなって、やむを得ず出前の集金で集めたお金で支払ったら逮捕されてしまった。

別の社員はやくざの会社を辞めるために、やむを得ずATMを壊し、警察に自首することで辞められた。彼らは許してあげられるでしょう?

ですから、うちで採用している受刑者はよい人ばかりです。社会的に犯罪を起こさざるを得なかっただけで、皆本心から立ち直りたいと思っているんですね。生活できる仕事さえあれば人は再犯しませんし、罪を犯した者ほど真剣に働くというのが私の信念です。

両親から学んだ社員を大切にする経営

――受刑者を積極的に雇用するようになったいきさつをお教えください。

〈小澤〉
当社は1973年、父・政洋によって創業されました。長男の私はその翌年に生まれたんですが、当時は高度成長期で景気がよく、建設業はどの現場も人手不足で、とにかく人を出せばそれだけお金になるような時代でした。

それで父は会社のすぐ近くにある札幌刑務所を訪ね、「おまえ、どこに行くんだ? 引き取り手がいないならうちへ来い」と言って、受刑者を雇い始めたんですね。多い時は、100人の社員のうち半数が出所者だったこともあります。

――最初はそういういきさつで受刑者を雇い始められた。

〈小澤〉 
ですから、私にとって受刑者が周りにいることは、幼い頃からごく当たり前だったんです。
 
ただ、昔は社員同士で毎日のように喧嘩ですよ。一升瓶が割れる音がしたと思ったら、社員同士がその一升瓶の破片を持って刺し合おうとしていたり……。学校の写生会で公園に行くと、すごく酔っ払った人がいて「おい、輝真!」と声を掛けてくるわけです。誰かと思ったら、うちの社員(笑)。

――ああ、社員さんが。

〈小澤〉 
そんな中、父と六畳一間から会社を興した母・静江(現・会長)は、創業間もない会社を支えるため、朝四時から数十人の社員の朝食を用意し、お昼の弁当もつくっていました。父も社員を本当に大切にしていて、私はその両親の姿から「どんな社員も家族なんだ」ということを学びました。

人を見た目だけで判断してはいけない

――では、小澤さんはご両親の働く姿を見て、早くから家業を継ごうと考えていたのでしょうか。

〈小澤〉 
いえ、もともと家業を継ごうという気持ちはなくて、中学から仲間とバンドを始め、音楽活動に熱中していました。バンド名は「CANCER(がん)」で、私はドラムの担当。同時にボクシングにも興味を持って、高校ではボクシング部創設に取り組みました。
 
ところが、生徒会にもきちんと諮り、顧問になってくれる先生からも許可をいただいて創部したにもかかわらず、急に校長先生が「ボクシングは危ないから廃部にする!」と。そうしたら、顧問の先生も「校長先生がやめろと言っているから」と言い出しました。
 
校長先生のところに行って直談判したんですが、「危険だからだめ!」と認めてくれない。それで私はその場で「ふざけるな!」と啖呵を切って、高校を中退したんですよ。高校1年の10月でした。

――高校1年で中退を。

〈小澤〉 
その後は、バンドで食べていきたいと思い、退学を機に頭をピンク色に染め、活動資金を得るために仕事探しを始めました。
 
頭がピンク色で、花のように綺麗でしたからね、最初に花屋さんの面接に行きました(笑)。そうしたら、担当の人に怒鳴られて、履歴書を破られてしまったんです。

――それは酷いですね。

〈小澤〉 
その時に思ったのは、人は見た目で判断されてしまうんだということでした。でも私の家業は建設業ですし、親戚も多い。使いようによっては花の売り上げもすごく上がったはずなんですよ。
 
どんな人も見た目だけでは価値は分からない。使いようによってはどんな人でも欠かせない人財になり得る――。その気づきは、受刑者を積極的に雇用しているいまの私の信念にも繋がっています。


(本記事は月刊『致知』2018年7月号 特集「人間の花」に掲載されたインタビュー記事を抜粋・編集したものです)

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◇小澤輝真(おざわ・てるまさ)
昭和49年北海道生まれ。平成3年父の急逝を受け、家業の北洋建設に入社。26年より現職。受刑者雇用の実績が高く評価され、皇室より「東久邇宮文化褒賞」「東久邇宮記念賞」、法務省より「法務大臣感謝状」、札幌市より「安全で安心なまちづくり表彰」など受賞多数。

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