【取材手記】 大谷翔平が〝世界一〟と絶賛! 「岩泉ヨーグルト」はなぜ多くの人々から愛されるのか(岩泉ホールディングス・山下欽也社長)

~本記事は月刊誌『致知』2026年10月号 特集「運をつかむ」に掲載のインタビュー(「当たり前に思える一つひとつが奇跡そのもの」)の取材手記です~

大谷翔平が〝世界一〟と絶賛した「岩泉ヨーグルト」の魅力

近頃スーパーのヨーグルトコーナーに行くと、これまで一般的だった400~500g相当のプラスチック容器とは打って変わり、アルミパウチ(アルミ性の袋)に入った大容量のヨーグルトを目にする機会が増えたのではないでしょうか。

そんなアルミパウチ入りヨーグルトの元祖である「岩泉ヨーグルト」は、添加物を一切使わずに、岩手の厳選した生乳と乳酸菌だけでつくられており、もっちりとした食感と生乳のこく深い味わいが特徴です。

3年前、大谷翔平選手が地元・岩手県の名物を教えてくださいという記者の質問に「一番のオススメは、岩泉ヨーグルトです。本当に美味しくて、僕は世界一だと思っています」と発言したことで一躍話題に。いまでは全国47都道府県のスーパーにまで販路を広げ、工場での1日あたりの製造量は平均15トンに及ぶ人気商品になっています。

同商品を筆頭に、酪農を基幹産業とする岩手県岩泉町の自然の恵みと手間隙をかけた製法にこだわった数々の商品で人気を博すのが、岩泉ホールディングスです。2025年の売上高はグループ全体で45億円を記録し、従業員数は300名を超える規模へと躍進を遂げています。

しかし、創業4年で社長が4回も入れ替わり、3億円近くの累積赤字を抱えていたところからいかにして今日の発展に至ったのか、日本初のアルミパウチ入りヨーグルトがいかにして誕生したのか、意外と知られていないかもしれません。

創業5年目の社長就任以来、同社を牽引してきた山下欽也さんが語る挑戦の軌跡、そこから見えてくる運をつかむ要訣とは――。

月刊『致知』最新号(2026年10月号)特集「運をつかむ」に、山下さんの記事が掲載されています。テーマは「当たり前に思える一つひとつが奇跡そのもの」です。

山下欽也(やました・きんや)
昭和31年岩手県岩泉町生まれ。50年岩泉高等学校卒業後、農業の専門学校に入学。51年JA岩泉町に入組。平成17年岩泉乳業に入社。工場長を経て、21年社長に就任。28年ホールディングス体制に移行。著書に『あたりまえという奇跡』(センジュ出版)がある。

年間28万人が訪れる「道の駅いわいずみ」

雲一つない青空に恵まれた6月下旬。取材は東京から新幹線と車で約5時間半、岩手県岩泉町にある岩泉ホールディングス本社にて行われました。

降り立った岩泉町は本州の町の中で最も広大な面積を誇り、総面積はおよそ993平方キロメートル。東京23区と横浜市を合わせた広さに匹敵します。その総面積の93%を山林が占めていることもあり、透き通った空気と心地よい鳥のさえずりに癒されました。

取材前には、岩泉ホールディングスが運営する「道の駅いわいずみ」を見学させていただきました。店内には岩泉ヨーグルトはもちろん、地元の観光名所にして日本三大鍾乳洞の一つに挙げられる「龍泉洞」の水を使用した飲料水やスキンケア用品、自慢の牛乳を使った手づくりチーズなど、岩泉ホールディングスが独自開発した商品が数多く並び、その豊富なバリエーションに圧倒されたものです。

そんな同店の名物である岩泉の生乳を練り込んだイタリアンジェラート「ViTO × IWAIZUMI」に舌鼓を打ちました。岩泉ヨーグルトや地元のフルーツを使った18種類のフレーバーを求め、年間28万人もの人々が岩泉町に訪れるといいます。

岩泉町の自然の恵みを堪能した後、辿り着いた岩泉ホールディングス本社は、山林に囲まれた周辺の景観の中でひときわ存在感を放っていました。

到着して間もなく、山下さんは快く迎えてくださり、移動の労をねぎらってくださいました。取材中も終始明るく、本誌の一つひとつの質問に丁寧に答えてくださるお姿が印象的でした。

その謙虚・素直な姿勢からも、同社の手掛ける商品が多くの人々を惹きつける所以を感じ取りました。

累積赤字2億8,000万円を抱えて社長就任……なぜ火中の栗を拾ったのか

山下さんは岩泉町で生まれ育ち、19歳でJA岩泉町に入組。JAマンとして酪農家回りや保険の外交に携わり、40代半ば頃には岩泉地区の営農経済センター長を任されました。

