【北尾吉孝×北康利】“海賊”と呼ばれた男・出光佐三からいま学ぶべきこと(後編)

左が北康利さん、右が北尾吉孝さん

出光興産百年企業の礎を築いた出光佐三。日本が生んだ稀代の実業家の残した足跡は、いまどういう意義を持って甦ってくるのか。古典・人物に深く学び、経営に活かしてきたSBIホールディングス社長の北尾吉孝さんと、評伝執筆を通じて日本の歴史を創った大人物を多く取り上げてきた作家の北康利さんに語り合っていただきました。

人間尊重の精神を築いた教え

〈北尾〉
私が好きな言葉の一つに、「一国は一人を以て興(おこ)り、一人を以て亡(ほろ)ぶ」というのがありますけど、当然のことですが出光さんがおられなかったら出光興産という会社はないんです。だから彼の力は絶大なものがある。

彼は人を育てる上で何が大事かということについて「徳」だと言っている。事業は一人ではできませんから、自分の人徳を磨き、その人間的魅力で周りからいろんな人を惹きつけ、一致団結する和の力でもって大きなことをやる。そうやって社会を感化していくと。一燈照隅(いっとうしょうぐう)、萬燈照国(ばんとうしょうこく)の世界ですね。

そして今度は、いよいよその感化を世界に広げるべきだとも出光さんはおっしゃいました。西洋社会の物質文明は行き詰まっている。ここに日本の精神文明、日本人の持っている素晴らしい道徳心を持っていけば世界は救われる。

ですから、出光さんの思想はもう企業という範疇を超えられているんですね。

〈北〉
北尾社長がいま前段でおっしゃった徳はやはりリーダーにとって大切なことだと思います。松下幸之助は、会社は労働組合が潰すんじゃない。社長が潰すんだと。つまりトップがどうあるべきかが会社にとって物凄く大事だとおっしゃっている。

もう一つ、日本人が世界に果たすべき役割ということを考えていくと、私は日本人の素晴らしさには特殊性があると思うんです。

いまグローバリゼーション、グローバリゼーションと頻りに唱えていますが、日本が欧米と全く同じになってしまっては意味がない。出光佐三が言ったとおり、もう一度、〝日本人にかえる〟必要があるのだと思います。

〈北尾〉
私もいまこそもういっぺん日本人の民族的特性を見つめ直すべきだと思うんです。我われ日本人は世界の文化を広く吸収していて、例えば、漢字が入ってきてもすぐに平仮名やカタカナをつくる。

しかもあの漢文に、レ点や一二点をつけて日本的に読んでしまう。これは信じられない発明ですよ。その後、明治維新の時にはあっという間に西洋文明を取り入れて、列強に伍するまでに発展を遂げています。素晴らしいのは日本人の和魂漢才、和魂洋才という生き方です。

和の魂をずっと持ち続けたからこそ非常に短時間で異文化を吸収、融合し、さらにそれを改良、改善してより良きものに仕立てていくことができた。

その精神は戦後もずっと生きていて、敗戦から僅か20数年で世界第2位の経済大国になったわけです。

〈北〉
なおかつ日本には台風や地震、噴火と自然災害が多く、それを乗り越えることによって精神的な強靭さを身につけている。我われは凄い国民なんですよ。

〈北尾〉
その大和魂ともいうべきものを忘れかけている若い人が増えているから、「日本人にかえれ」という言葉が必要だと思うんです。

ただ、幸か不幸か3年前の東日本大震災の時に映し出された互助の精神は世界から非常に称賛されました。1977年にニューヨークで大停電が起こった時なんか、バットで店のガラスを割って物を盗るという凄まじい状況でしたが、日本はそんなことが微塵もない。整然として、僅かに配給されるものをお互いに分け合って、励まし合ってね。そういうDNAは我われの中に残っているということなんです。

その民族的特性を最大限生かして、世界にどういう貢献をしていくかということが問われているのです。ですから、インターナショナルの時代だと言って、ただ英語だけ喋れる人間を増やしてみても全く意味がない。

語学力は手段であって、一番大事なのは話す内容なんですから、そこを間違えないようにしてもらわないといけません。

前編はこちら


(本記事は月刊『致知』2014年3月号 特集「自分の城は自分で守る」より一部抜粋・編集したものです)

★北尾吉孝さんから『致知』へメッセージをいただきました我われは「人間いかに生くべきか」「人間いかに死すべきか」という問題に必ず直面します。これらの問題の答えを探し続け、自己の修養に努める時、『致知』は多くの先哲の知恵を提供してくれる稀有な雑誌であります。


◇追悼アーカイブ
稲盛和夫さんが月刊『致知』へ寄せてくださったメッセージ

「致知出版社の前途を祝して」
平成4年(1992)年

 昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。

 このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。

 私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。

 このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。

 我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。創刊満14年を迎えられる貴誌の新生スタートを祝し、今後ますます発展されますよう祈念申し上げます。

――稲盛和夫

〈全文〉稲盛和夫氏と『致知』——貴重なメッセージを振り返る

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◇北尾吉孝(きたお・よしたか)
昭和26年兵庫県生まれ。49年慶應義塾大学経済学部卒業、野村證券入社。53年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。平成4年野村證券事業法人三部長。7年ソフトバンク入社、常務取締役。11年ソフトバンク・インベストメント(現・SBIホールディングス)社長。著書は『何のために働くのか』『森信三に学ぶ人間力』(ともに致知出版社)『出光佐三の日本人にかえれ』(あさ出版)など多数。

◇北 康利(きた・やすとし)
昭和35年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券業務企画部長等を歴任。平成20年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。『白洲次郎 占領を背負った男』(講談社)で第14回山本七平賞受賞。著書は『日本を創った男たち』(致知出版社)『西郷隆盛 命もいらず名もいらず』(ワック)など多数。

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