「昨日」を廃棄せよ。スタバの〝フラペチーノ〟大ヒットの明暗を分けたもの

街を歩けば至るところで目にするスターバックスコーヒー。数あるメニューの中でも、フラペチーノやマキアートは〝スタバ〟に寄れば必ず注文するというファンも多い人気商品です。その開発の裏に、こんなエピソードがあったのをご存じでしょうか。「マネジメントの父」ドラッカーの教えを活かしたコンサルティングを手掛ける山下淳一郎さんに、経営発展の要諦を読み解いていただきました。

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創業者ハワード・シュルツの「英断」

〈山下〉
成功している会社の共通項を別の角度から言うと、全員が自分の強みを発揮できていることが挙げられます。『経営者の条件』でドラッカーはこう述べています。

「成果を上げるには、人の強みを生かさなければならない。弱みからは何も生まれない。成果を生むには、利用できる限りの強み、すなわち同僚の強み、上司の強み、自らの強みを総動員しなければならない」

では、どのように強みを生かし、人材を育てればよいのか。

「仕事は人を育てる最高の道具だ」

「知識労働者にとって必要なものは、管理ではなく自立性である。つまり、責任と権限を与えなければならないということである」

ドラッカーが言っているとおり、研修で理論を教えるのではなく、実務において責任と権限を持たせてあげることに尽きます。多くの経営者からどこまで権限を持たせてよいのかと相談を受けますが、失敗しても大惨事には至らない小さな仕事から少しずつ権限移譲していくのがよいでしょう。大事なことは、この仕事の最終責任者は自分なんだと思って、果敢に挑戦できる環境をつくることです。

一方、経営者がしてはいけないこととして、ドラッカーは分身をつくってはいけないと口酸っぱく忠告しています。

「経営者に限らず、上司は自分のコピーをつくりたがる。うまくいって一回り小さなコピーができるだけである。収縮のスパイラル。異質性の中から活力が生まれることを無視してはならない」

スターバックスを世界的企業に導いたハワード・シュルツ氏は、当初深煎りコーヒーを提供していきたいと考えていました。しかし、経営チームの中に一人だけ、「アーモンドやキャラメルを入れたい」と提案してきたそうです。シュルツ氏は却下したかったけれども、意見に蓋(ふた)をしてはいけないと思い、真っ向から反対するのをグッと堪えて、「ある店舗で試してみて売れたらレギュラー商品に加えようか」と言いました。

シュルツ氏は売れると思っていなかったのでしょう。ところが、予想を覆して大ヒットしたため、渋々レギュラー商品に加えることにしました。それが今日も残っている「フラペチーノ」「マキアート」という主力商品なのです。

「あの時、自分がダメだと言っていたら、今日のスターバックスはない。自分が思い描いていたとおりのスターバックスにはならなかったけれども、自分が思ってもみなかったスターバックスになった」

当時のことをシュルツ氏はこう述懐しました。

成功している会社には、トップに追従するイエスマンはいません。ノーと直言する人か、もっといいイエスを言ってくれる人のみがそこには存在する。そのことをシュルツ氏のエピソードは教えてくれています。

自由は陳腐化する。「昨日」を廃棄せよ

話は転じますが、この6月(掲載当時)に私はシリコンバレーに出張し、大変な衝撃を受けました。3~4年前からシリコンバレーで起こっている2つの大きな波がそれです。

一つは、デジタル破壊。ITを駆使したベンチャー企業が既存の事業を破壊していく現象のこと。アマゾンによって多くの小売店や百貨店、スーパーが潰れています。ウーバーによって倒産したタクシー会社も数知れません。

もう一つは、デジタル革命。デジタル破壊に巻き込まれぬよう、様々な会社と提携して自ら変革していくという現象です。例えば、GE(ゼネラル・エレクトリック)はその名のとおり、もともと電気機器をはじめとする重工メーカーでしたが、いまソフトウエア会社に変わりつつあり、ソフトウエアの現在の売り上げは約7000億円、2020年には2兆円に達すると試算されています。

シリコンバレーで起こる現象は、数年遅れで日本に来ると言われているため、デジタル破壊とデジタル革命が怒濤の如く押し寄せてくることは紛れもありません。

このように社会が大きな変化を迎えている時に、そのチャンスを生かし、社会のお役に立つためには何が大事か。そのヒントがドラッカーのこの言葉に凝縮されていると思います。

「明日を実現するための第一歩が昨日を廃棄することである。明日新しいことを行えるようになるための前提は、もはや生産的でないもの、陳腐化したものから自由になることである」

前例踏襲と成功体験への執着を捨て去り、絶えず自らを変革し、自分で自分を陳腐化させることによって、常に最先端であり続ける。ここに活機応変の一つの解があるのではないでしょうか。


(本記事は月刊『致知』2018年2月号 特集「活機応変」より一部を抜粋・編集したものです)

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【著者紹介】
◇山下淳一郎(やました・じゅんいちろう)
昭和41年東京都生まれ。大学卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務し、ドラッカーの教えの実践支援を行う。その後、中小企業役員と上場企業役員を務める。平成20年トップマネジメントを設立し、社長就任。著書に『新版 ドラッカーが教える最強の経営チームのつくり方』(同友館)『ドラッカー5つの質問』(あさ出版)など。

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