みうらじゅん流・仏像の愉しみ方

個性派タレントでイラストレーターでもあるみうらじゅん氏は、小学生時代から造形としての仏像をこよなく愛し、見続けてきた無類の仏像好きとしても知られています。今回はそんなみうら氏に一風変わった仏像鑑賞の楽しみ方についてご紹介いただきます。

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「仏像はテレビの中のヒーローに負けないくらいかっこいい」

小学生のころすでに「憧れのウルトラマンやゴジラも所詮はテレビの中の作りごと」と思っていた私は、寺の本堂に足を踏み入れたとたん、仰天した。目の前に、ウルトラマンが立っていたのだ。

「……でかい」

彼を見た瞬間、私はテレビの中の世界に引きずり込まれたようなショックを覚えた。その正体は仏像。圧倒的な大きさを誇るその姿は、子供の私にとって、この世のものよりもテレビの世界の方に近く、ヒーローに見えたのだ。「仏は拝むもの」——。そんな感覚は私にはまったくなかった。

しかし、それがよかったのかもしれない。いまでも、仏像を「造形」として楽しむことができる。純粋に仏の顔や姿、大きさを感じることができる。初対面以来私は、「仏像=かっこいい」と強く思い始めた。

今思えば、子供たちのヒーローものやアニメーションのほとんどが、仏像界の話に影響を受けている。ウルトラマンの唇や使命が菩薩のそれに似ていることなども、意図されたものだったのだろう。しかし子供時代は、そんなことを知るはずもない。ただ単純に「仏像はテレビの中のヒーローに負けないくらいかっこいい」と思ったのである。

こんなにかっこいい仏像を、教科書で習うもの、修学旅行でしかたなく見学するものとしてしか見ないことを、私は非常にもの足りなく感じた。

かっこよくてしかもセクシーな仏像たち

そのポーズや表情を「造形」としてみると、思いもよらぬ仏像の魅力を発見できるのだ。事実、私は〝かっこいい〟仏像たちが、同時に〝セクシー〟であることにも気付かされた。

例えば、万病を治すという効力を体現すべく、手には薬壷を持ち、柔和な表情をしている薬師如来像。彼の姿は、力強さこそないが、とにかくセクシーである。

だからであろう。そのセクシーな魅力に引きつけられるように、彼の周りを12人のボディーガードが固めている。武器を持って腕力のありそうな神将たちだ。彼らは、知恵はあるが、腕力の劣る薬師を守っているのである。

これを見たとき私は、自分の周りの似たような人間関係が、いくつも頭に浮かんだ。「知恵と魅力に溢れた文科系の人物の周りに、体育会系の人たちが集まってくる」という図である。みなさんの周りにもそんな図がないだろうか。動物でいえばフェロモンなのかもしれない。人間的な魅力がある人の周りには、自然と人が集まるものだ。薬師如来もそれによって、12人の神将を集めたように見えたのだ。

仏像は、薬師如来に限らずフェロモンのようなものを発している。フェロモン過多といえるくらいに、この上なく色っぽいのだ。

もしそうでなかったら、古来から人はわざわざ時間をかけて仏像を見になど行かないし、そもそも、仏師だって、仏像を彫る気になんかならなかったと思う。そして私も、そんなフェロモンに引きずり回されるようにして、仏像をめぐっているのである。

かっこよくてしかもセクシーな仏像たち。彼らと接していると、ほかの仏像にはない、「選ばれた顔」に出会うことがある。千手観音、東寺の梵天像、東大寺、戒壇院にいる四天王像などである。「異形」とも思える千手観音の顔や姿、エキセントリックな顔立ちでまさに「男前」の梵天像や四天王像。

在日観光外人になったつもりで見るといい

私が最も好きな仏像である彼らの顔を見ていると、繰り返し足を運ばずにはいられない引力のようなものを感じる。「仏像の中の仏像」が持つオーラを発しているのだ。いわゆる信仰云々は抜きにして、私は「造形」として仏像を見ている。そのおかげで、仏像の思わぬ魅力に出会うことができた。

私たち日本人は、大晦日に除夜の鐘を聴き、仏式のお葬式に出席したりなど、普段から、仏教と非常に密接な暮らしをしている。そのためだろうか。身近すぎて、新鮮な気持ちで仏像を見られなくなっているような気もする。仏像の魅力を、うっかり見過ごしてしまっているような気がする。そうだとすれば、何とも惜しい。

外国から来る観光客は、「拝むもの」といった先入観なしに、まったく新鮮な気持ちで仏像と接している。だから、日本人には見えない仏像の魅力的なところも知っているように思える。

私たちもそんな外国人の目で、「在日観光外人」になったつもりで向かい合うと、今まで見えなかった魅力を知ることができるのかもしれない。もちろんこれは、一般的な見方ではないだろう。しかし私は、この自分流の見方で、仏像の魅力をさらに追求していきたい。


◇みうらじゅん——イラストレーター

(本記事は月刊誌『致知』1995年2月号 特集「リズムを創る」から一部抜粋・編集したものです)

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