知の巨人・渡部昇一の「これだけは知っておきたいほんとうの昭和史」

「二・二六事件最大の痛恨事」「なぜ東条英機が首相に選ばれたのか」「山本五十六と西郷隆盛に共通するもの」など、知の巨人・渡部昇一が壮大なスケールで語り尽くす『これだけは知っておきたいほんとうの昭和史』。時代の大転換期を迎えるいまこそ学ぶべき歴史の遺訓に満ちた本書から、渡部昇一が遺した熱きメッセージをご紹介いたします。

世界の手本となった日本の革新的な発想と技術

日本人というのは、実に面白い発想をします。

例えば、貿易さえできれば天然資源の有無は問題ではないということを妙なやり方を考え出して実現させました。一例を挙げれば鉄鋼です。

鉄鋼は〝産業の米〟と言われますが、日本では鉄鉱石はほぼ産出しません。そこで海を埋め立てて海岸沿いに精錬所をつくり、オーストラリアあたりから輸入した鉄鉱石をそのまま隣接する精錬所に運ぶという方法を確立しました。

運搬の手間を省いてコストダウンを図ったことによって、日本の鉄鋼生産高は急激に伸びました。この方法は重工業の考え方を変えました。そして、それを世界中が見て真似をしたのです。

それから、大きかったのは1971年にあった二度に渡るニクソン・ショックです。特に第二次のドル・ショック(米ドル紙幣と金の兌換の一時停止を宣言)によって、いきなり日本の円が高くなりました。

その時、水田三喜男大蔵大臣は昭和天皇に報告に行きました。円が高くなれば日本から輸出する物品の価格が高くなるので売れなくなるだろうと心配したのです。

しかし、「大変なことでございます」と報告する水田さんに対して、昭和天皇は「円が高くなるということは日本人の価値が高くなるという意味ではないのか」と言われたそうです。

これは昭和天皇の言われた通りです。天皇陛下は、戦前1ドルが2円であったことを知っておられました。それが戦争の始まる直前には円が下がって、1ドル4円ぐらいになりました。戦後になると1ドル360円になりました。それが120円ぐらいになったので、天皇陛下は嬉しく思われたのです。

その後、昭和48(1973)年にはオイルショックが起こりました。この時は原油の供給が逼迫し、価格が高騰したため、世界中が大混乱に陥りました。自動車メーカーは生産を縮小して、奇数日だけ生産にあてるといった手を打ちました。

ところが、日本は違いました。石油が不足するのなら石油を食わない燃費のいいエンジンつくればいいと、改良を始めたのです。車以外の製品も、なんでも小さくコンパクトにしようとしました。

気がついてみたら、日本からほとんどすべての技術革新が始まっていたのです。ファックスでも計算機でも小さくなりました。今ではなんでも小型化は当たり前ですが、それは日本が最初に始めたことなのです。

それまでの日本は、戦艦大和でも零戦でも、すべて欧米の技術の延長線上でつくっていました。しかし、2度のオイルショックを切り抜けているうちに、全く新しい日本初の技術が生まれて、世界中がそれに習わざるを得なくなったのです。

2度目のオイルショックは昭和54(1979)年ですが、この時も日本はうまく乗り切りました。その結果、日本製品でなければ、あるいは日本のライセンスを取らなければ、市場で売れるものがなくなったと言われるほどになりました。

昭和60(1985)年9月にプラザ合意が発表されました。先進5か国(アメリカ・イギリス・フランス・西ドイツ・日本)の大蔵大臣・中央銀行総裁が集まって会議を開いて、日本の円を高くすることが決まったのです。それで日本の商品が売れなくしようとしたわけです。

しかし、日本ではリストラをやりつつ徹底的な技術革新で対応したため、ほとんど影響はなく売れ続けました。逆に円が高くなったために資源が安く買えるようになりました。そうすると金がありあまるようになりました。この金あまりがバブルの背景にあったのです。

あの頃、ウシオ電機の牛尾治朗さんとある研究会で一緒になりました。

私が「これだけ金あまりだと言っているなら円も国際通貨にしたらどうですか?」と聞いたことがあります。すると、牛尾さんは「それは無理でしょう。日本は大蔵省がうるさくてね。そんな国の通貨は国際通貨にはなりませんよ」と言っていました。

