【第5回】休校中の子どもたちに贈る「こんなときだからこそ伝えたいこと」

『ビジネスマンのための歴史失敗学講義』(弊社刊)などの著書がある、作家の瀧澤中(あたる)氏。新型コロナウイルスの感染拡大防止のため休校が延期になるなど、不安を感じている子供たちを何とか元気づけてあげられないか、とこんな記事を寄稿してくださいました。テーマは、休校中の子どもたちに贈る「こんなときだからこそ伝えたいこと」。最終話をお届けします。

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未来を予測する最良の方法とは

森繁久彌(もりしげ ひさや)という俳優さんがいました。彼は、こんなことを息子さんに質問します。「広場でたくさん人がいたとする。そこにお前がまぎれ込んで、どちらの方向が空いているのか、自分が行きたい方向がどちらなのかわからない。こんな時、お前ならどうする?」息子さんは、「皆の行く方向についていく」、と答えます。森繁さんは、こう教えます。


「いいか。もしそこに、みかん箱が一つあったとして、それに乗れば頭一つ上に出るだろ。するとよく見えるな。どの方向が混んでいて、どっちが空いているか、行くべき方向がよく見える。そのみかん箱が『知識』というものだ」

知識があれば、行くべき方向が見える…。よく、「広い視野を持ちなさい」と言われることがありますね。「広い視野」を持つには、少しだけ高いところからものごとを見渡せばいいんです。箱ひとつ分高い場所からものごとを見れば視野は広がり、進むべき道が見えてくるのです。その箱が、知識です。では知識は、どうやって得ればよいのでしょう。もっとも簡単で、時間も場所も限定されない方法が、読書です。なぜ、読書がいいのか。まず。行ったこともない場所に、連れて行ってくれます。

「(アマゾン)河の水がひくと、場所によってはあちこちに沼の残るところがある。こういう沼やアニンガ(水草)の生えたところをシャベルで掘りおこすと、泥の中から30~50センチくらいの大きさの化石のようなよろいをきた魚がたくさん獲れる。化石にしては動くので気味が悪い」(『アマゾン河』神田錬蔵)

ほかにも、馬をのみこむ蛇の話や、船を走らせているだけで、魚が船に飛び込んでくる話などが、書かれています。もちろん、実話。アマゾンで7年間過ごした、日本人医師が書いています。この本はとても読みやすいので、チャレンジしてみてはいかがでしょう。それから。読書は会ったことのない人に、会えます。

「(織田信長は対談するとき)だらだらした前置きを嫌い、
 また、身分の低い人とも親しく話をした」

「誰であろうと、武器を持って信長の前に出ることは許されなかった」

「(豊臣秀吉は)優秀な騎士であり、
 戦いに熟練していたが、気品に欠けていた」

(『完訳フロイス日本史』より一部意訳)

戦国時代、日本にやってきた宣教師が実際に見聞きした、織田信長や豊臣秀吉の様子です。行ったことのない場所に行き、会ったことのない過去の人や、未来にも行くことができるこれが、読書です。そして、こういう読書を通して、知識を得ます。どうです?楽しいでしょう?さらに。活字の本には、知識習得以外にすごい効果があります。それは、想像力を持てる、ということです。川端康成の小説、『伊豆の踊子』。ヒロインの踊り子の名は、薫(かおる)。もしドラマや映画なら、薫(かおる)は若き日の吉永小百合さんとか、美しい女優が演じますから、役者さんのイメージになります。漫画やアニメでも、そうですね。でも、活字の本なら、あなただけの薫(かおる)を想像できる。あなただけの主人公(学生)を想像できる。

活字の本は、人物や風景を自由に想像することができます。これは、あなただけが、見ることのできるものなんですよ。さらに。あなただけの情景の中で、なぜ薫(かおる)は主人公に好意を寄せたのか、主人公は、薫のどんなところを好きになったのか、その切ない気持ちを感じることが出来る。私は主に、歴史のことを本に書いています。歴史を見ていると、想像力が欠けたために失敗をおかすことがとても多いのに気がつきます。もしこんなことをすれば、相手はどう思うのか。その結果、どんなことが起きるのか。相手の気持ちをろくに考えもせず、相手の実力を小さく見て、大失敗するのです。