一方、130年余りにわたって酪農を基幹産業にしてきた岩泉町は、昭和の後期から牛乳の消費量が低迷を続ける厳しい時代に突入。基幹産業が衰退していくにつれ、町から人が離れていく状況に危機感が募り、生乳をつくるだけの一次産業から、自分たちで加工・販売もする、いわば六次産業化を図るべきだとの声が多く上がり、2003年に協議会が発足しました。

そして2004年、町と農協、酪農家52名の出資の下、第三セクターとして岩泉ホールディングスの前身となる岩泉乳業が設立されました。山下さんはJA代表の立場で協議会に携わる中で、故郷を元気にしたいと発心し、工場長として岩泉乳業への入社を決意されたのです。

ところが、同社の門出は苦難の連続でした。主力商品として開発した高級牛乳は大半のスーパーから門前払いを受け、社内には営業に長けた人材も誰一人おらず、突破口が見出せないまま資金はみるみる減っていく。創業4年で累積赤字は2億8,000万円を超え、社長は4回も交代する全く光が見えない状況下で、最年長者の山下さんに経営のバトンが回ってきました。

山下さんは次のように述懐されています。

「なぜ自分が」と思う半面、年齢的に見ても次は私の番だと薄々気づいていました。妻や子供たち、親戚縁者は揃って「バカなことを考えるな」と猛反対でした。

「100人いたら99人は、社長を引き受けることなどありえないと判断するような状況でした」と、冗談を交えながら当時を振り返っていましたが、山下さんには簡単に断ることができない理由がありました。

けれど、私の頭には酪農家の顔がちらちら浮かぶんですよ。この町を守るために、岩泉乳業に懸けた彼らの切なる思いを痛いほど知っています。もし私が断ったら、その夢は儚く消えてしまう。本当にそれでいいのだろうかと。

1日2時間睡眠で2か月間、自問自答を繰り返した末、酪農家の思いを無下にはできず、社長を引き受ける覚悟を決めました。3人の子供はすでに独立し、妻も働いていましたから、自分一人なら何とかなるだろうという思いも背中を押してくれましたね。

酪農家たちの思い、そして生まれ育った故郷を元気にしたいという一心で火中の栗を拾われた山下さん。絶望的な状況からいかにして日本初のアルミパウチ入りヨーグルトを生み出し、今日の発展へと至ったのか。その全貌はぜひ本誌をお読みください。

↓インタビュー内容はこちら!

◇ロングセラーの秘訣は町の魅力を伝えること
◇人が嫌がる仕事を率先してやる
◇累積赤字2億8,000万円を抱えて社長就任
◇日本初のアルミパウチ入りヨーグルト誕生秘話
◇追い詰められた時に踏み留まれるか
◇再起する原動力となった1,000通の手紙
◇運は誰しも平等に目の前にある

中小企業の広告塔は、社長

「なぜ岩泉ホールディングスは奇跡の復活を遂げることができたのでしょうか」との本誌の問いに対する山下さんの言葉が忘れられません。

この奇跡は偶然もたらされたものではありません。自分の周りにある、当たり前に思える一つひとつが奇跡そのもの。

つまり、当たり前だと思っていたものが当たり前ではないと気がついた時に、奇跡は起こるんです。

「俺は運が悪い」と言う人がいますけど、運は誰しも平等に、目の前にあります。それをつかめるか否かは、当たり前の奇跡に気づけているかどうかですよ。

まさに人生の真理を突いた金言です。山下さんが岩泉町の自然や酪農家、町民の皆様、全国各地のお客様、そして会社を守る社員への感謝を忘れず、必死に駆け抜けたことこそ、岩泉ヨーグルトのロングセラーに繋がっているのでしょう。

最後に、ここだけの取材秘話として、「よく社員に伝えている言葉や組織の活力を生み出す取り組みについて教えてください」と質問を投げかけた際の本誌未収録エピソードをお伝えします。

社員には常に「気になっていることがあったら、全部勉強しなさい」と伝えています。現代はネットが普及して何でも知っているふりができますけど、実際に見たら違うことも往々にしてある。やはり自分の肌で感じたり、目で見たりすることが大事だと思うんです。

かくいう私も、会社にいる時間がほとんどないんですよ。全国のお客様の反応やパウチヨーグルトの世界がいまどう変化しているのか、いち早く情報を知りたい。そうやって自ら歩いて掴んだ情報は嘘がありませんし、早い段階でリスクを取り除くことができます。その一つひとつを自分の栄養にしていけば、新たな考え方の確立にも繋がっていくわけです。

そして中小企業の場合は、社長自身が一番の営業マンであるべきだと思います。新規取引先を開拓する際は、社長が真っ先にノックする。商品をつくるのも同様です。社長が商品をつくり、社長が売りに行くことで、次々と新たな動きが生まれていく。

大切なのは、リーダーが率先垂範で動き続けること。中小企業の広告塔は、社長なんですよ。

岩泉町の自然の恵みに焦点を当てた商品開発を続ける山下さんの愚直な実践、波瀾万丈な人生に胸を熱くします。

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