2026年06月11日
アジア人初のWBC世界ライト級チャンピオンに輝き、5度の防衛に成功。現役引退後は俳優・タレントとして幅広く活躍を続けたガッツ石松さんが、2026年6月2日にお亡くなりになりました。76歳でした。弊誌『致知』を長年ご愛読くださり、何度もインタビューさせていただくなど、多大なるご恩顧を賜りました。生前のご厚情に感謝を表し、最後の登場となった2025年11月号の連載「二十代をどう生きるか」より、自身の原点となったお母様とのエピソード、後から来る世代への熱いメッセージをお届けします。
「立派な人間になれ」
ボクサーを志したのは、中学生の頃だった。高校には行きたかったけれど、うちに学費を払う余裕はない。では、何もない自分が這い上がるにはどうすればいいか。拳しかないと思い至り、中学を卒業した2日後に上京した。
まずは近所の人の紹介で五反田のネジ工場に就職。入社間もない頃、会社で世界チャンピオンのファイティング原田さんの試合中継を見て、社長に「俺もボクサーになりたいから、ボクシングジムに通わせてほしい」と申し出た。
すると、吐き捨てるように「おまえみたいなやつが、あんな偉い人間になれるわけがない」と言われた。
当時はまだ15歳。このひと言はさすがに堪えた。「ああ、東京も田舎も一緒だ」。俺のような人間にチャンスはないのだと、すぐに会社を辞めて田舎に戻った。
有り難かったのは、両親が何も言わずに迎え入れてくれたこと。無言のやさしさが身に沁み、両親のために再び東京で勝負しようという思いが湧いたのである。
もう一度上京する日、いつも通り力仕事へ向かった母に挨拶しようと、駅に向かう途中で仕事場に立ち寄ったところ、母は「いいか、サツ(札)はサツでも、警察のサツは使えねえぞ」と、泥だらけの手でポケットから1枚の1,000円札をくれた。そしてハラハラと大粒の涙を零しながらこう言った。
「偉い人間になんかならなくていい。立派な人間になれ」
要は、いいことと悪いことを把握してから行動しろ、人として正しい道に進めという母からのメッセージだが、当時はその真意が全く分からなかった。ただ、心に沁み入る感覚は確かにあって、この1,000円札を何倍にもして返してやろうと覚悟が決まった。この時にもらった泥だらけの1,000円札はいまでも大事に持っている。
粗にして野だが卑ではない
俺の座右の銘は「粗にして野だが卑ではない」。外見は粗暴で粗削りのようだけれども、決して卑しい考え方や行動をしない。29歳で現役を引退して芸能界入りしたことを機に、様々な本を読み耽る中で出逢った言葉だ。「偉くならなくていい。立派な人間になれ」という母の言葉と通ずるものがあり、心に深く銘記している。
実際、世間では強面こわもてで軽薄なイメージが定着していたにも拘らず、俳優として『北の国から』や『おしん』といった数多くの作品に出演することができたのは、スタッフの方々が俺の人柄を感じ取ってくれ、起用してくれたからだろう。周りの人に対して誠実に、嘘偽りなく行動することが何より大切だと実感している。
こうして自分の半生を振り返ると、貧しい幼少期の体験を原動力に変え、言い訳をせず前に進んできたからこそ今日がある。ジムの後援者に「おまえにはガッツがない、ガッツを持て」と、「ガッツ石松」のリングネームをつけられたことも、感謝してもしきれない。俺は幸せ者だと心の底から思う。
人生に無駄な経験など何一つない。だから、いいことでも悪いことでも現実として素直に受け止めること。そして頑張って頑張って頑張っていると、自然と運が寄ってくる。頑張り続ける底力のあるやつだけが、最後に最強な運を掴むことができる──。これが、俺の経験から伝えたい教訓である。
「駕籠に乗る人担ぐ人、そのまた草鞋をつくる人」という諺のように、一人ひとりに与えられた役割がある。ただ、たった一度きりの人生、どうせなら一つのことに一所懸命打ち込み、担がれる人になってほしいと願っている。
【本記事の内容】
◇同じ過ちを繰り返さない
◇「立派な人間になれ」
◇常にWhyを追求する
◇やられっぱなしでは終わらない
◇粗にして野だが卑ではない
〈致知電子版〉では全文お読みいただけます。詳細・購読は下記バナーをクリック↓
◇ ガッツ石松 ◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください
本名・鈴木有二。昭和24年栃木県生まれ。40年中学卒業と同時に上京、プロボクサーを志しヨネクラジムに入門。41年プロボクシングデビュー。49年WBC世界ライト級チャンピオンとなり、以後5回防衛。54年引退し、芸能界に転身。20年広島国際学院大学現代社会学部客員教授。著書に『神様ありがとう俺の人生』(桜の花出版)など多数。









