2018年05月15日
働きながら介護をしている日本人は、約240万人にもおよび、一年間でおよそ10万人が介護離職しているといわれる現代日本。いまや介護離職は誰もが避けられない問題となっています。では、私たちはどう介護離職に向き合えばよいのでしょうか。ご自身も介護のある生活を経験し、一般社団法人介護離職防止対策促進機構・代表理事として介護問題を発信し続けている和氣美枝さんに伺いました。
介護者支援の原点
32歳の時に母親が突然「反復性大うつ病」と診断され、介護のある生活が始まったことで転職、介護離職同然の苦境に立たされた和氣美枝さん。しかし、そんな和氣さんの救いになったのが、ある著書を通じて知った介護支援団体への参加でした。
「そこには、私のような介護者の悩みを熟知する先輩が多数在籍し、苦境から抜け出すための様々な情報を得ることができました。それ以上にありがたかったのは、母親をとおしての私ではなく、私そのものをちゃんと見て親身に支えてくださったことです」
そして、和氣さんはその団体との出逢いが転機となり、自分の経験を生かした介護者支援活動に携わるようになります。
「残念だったのは、私がその団体の存在を知ったのが前の会社を辞めた後だったことです。もっと早くに知っていれば、転職とは違う選択肢もあったかもしれない。そうした思いに突き動かされて、私は自ら介護者への情報発信や支援活動に携わるようになったのです」
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介護離職に至る3つの兆候
様々なケースの介護離職について向き合ってきた和氣さんは、介護離職に至る兆候として以下の3つを挙げています。
「介護離職に至る兆候は3つあります。1つは、初動で挫けること。2つ目は、自分ですべて抱え込んで挫けること。3つ目が、誰にも言えなくて挫けること。
本当は介護休業や介護サービスを利用するなど、いろんなやりようがあるのですが、パニックや憤りで選択肢が見えなくなり、最後は誰に相談することもなく、会社を辞めるしかないと結論づけてしまうわけです」
そうならないために、和氣さんは、会社に報告してこれからの働き方を相談したり、介護仲間をつくってお互いに情報交換することなどが大切だと言います。
また、黙っていれば誰かから助けてもらえると考えるのも大間違いで、まずは介護をしていることを周囲に声を大にして伝えることが、自分を守る第一歩になることを認識することも大切だと言います。
「介護者は誰からも守ってもらえません。誰かが手を差し伸べてくれると思ったら大きな間違いなのです。まずは介護をしていることを声に出して言うことが、自分を守る第一歩になることを認識しなければなりません。
会社はそれを受けて、『こういう相談窓口があるから行って来てください』と、例えば地域支援包括センターなどの情報を提供するだけでも、社員が辞める可能性を大幅に低下させることができます。
社員がそこで有益な情報を得られるばかりでなく、苦境に陥った自分に会社が手を差し伸べてくれたという実感を得ることができるからです」
和氣さんのお話から、介護離職の問題は個人の頑張りとともに、介護者が安心して働ける環境や雰囲気を会社や組織全体、社会全体でつくっていく、提供していくことの大切さを教えられます。
(本記事は『致知』2018年6月号の記事を一部、抜粋したものです。WEBchichiにはその他にも人間力、仕事力を高める記事が満載です。もっと知りたい方はこちらから)
和氣美枝(わき・みえ)
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昭和46年埼玉県生まれ。会社勤務時代の32歳の時に母親が病気になり、介護のある生活が始まる。離職・転職を繰り返し、平成25年に介護者の会「働く介護者おひとり様介護ミーティング」を主催。26年にはワーク&ケアバランス研究所、28年に一般社団法人介護離職防止対策促進機構を立ち上げる。著書に『介護離職しない、させない』(毎日新聞出版)『介護に直面した従業員に人事労務担当者ができるアドバイス』(第一法規)など。