〝温泉療法〟専門医が教える、健康によい&正しい入浴法

日々何気なく入っているお風呂。忙しいビジネスマンの方なら、もしかするとシャワーだけで済ませているかもしれません。しかし、お風呂には「正しい方法」で入ることで、大きく5つもの健康効果が得られるそうです。月刊『致知』の人気連載「大自然と体心」より、温泉療法専門医として長年、入浴と健康について研究を続けてきた早坂信哉さんに、健康によい正しい入浴法を教えていただきました。

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お風呂の5つの健康効果

私たちが毎日、当たり前のように入っているお風呂。しかし、その医学的に正しい入り方や健康効果は意外に知られていません。

私は大学で長年、お風呂が私たちの健康にとってどのような影響を与えるのかを科学的に研究してきたのですが、その中で、お風呂の温度や入り方を少し変えるだけで、全くその健康効果が変わってくることが分かってきました。

そもそもお風呂がなぜ健康によいのかというと、医学的には主に次の5つの作用が考えられます。

1つ目は、「温熱作用」。温かいお湯につかると、体が温まり血液の流れがよくなります。そうすると酸素や栄養分が血液によって体の隅々にまで運ばれ、同時に体に溜まっていた二酸化炭素や老廃物が体の外に排出されるのです。 

さらには筋肉や関節が緩むことで、肩凝りや腰痛、筋肉痛が緩和されるという効果もあります。 

2つ目は、「静水圧作用」。これは水につかった時に、水圧で体が締めつけられる効果のことを言います。その作用は意外に大きく、お風呂に肩までつかった状態で腹回りを測ると、空気中に比べて数センチ縮んでいるほどです。足の浮腫の解消にお風呂が効果的だと言われるのは、重力で足に溜まった血液や体液が静水圧によって心臓まで押し戻されるからです。 

3つ目は、「浮力」。当然、水につかると浮力がかかって体は浮きます。お風呂でもこの浮力が働き、肩までお湯につかっている場合、体重が60キロの人であればたったの6キロになる計算になります。それによって体重を支えなくてもよくなるので、筋肉の緊張が緩み、リラックスできると同時に関節への負担も減少します。 

4つ目は、「粘性・抵抗性」です。水の中を歩こうとしてもうまく動けないのは、水に粘り気があるからです。お風呂の中で手足の曲げ伸ばしなどをすると効果的なのも、この性質のおかげです。 

5つ目は、「清浄作用」。お湯には皮膚の汚れを綺麗にする作用があります。ですからタオルで強くこすったり、石鹸を使わなくても、お風呂につかるだけで毛穴が開いて皮膚の汚れは十分落ちます。

入浴の医学的に正しい入り方

とは言え、お風呂に漫然と入っているだけでは、健康効果は十分に得られません。次にお風呂に安全かつ効果的に入るための医学的に正しい手順をご紹介します。 

それは、 

1、水分を摂る

2、かけ湯(シャワーでも可)

3、半身浴

4、全身浴

5、洗い場で髪や体を洗う

6、全身浴

7、お風呂から出る

8、水分を摂る

9、休息 

という流れになります。 

まず、お風呂に入る前にコップ1~2杯の水分を摂りましょう。これは脱水などを防ぐためです。温度や時間にもよりますが、一度の入浴で約8百ミリリットルの水分を失うとされています。水でもお茶でもよいですが、イオン飲料が吸収がよくお勧めです。 

次はかけ湯です。手足の末端から徐々に体の中心、頭へとお湯をかけていき、体を慣らしていってください。手桶で10杯ほどが目安になりますが、シャワーでも構いません。体の汚れを取り湯船のお湯を清潔に保つだけではなく、体温より熱いお湯に入るための準備ができ、血圧の上昇を防ぎます。 

かけ湯が終われば、湯船につかりましょう。ただ、いきなり肩までつかると負担が掛かるので、足先からゆっくり入り、まずみぞおちあたりまでつかります。2、3分ほどして体が慣れたら、ゆっくりと肩までつかってください。 

汗をかくのは、体温が上昇し過ぎた時、体温を下げようとするために起こります。体が熱くなり過ぎたサインですので、額に汗が滲んだら一度お湯から出てください。 

お湯から出た後は、洗い場で髪や体を洗います。一度お湯につかったほうが、毛穴が開き汚れが落ちやすくなります。先ほど述べたように、お湯には洗浄作用があるので、石鹸などを使う場合には強くこすらず、泡立てたら優しく肌を撫でてあげるだけで十分です。 

最後にもう一度、お湯につかってくつろぎ、汗ばんできたらお風呂から出てください。湯冷めをしないようしっかり体の水滴を拭き取り、コップ1~2杯、入浴前後合わせて合計400~500ミリリットル以上の水分を摂って、30分以上休息してください。 

大事なのは、徐々に体を慣らすこと。お風呂に入る前と出た後に水分を摂ることです。特に冬場は、寒い脱衣所から急に熱いお湯につかると、血圧の急激な上昇を招き、脳卒中や心臓発作に繋がる「ヒートショック」の危険があります。

熱いより、ぬるいお湯

ちなみに湯の温度と入浴時間の目安ですが、40度のお湯に約10分つかれば、健康効果は十分に得られることが分かっています。

なぜ40度かというと、これには自律神経の働きが関係しています。自律神経は、作用が相反する交感神経と副交感神経という2つの神経で成り立っており、シーソーのようにバランスをとって、私たちの健康を維持しています。

交感神経は人間の心身を興奮状態にし、副交感神経は休息、リラックス状態に導きます。実はお湯の温度によって2つの神経の反応が真逆に変わってくるのです。 

42度以上の熱いお湯だと、交感神経が強く刺激され、まるで戦闘状態のように血圧が上がり、脈が速まり、筋肉が緊張したりします。逆に戦闘に関係のない内臓など胃腸の働きは弱まります。

一方、40度以下のぬるま湯では、副交感神経が刺激され、心身がリラックスし、血圧が下がり、筋肉も緩みます。半面、胃腸が活発に働き消化がよくなります。 

仕事など、活発な活動を始める前には熱いお湯でもよいかもしれませんが、心身を休息させる、疲れを取る、質の高い睡眠を取るといった点では、40度以下のぬるま湯のほうが効果的なのです。 

それから入浴時間ですが、長々と入らなくても、汗が滲んでくる10分程度の時間で、先に述べた温熱効果等の健康効果が得られることが研究から分かっています。 

また、「半身浴ブーム」というのがありましたが、これは医学的な立場から見ると、あまり効果がありません。体の半分しかお湯につかっていないため健康効果が半減してしまうのです。事実、肩凝りや頭痛持ちの方なども、半身浴よりも全身浴のほうが、効果が高いという研究結果があります。 

ただし、心臓や肺に疾患のある方や、ゆっくりと長く入浴したい方には、水圧がかかり過ぎず、体温が上がり過ぎない、体に優しい半身浴のほうがよいでしょう。 


(本記事は月刊『致知』2017年6月号 連載「大自然と体心」に掲載された記事を抜粋・編集したものです)[sc file=’webchichi-parts-2′]◇早坂信哉(はやさか・しんや)
平成5年自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。14年自治医科大学大学院医学研究科修了後、同大学医学部総合診療部、浜松医科大学准教授、大東文化大学教授などを経て、現職。一般財団法人日本健康開発財団温泉医科学研究所所長。日本入浴協会理事。医学博士。著書に『たった1℃が体を変える』(KADOKAWA)などがある。

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