天皇陛下のお祈りと、一般人の祈りはどこが違うのか?

11月23日は、当年の収穫、恵みをいただいたことへ感謝し、国家と国民の安泰と繁栄をお祈りする新嘗祭が行われる日です。日々私たち国民・国家を思ってくださっている天皇陛下の「祈り」に込められた思いとは? 『日本は天皇の祈りに守られている』(致知出版社、平成25年刊)より、著者・松浦光修さんの「祈り」に纏わるお話を紹介します。

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天皇陛下のご本務とは?

〈松浦〉
天皇陛下のお仕事は、たくさんあります。よく知られているところでは、国会を開会したり、大臣を任命したり、いろいろな式典に出席されたり、戦跡や被災地を訪問されたりするなどのお仕事があります。また、外国の要人たちと親交を深められたり、「歌会始」「園遊会」「晩餐会」などを主宰されたりすることも、もちろん大切なお仕事です。

けれども、さまざまなお仕事のなかで、これこそ天皇陛下の「ご本務」といえるものは、何でしょうか? それは、「皇室(宮中)祭祀」です。わかりやすくいうと「神々をお祭りすること」、日本の神々への「祈り」です。

その「お祭り」は、初代天皇である神武天皇から、現在の今上陛下(今の天皇陛下)まで、一貫して変わりません。つまり、アマテラス大神(おおみかみ)をはじめとする、わが国の天の神々と地の神々、また「皇霊(ご歴代の天皇の神霊)」に「祈り」をささげられることが、天皇陛下の「ご本務」なのです。

神職さんの中の最高位

「祈り」というのは、つまるところ「この世を超えた何か」が存在している「目に見えない世界」と、今のこの「目に見える世界」をつなぐ、大切な〝行い〟です。

神主さんのお仕事を、日本では古くから「なかとりもち(中取持)」と言っています。「なかとりもち」とは、「なか」を「とりもつ人」ということです。

似たような言葉に「なこうど(仲人)」というものがあります。結婚式の時の「仲人」は、男女の「仲をとりもつ人」ですが、それでは、神職さんは、何と何の「なかをとりもつ」のかというと、「神」と「人」の「仲をとりもつ」のです。「神」と「人」の「仲をとりもつ」ことの、いわば〝プロ〟が神職さんなのです。

そしてその「仲をとりもつ」ための方法が「祈り」です。

それでは日本で〝祈りのプロ〟ともいうべき神職さんのなかでも、頂点に位置する神職さんとは誰なのかというと、それが天皇陛下です。「最高位の祭り主」ともいえます。天皇陛下とは、そういうご存在なのです。

天皇陛下は、古来「神」と「民」をとりもつ「祈り」をささげてこられました。歴史上、外国にも似た例がないでもありませんが、日本の場合は、それが世界でも、もっとも本来のかたちで、もっとも純粋なかたちで、もっとも正統なかたちで、今日にいたるまで、しっかりと継承されています。

アマテラス大神の御子孫である天皇陛下が、天の神々、地の神々、御歴代の皇霊に、古来のかたちを厳格に守って、「祈り」をささげていらっしゃるのです。こんな国は今、世界中を探しても、もうどこにもありません。

「祈り」は〝激務〟である

さて、ここで注意しておかなければならないのは、両陛下の「祈り」は、私たち一般人の「祈り」とは、ずいぶんちがうということです。

私たちふつうの者は、自分や自分の家族や職場や組織などのために、つまり、「自分のために祈る」ことが少なくありません。それらは結局のところ、自分や自分のまわりの人々の〝現世での利益〟を求める祈りです。しかし、天皇陛下の「祈り」は、それとはまるでちがいます。

天皇陛下の「祈り」は神武天皇の昔から、ともに生きてきた国民の幸福を、さらには世界の人類の幸福を、ひたすら願う「祈り」です。目に見えない神々の世界と、目に見える国民の世界を結ぶ、はてしなく広い「祈り」です。

私たちの「祈り」と天皇陛下の「祈り」の大きな違いは、まだあります。それは、天皇陛下の「祈り」は〝激務〟であるということです。

たとえば、新嘗祭は、毎年1123日の夕方から24日の未明にかけて行われる長時間のお祭りですが、この時は、寒い時期であるにもかかわらず、おそばで奉仕する人々も、汗だくになるそうです。

たとえば、私たちも〝偉い方〟の前では緊張します。しかし、考えてみれば、神々というのは〝これ以上ない偉い方々〟で、お祭りとは、〝その方々〟に御奉仕することなのですから、その間、肉体も精神も、極限にまで緊張するというのは、ある意味、当然のことでしょう。

今の私たちは、天皇陛下というと、すぐにお洋服をお召しになった姿を想像します。けれども、それは〝世俗〟のお仕事をなさっている時のお姿なのです。

ご本務のお祭りの時は、神職さんのお姿をされています。そして、その神聖なお仕事をされている時の天皇のお姿こそが、じつは建国以来変わらない、いわば〝永遠なる天皇〟のお姿なのです。

天皇陛下の「祈り」は、たしかに〝激務〟です。けれども、その〝激務〟を日々、ご誠実に、かつ厳しく実践されているからこそ、これまでも天皇は天皇でありつづけてこられたのでしょうし、また、これからも天皇は天皇でありつづけられるのであろうと、私は拝察しています。


(本記事は弊社刊『日本は天皇の祈りに守られている』〈松浦光修・著〉から一部抜粋・編集したものです)

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◇松浦光修(まつうら・みつのぶ)
昭和34(1959)年、熊本市生まれ。皇學館大学文学部を卒業後、同大学院博士課程に学ぶ。専門は日本思想史。歴史、文学、宗教、教育、政治、社会に関する評論、また随筆など、幅広く執筆。現在、皇學館大学文学部教授。博士(神道学)。著書に『日本は天皇の祈りに守られている』(致知出版社)がある。

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