5分前行動がすべてを決す。世界三大兵学校の一角・江田島海軍兵学校の教育

江田島海軍兵学校。広島県江田島市にかつて存在し、その教育水準の高さから「世界三大兵学校」の一つに数えられた海軍の教育機関です。同校の〝最後の生徒〟である徳川宗英さん(田安徳川家第11代当主)に、実体験に基づく、優れた人材教育の内幕を語っていただきました。

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どんな時も仲間や自分を守るために

〈徳川〉
船乗りとしての心構えや生活感覚として叩き込まれたことの一つが、何事も5分前には次にする行動の準備を終わらせておくという「5分前の待機」でした。

江田島では、起床から就寝まで「5分前!」の号令とともに行動することに明け暮れました。

なぜ「5分前」が徹底されていたのかというと、軍艦生活が始まれば、予定された行動が定刻に整然と開始されないと作業の効率が上がらず、周囲に迷惑をかけることになるからです。臨戦態勢においては、5分どころか数10秒の行動の遅れが文字どおり死を招くことにもなるのです。

ゆえに「5分前の待機」は単なる精神教育ではなく、艦の安全を守り、仲間や自分の身を守るための生活技術であり、どんな時でも手間を厭わず全力を尽くして艦の安全を図るシーマンシップに基づいた教えなのです。

江田島では、シーマンシップを養うための躾を訓育と呼びました。そして訓育の基本が「3S精神」、つまり「スマート、ステディ、サイレント」の3つのSを遵守すべしという教えです。

スマートは、キビキビとして手際よいこと。つまり機敏で頭の回転が速く、物事に柔軟に対処して素早く行動することです。

その行動は、早いだけでなくステディ(着実)でなければ意味がありません。

そして、スマートかつステディに行動するためには、発令者以外の者はサイレント(静粛)を保つ必要があります。なぜなら、無駄口や雑音は集中力を低下させ、作業の遅れを招いたり、思わぬ事故を引き起こしたりするからです。

江田島での生活は、すべて3つのSに則ったものでした。この3S精神は、ただ軍人としてではなく、一人の人間として生きていく上の指針として、海軍士官の合理的精神を育てることに役立ったといわれています。

(略)

もともと軍隊では規律が重視されますが、江田島の教育は、級友同士や先輩・後輩の間のチームワークをとりわけ重んじていました。千変万化の海上で安全に船を運用するためには、何よりもチームワークが重要だからです。

また、明治時代からの伝統として、

「士官である前に、まず紳士であれ」

という教育が行われてきました。これは、人の上に立つリーダーを育てることに主眼が置かれていたためで、教養が豊かで人格の優れた立派な紳士であってこそ、部下はそのリーダーの命令に従うものであるという考えがあったのです。


(本記事は月刊『致知』2016年12月号 特集「人を育てる」より一部を抜粋・編集したものです)

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◇徳川宗英(とくがわ・むねふさ)
昭和4年イギリス生まれ。御三卿・田安徳川家第十一代当主。学習院、江田島海軍兵学校を経て、慶應義塾大学工学部卒業。石川島播磨重工業に入社。IHIエンジニアリングオーストラリア社長、関西支社長、石川島タンク建設副社長などを歴任。平成7年に退職後、静岡日伊協会名誉顧問、全国東照宮連合会顧問、一般社団法人霞会館評議員、一般社団法人尚友倶楽部監事を務める。著書に『江田島海軍兵学校』(角川新書)などがある。

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