人生の極意は「恰好!(よしきた!)」 横田南嶺×阿純章が語り合う〝生き方〟

写真左が横田南嶺さん、右が阿純章さん

40年にわたり禅の道を歩んできた臨済宗円覚寺派管長・横田南嶺(よこた・なんれい)さんと、天台宗圓融寺住職・阿純章(おか・じゅんしょう)さん。それぞれの道で真理を追求してきたお二人に、私たち現代人がよりよく生きるヒントを語り合っていただきました。

◎各界一流の方々の珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数NO.1(約11万8000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

一歩一歩を慈しみながら生きる

〈阿〉
きょうはせっかく横田老師にお目にかかったので、私が一番好きな禅語についてもお話ししたいと思います。それはたった2文字、「恰好」という言葉なんです。

横田老師もご存じのとおり『趙州録』に出てくる言葉で、趙州老師が弟子から「大困難が訪れた時に老師はどうなさいますか?」と問われた時、「恰好!」(よしきた!)と答えたそうですね。

どんなことが起きても「よしきた! 自分にピッタリの困難がやってきたぞ」と受け止めて生きる。この言葉を私は大切にしています。

〈横田〉 
恰好、よしきたと。まさに人生の極意ですね。

〈阿〉 
その言葉から思い出すのは、はじめ塾という私塾を創始された和田重正さんの本に出てくる鳶職の方のお話です。

鳶職でも間違って木から落ちてしまうことがたまにあるそうなんですが、そんな時は自分から降りてしまうんだと。怖いと思って目を背けると怪我をするけれども、自分から降りて地面から目を離さないでいると、怪我が少なくてすむというんです。それはまさに「よしきた!」という気持ちにも通じるお話ではないかと思うんです。
 
ですから私も、何か大変なことが起きたら、たとえ不安でいっぱいでも、「よしきた!」という気持ちで向かっていこうと思っているんです。

〈横田〉 
見事な覚悟です。人間の花というのは、そういうところに咲いていくんですよ。

〈阿〉
花を見ると、花びらしか花ではないと思ってしまいがちです。しかし本当は、茎があって、葉っぱがあって、地面、太陽があって初めて花があるわけで、すべての条件が揃っていなければ花は咲きません。花びらだけでなく、宇宙のあらゆるものに同じ価値があって、その中の一つとして花びらもあると思うんです。
 
人間も同じで、人生の局面の一つひとつも何かの手段だと思うと取るに足らないものに見えてしまいますけど、それも美しい人間の花の大切な一つだと思って、いま自分が歩いているこの一歩一歩を慈しみながら生きていくことが大切だと思います。

〈横田〉
それが自分という人間を深めていく歩みにもなりますからね。

〈阿〉
お釈迦様がお生まれになった時に、七歩歩いてその足跡に花が咲いたというエピソードがありますが、花というのは歩いた先にあるのではなくて、歩いたその足跡に咲くものなのではないかと思うんです。花というゴールはずっと先にあるのではなく、いま歩んでいるその足元にある。そしてふと振り返った時に、人それぞれに素晴らしい花畑が後ろに広がっているのだと私は思います。

〈横田〉
先ほど仏様が蓮の花の上に立っていると申しましたが、仏様のお立ちになるところに花が咲くのでしょうね。

私もいまはこうして明るく生きておりますが、先ほどお話ししたように、早くに重責を担うことになり、自分で苦労していると思い込む時期が長かったものですから、以前はあまり明るくはなかったのです。

私が禅の道を志すきっかけとなったのは、松原泰道先生から

「花が咲いている。精いっぱい咲いている。私たちも精いっぱい生きよう」

という言葉をいただいたことが原点なんですが、長く思い悩んでいた私が明るく生きるきっかけを与えてくださったのも、松原先生でした。

先生は101歳でお亡くなりになりましたが、最後にお目にかかった時に

「明るい顔になってよかったね」

と言ってくださったんです。私はそれを先生の最後の教えと受け止めて、努めて明るく生きるよう心掛けてきました。

大井際断老師という103歳でお亡くなりになった臨済宗方広寺派の管長さんも、坊さんは声と顔と姿だと説いておられましたが、顔って本当に大事ですよ。で、つい数日前に初めて私の話を聞いてくださった方から「管長の顔を見ていると幸せな気持ちになります」と言われて、これはとても嬉しかったですね(笑)。