だから、日本人は仕方なく、あまった金で土地を買ったり株を買ったりしてバブルになったのです。そして、そのバブルを理不尽なやり方で潰したのも大蔵省です。大蔵省は、議会の議論も経ず、大蔵省銀行局長通達だけでバブルを潰したのです。それ以来、長く日本経済は低迷が続くことになりました。

誇り高く生きるために歴史を学ぶ

20世紀と21世紀の最初の年と最後の年を比べると、何が一番大きく変わったかと言えば、人種問題であると思います。

20世紀が始まった時は人種差別が当然でした。白人が一番で、劣った民族は奴隷にされ、不平等条約で召使のように扱われました。

ところが、20世紀の日露戦争、アメリカとの戦い、日本の高度成長によって一挙に変わりました。今や世界中の国が人種平等を主張しています。その意味で20世紀は日本の世紀であったと、ドラッカーとは違った別の観点で言えるような気がします。

ただ、これからのことを考えると、先にお話ししたように、日本にとっては過去の問題が時事問題として残っていて、これが未来の問題にもなりうるということを忘れてはなりません。

また、今後の防衛問題で注意しなければならないのは、都合が悪くなったらアメリカが日本を捨てるかもしれないということです。吉田茂はかつて「アメリカは今、日本にいるけれども、アメリカが日本を去る時が知恵の出しどころになる」と言ったそうです。

例えば、アメリカはイラクから引き上げたくてしょうがないわけです。だから、もし中国がアメリカに「変わりましょうか」と言えば、「それはありがたい」と言って変わってもらうかもしれません。「一緒にやりましょうか」と言われれば、それでも「ありがたい」と言うと思います。

米中がそういう関係になった後で、中国が「尖閣列島は中国のものだと思います」と言ったとしたらどうでしょう。日本と中国が戦争になったとしても、おそらくアメリカは日本を助けないでしょう。沖縄を取られたとしても、助けてくれないと私は思います。

そこまで考えますと、我々はこの社会における生存問題を本気で考えるところに来ているのではないかと思います。

そういうわけで、これからの日本を見る時には、過去は過去ではないと思わなくてはいけません。特にアジア、中でも中国と韓国に対しては、過去は過去の問題ではなく現代の時事問題なのです。そして、彼らを黙らせるためには歴史の事実を知らなければいけません。

ところが、今の官僚、特に外務官僚などには、とにかく自分の任期の間に問題なく行きたいという意識が強く、日本が恥をかこうが何をしようがなんとかやり過ごそうというメンタリティーが蓄積されてきているように思います。これが最も心配するところです。

本当の歴史をしっかり学べば、日本が肩身の狭い思いをすることはほとんどありえないのです。もちろんあら探しをすれば、多少の問題はあるでしょう。

しかし、それはどこの国も同じです。少なくとも日本は、そういう問題が他国ほど多くはないと言っていいでしょう。そう断言できるほど、日本人は誇り高い生き方をしてきたのです。

そんな生き方を、ぜひ歴史から学んでいただきたいと思います。


(本記事は『これだけは知っておきたいほんとうの昭和史』(致知出版社刊)より一部を抜粋・編集したものです)

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知の巨人が壮大なスケールで語り尽くす激動の昭和史

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◇渡部昇一(わたなべ・しょういち)
昭和5年山形県生まれ。30年上智大学文学部大学院修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c. 平成13年から上智大学名誉教授。幅広い評論活動を展開した。平成29年逝去。
著書は専門書のほかに『渡部昇一 一日一言』『四書五経一日一言 』『渋沢栄一 人生百訓』『「名将言行録」を読む』『論語活学』『歴史に学ぶリーダーの研究』『「修養」のすすめ』『中村天風に学ぶ成功哲学』『松下幸之助 成功の秘伝75』『賢人は人生を教えてくれる』『伊藤仁斎「童子問」に学ぶ』、共著に『子々孫々に語り継ぎたい日本の歴史1・2』『生き方の流儀』『国家の実力』『歴史の遺訓に学ぶ』『渡部昇一の少年日本史』『[新装版]貞観政要』(いずれも致知出版社)などがある。

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