逆に、想像力があったから、素晴らしいものを発明したり、人の気持ちがわかるから、人に優しくできて、おかげで友だちをたくさん持つことができる。読書によって、正しい知識と、豊かな想像力を得れば、人生は本当に豊かになります。1つ、大事なことを忘れていました。前回の、宿題。将来あなたは、どんな人になっているのでしょうか。それを予測する方法があります。

「未来を予測する最良の方法」。あなたの答えはなんでしょう。

答え。「未来を予測する最良の方法は、未来を自分でつくることだ」(エイブラハム・リンカーン)

そう。知識と想像力を使って、自分の未来を、自分の手でつくっていく。あなたの未来をつくるのは、お父さんやお母さん、学校の先生ではありません。あなた自身が、あなた自身の力であなたの未来をつくるのです。そして、あなた以外の人の幸福な未来もつくることができるのです。それはつらいことではなく、楽しいことです。知識と想像力さえあれば、どんな未来でも自由に描けるのですから。

さて。1日目は、「自分以外の世の中のために」と思えば、時間のムダが省けることを。

2日目は、どうしたら「自分以外の世の中のために」なんて気持ちになれるのか、それは、「善い心」の選択をすればよいのですよ、と申しました。

3日目は、人が困ったときに、困ったことに便乗しない。「善い心」を発動してほしいと。

4日目は、失敗してもいい。ミスをしない人は何もしない人だ、という話でした。そして成功のひけつは「最後の5分間のふんばり」と、述べました。

そして5日目。広い視野を持つため、知識という名のミカン箱を持つこと。それから想像力を持つこと。この2つを実現するもっとも容易な方法として、読書を紹介しました。

どこからでもいい。まずは、この中の何かを、やりはじめませんか。その結果、みなさんの未来と、わたしたちの国、日本の未来が、希望に満ちたものになりますよう、願ってやみません。読んでいただき、本当に、ありがとうございました。生徒のみなさん、学生のみなさん。心から応援しています!!

――瀧澤 中


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◇瀧澤中(たきざわ・あたる)
昭和40年東京都出身。平成13年『政治のニュースが面白いほどわかる本』(中経出版)がベストセラーとなり、時事解説を中心に著作活動を続ける。また日本経団連・21世紀政策研究所で平成23年~25年まで、日本政治プロジェクト・タスクフォース委員を務めた。政権交代の混乱期に「リーダーはいかにあるべきか」を徹底議論、報告書作成に関わる。また、『秋山兄弟 好古と真之』(朝日新聞出版)や『日本はなぜ日露戦争に勝てたのか』(KADOKAWA)等で、教育や財政面から歴史をやさしく解説し好評を得、その後『「戦国大名」失敗の研究』(PHP研究所)をはじめとする「失敗の研究」シリーズ(累計19万部)を執筆。自衛隊や日本経団連はじめ経済・農業団体、企業研修、故・津川雅彦氏主宰の勉強会で講師を務めた。マスコミで「近現代の例と比較しながら面白く読ませる」(日本経済新聞)と取りあげられるなど、〝むずかしいを面白く〟の信念のもと、「いまに活かす歴史」を探求する。

成功した人は誰もが「失敗」している――。

『ビジネスマンのための歴史失敗学講義』

徳川幕府、日本海軍、戦艦大和、織田信長、豊臣家……。本書は作家・政治史研究家として活躍する著者が歴史上の偉人や英雄、強大な組織やシステムがなぜ失敗し、崩壊していったのかを、これまでの歴史書とは異なる視点から分析し、講義形式で綴ったもの。

上杉鷹山や徳川吉宗ら、名君の意外なつまずき。信長や長宗我部元親ら、名将たちはなぜ油断し判断を誤ったのか。大坂城やマジノ要塞などの完璧なはずのシステムはなぜ崩壊したのか。日露戦争勝利に隠された失敗の種とは……。

また「もしあなたが、ラスクマンが通商を求めてきた時の幕府の老中だったらどんな対策を取ろうと考えますか、通商を認める、認めない?」などの設問もあり歴史の当事者になったかのような気持ちで読み進めることができるでしょう。

著者は「”失敗の標本”が歴史には満載であり、歴史の失敗は、学びの宝庫である」といいます。歴史上の人物たちが、なぜその時、そういう判断をしたのかという思考や方向性を探ることは、ビジネスの世界を生き抜く上でも有益な学びとなることでしょう。

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