花まる学習会・高濱正伸が教える、家庭を幸せにする「父親」の条件

「メシが食える大人を育てる」という理念の下に、「花まる学習会」を設立。これまでに三万人以上の子どもたちを教えてきた高濱正伸さんは、勉強と同時に家庭のあり方や育児に悩む親世代にも向き合ってきました。社会環境が変わっていく中で、安定した家庭、子どもの幸せの実現には父親の役割が大切だと説く高濱さんに、父親がなし得る〝最高の子育て〟について教えていただきます。
(本記事は『致知別冊「母」VOL.2』に掲載された対談より一部を抜粋・編集したものです)

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子どもの成長の鍵は家庭の安定にあり

〈高濱〉
どんな時代でもメシが食べられる、生き抜いていける子どもたちを育てたい――その思いで、私が学習塾・花まる学習会を立ち上げたのは1993年のことでした。

以来、主に東京都や埼玉県に教室を展開しながら、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を中心に据えた教育に力を注ぎ、これまで4歳から15歳の生徒たち3万人以上を教えてきました。おかげさまで、いまでは教室も全国170か所まで広がっています。

そして多くの子どもたち、親御さんと向き合っていく中で実感してきたのは、いまの家庭の9割が何らかの問題を抱えている、うまくいっていないということです。

核家族、共働き世帯が増え、皆仕事で忙しく、そもそも時間的にも精神的にも家族と関わることが困難になっているのです。妻や子どもとうまく関係がつくれず、家庭に自分の居場所がない、家に帰るのが億劫になる「帰宅拒否症候群」に陥る父親も増えています。

そうした父親不在の家庭で、子どもを育てている母親もまた非常に孤独な状態にあります。日本では、昔から子育ては地域社会で協力して行っていました。子育ての経験に乏しい若い母親でも、周りの人たちが支え、「その辛さ、分かるわ」と共感してくれたことで、すーっと不安やストレスが解消されていました。

しかし、いまは仕事で父親もいない、核家族化で祖父母もいない、隣にどんな人が住んでいるかも分からない、自分も働きに出なくてはならない社会環境になり、家庭で一人っきりの母親が真面目に頑張って子育てをしようとすればするほど、精神的に追い込まれてしまっているのです。ここに現代の子どもを取り巻く問題の根っこがあるように思います。

どんなに時代が変わっても、子どもたちに変わったところはありません。むしろ社会環境の変化により、家庭環境が変わっていることに私は危機感を覚えるのです。

実際、どんなに熱心に勉強を教えても、結局その子の家庭環境がガタガタだったら、成績もうまく伸びていきません。成長段階にある子どもにとって、家庭環境が安定していることが、学力を上げるうえでも心の成長にとっても何より重要なのです。

花まる学習会でも、家庭環境の安定した子どもとそうでない子どもとでは、やはり学力の伸びが違います。そして、子どもの成長にとって何より重要なのが、母親がいつも笑顔で精神状態が安定していることであり、母親と良好な関係を築けていることです。

アメリカのハーバード大学が2013年に発表した「何が人を幸せにするか」という興味深い調査があります。これは75年をかけて、268人の男性について大学在学時から社会人になるまでを追跡し、IQ(知能指数)や生活習慣、家族との関係などあらゆる角度から分析したものです。

その調査でも、「現在温かな人間関係を築けている」というポイントが高かった男性の年収は平均して14万1000ドル(1440万円程度)で、高年収だということが明らかになりました。さらに幼少期に母親と温かい関係を築けていた男性は、そうでない男性と比べて年収が平均8万7000ドル(890万円)も高いという結果が出たのです。将来、子どもが仕事で成功するかどうかも、母親との関係に左右されると言えそうです。

幸せな家庭を築くヒント

では、社会環境が変わっていく中で、子どもの将来を左右する安定した家庭環境、良好な母子関係をどうすれば実現できるのでしょうか。

私はここに父親の大きな役割があると思っています。ただ、いま流行りの家事・育児を積極的に手伝う「イクメン」になれと言っているのではありません。家事・育児への参加をあまりに意識し過ぎると、それが得意ではない父親たちにとっては逆に負担や自責の念に繋がってしまうでしょう。