明るい顔をして生きていくことですよ。人間は明るい顔、笑顔で人生に美しい花を咲かせることができるんです。


(本記事は月刊『致知』2018年7月号 特集『人間の花』より一部を抜粋・編集したものです。横田南嶺さんは月刊『致知』にて「禅語に学ぶ」を連載中!)

◉『致知』10月号 特集「出逢いの人間学」に横田さんがご登場!◉

今年3月に開催されたWBC(ワールドベースボールクラシック)で、3大会ぶり3度目となる世界一に輝いた侍ジャパン。その快挙は日本中に歓喜の渦を巻き起こし、勇気と感動を与えてくれました。
チームを率いた名将・栗山英樹監督が予てお会いしたかったという横田南嶺氏と共に、悲願達成までの舞台裏を振り返りつつ、その最大の勝因、今大会を通して得た学び、さらにはいかなる出逢いによって自己を磨いてきたか、指導者としての哲学を縦横に語り合っていただきました。野球と禅――異色の組み合わせながら、そこに通底する人間学談義に興味は尽きません。ぜひご覧ください。

 ▼詳細は下のバナーから

◉横田南嶺さんから『致知』へメッセージを頂戴しました◉

毎月のはじめに月刊誌『致知』が届くのが楽しみであります。巻頭の言葉、総リードや巻頭対談など主な記事をざっと拝読して、いつも編集長宛てに、感想を手短に述べてお礼の手紙を認めています。いつものことですが、毎月これだけの内容のものを届けてくださることに感謝しています。

それから毎月寺で木鶏会を行っていますので、再び『致知』を丹念に読み、そして皆の発表を聞きます。自分だけでなく、他の人がどのように受けとめているかも大いに学ばされるものです。

更に一か月の間、『致知』を手元に置いて、次の号が届くまで折に触れて開いては拝読するのです。

そんなことをしながら、毎月の半ばには、『致知』に連載している「禅語に学ぶ」の原稿を書き始めます。かくして今や『致知』は、私の毎日の暮らしに無くてはならないものとなっています。『致知』のおかげで学べることを楽しんでいます。45年を経て、更なる発展を願っています。

◇横田南嶺(よこた・なんれい)
昭和39年和歌山県生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。著書に『人生を照らす禅の言葉』『禅が教える人生の大道』(ともに致知出版社)など多数。

◇阿純章(おか・じゅんしょう)
昭和44年東京都生まれ。平成4年早稲田大学卒業。15年同大学大学院文学研究科東洋哲学専攻博士課程退学。大学院在学中、北京大学に中国政府奨学金留学生として留学。帰国後、早稲田大学、専修大学等で非常勤講師を務める。現在は天台宗圓融寺住職、円融寺幼稚園園長。著書に『「迷子」のすすめ』(春秋社)。

◎各界一流の方々の珠玉の体験談を多数掲載、定期購読者数NO.1(約11万8000人)の総合月刊誌『致知』。あなたの人間力を高める、学び続ける習慣をお届けします。

たった3分で手続き完了、1年12冊の『致知』ご購読・詳細はこちら
購読動機は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください

人間力・仕事力を高める記事をメルマガで受け取る

その他のメルマガご案内はこちら

『致知』には毎号、あなたの人間力を高める記事が掲載されています。
まだお読みでない方は、こちらからお申し込みください。

※お気軽に1年購読 10,500円(1冊あたり875円/税・送料込み)
※おトクな3年購読 28,500円(1冊あたり792円/税・送料込み)

人間学の月刊誌 致知とは

閉じる