それに日々仕事に追われている父親は、いくら家事・育児を手伝いたいという思いがあったとしても、余裕がないのが現実です。

実際、自分はイクメンだと宣言して一所懸命手伝いをしている父親がいる家庭でも、母親に話を聞いてみると、「全部中途半端だから、結局、掃除でも何でもやり直しています」という声をよく聞きます。

ですから、家庭での父親の最も重要な仕事は、中途半端に家事・育児を手伝うことではなく、あくまで「妻を笑顔にすること」、母親が安心して家事・育児に取り組めるよう全力で支えてあげることにあると私は考えています。

そのために大事なのは、夫婦関係を恋愛の延長で捉えたり、家庭を安らぎの場であると認識することを思い切ってやめ、夫婦関係や家庭を日々働いている職場と同様の〝戦場〟であると捉え、子どもの将来のために「妻を本気で笑顔にするんだ」「俺は妻のためならなんでもできる」と、覚悟を決めることです。これが安定した幸せな家庭を築く第一歩になります。

そして、これまでたくさんの母親と向き合ってきて実感しているのは、母親・女性は、家事を手伝ってもらうよりも、高価なプレゼントをもらうよりも、「夫は自分や家族のことを大事にしてくれている」と思えた時に最も心が満たされ、安心できるということです。自分や家族のことを一番に思ってくれているか、女性はその部分を非常に敏感に感じ取ります。

とはいえ、何も特別なことをする必要はありません。例えば、仕事の帰りに「たまたま見つけたから」と好物のお菓子を買って帰って感謝の気持ちを伝えたり、「あれ大丈夫だった?」と気遣う言葉をさりげなく掛けたりするだけで十分に思いは伝わるものです。

父親との遊びは最高の教育

もう一つ、父親ができる家庭での大事な役割・仕事は、忙しい中でも時間が許す限り子どもと向き合って遊んであげることです。

花まる学習会で、途中からぐーっと伸びていく子どもの共通点は何かを考えると、伸びていく子どもには、小さい頃に両親、特に父親とのコミュニケーションや遊びを通じて、いろんなことに興味関心を持ち、ぐっと物事に集中したり、没頭したりした経験があります。学校の宿題を真面目にやるようなタイプよりも、 やんちゃ坊主で走り回っていたようなタイプの子が意外に中学生、高校生になってぐっと伸びてくるのです。

特に日頃、家庭の中で親としっかりした会話やコミュニケーションをしている子は伸びます。なぜなら、人間は世界を言葉によって把握し理解しているからです。

花まる学習会で行っている「雪国スクール」に、父と息子で参加している親子がいました。雪国スクールでは家庭ごとに雪の像をつくるコンテストをするのですが、その親子の会話に私は驚きました。息子が「作戦を立てて”喧々諤々”で話し合ったから、早くつくることができたね」と言ったら、父親は、「「広辞苑」には侃々諤々しかありません」と。日頃から厳密で正確な言葉遣いをしっかり教えているからか、その子はその後成績もすごく伸びていきました。やはり学歴は結果です。親から子へと言葉に厳密な文化が受け継がれていくからこそ、子どももまた受験や就職などで成功していくのです。

そうした言葉の厳密さ、論理的思考を教えるのは、一般的には母親より父親が得意とするところです。

ですから、父親は子どもと論理的で正しい言葉で会話をし、例えば、思考力を高める将棋や囲碁といったボードゲームなどで遊んであげる時間を積極的につくってほしい。「ここに打ったら、パパはこう打つよね?」 「いやいや、ここに打ったら、こっちが取られるよね」などという会話を交わすことで、社会で生き抜くために必要な論理的思考力が子どもに育っていきます。


(本記事は『致知別冊「母」VOL.2』に掲載された対談より一部を抜粋・編集したものです)
◇高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
花まる学習会代表。昭和34年熊本県生まれ。東京大学・同大学院修士課程修了。平成5年「数理的思考力」「国語力」「野外体験」を重視した学習教室「花まる学習会」を設立。著書に『お母さんのための「男の子」の育て方』(実務教育出版)『父親ができる最高の子育て』(ポプラ新書)など多数。
高濱さんのお話の全文は、『致知別冊「母」VOL2』でお読みいただけます。

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