永続的に発展する企業になるために大切な三つのこと(稲盛和夫)

改めて記すまでもなく、京セラ創業をはじめ経済界に数々の偉業を残す稲盛和夫さん。その経営哲学に共感する人は経営者に限らず、ビジネスマンや研究者、スポーツ選手など各界に多くいます。そんな稲盛さんが月刊『致知』で約9年前に語られた「永続的に発展する企業になる3つの条件」は、人生の万変に処すための心構えとも言えるでしょう。稲盛哲学に深く感銘を受けたという第69代横綱・白鵬翔さんが、感動と共に聞き入っています。

経営も相撲も「心技体」

〈稲盛〉
私はこの2年余り、国からの要請でJAL(日本航空)という大きな企業の再建の仕事をしてきましたが、そこで改めて心の大切さを感じました。

〈白鵬〉
ニュースで見たことがあります。とても大変な再建だったそうですね。

〈稲盛〉
就任前は多くの方から「あんな巨大な組織の立て直しは絶対に無理だ」「晩節を汚すことになる」と言われました。しかし、結果として2年で2,000億円を超す利益を出し、3年目の今期は1,500億円の目標を立てています。

もちろん最初から勝算があったわけではありません。私はかねてから盛和塾で話をしているとおり、利他の心、世のため人のために尽くすことが人間として大切だと思っていますから、倒産したJALを救うことは3万2,000人の従業員の職を確保することだと。同時に日本経済にとっても大事なことだと思ったので、不可能かもしれないが必死に頑張ってみようと思い、迷った末に引き受けました。

もしこの世に神様がいるとすれば、その必死さをかわいそうに思って手伝ってくださったんじゃないかと思います。自分でも驚くほどうまくいきました。こんなに早く回復するとは思っていなかったのです。

〈白鵬〉
どうやって短期間に大きな会社を変えたのですか?

〈稲盛〉
従業員の皆さんに一所懸命話をしました。

「私はたまたまお世話にきたけれども、皆さんが目覚めて立ち上がり、自分たちで会社を立て直そうとしなければ誰もできませんよ」

と、再建の主役は自分自身であるという、いわば当事者意識を持つことの大切さを説きました。そのように社員、幹部の意識改革に努めたところ、その意識が変わり、同時に業績も向上していったのです。

だから、会社というのは全社員の心をどうやって一つにして経営するかに尽きます。

〈白鵬〉
経営も心ですか。

〈稲盛〉
心ですね。確かに、経営のテクニックというものもあるんです。でも、それは先ほど横綱が「心が八割、技や体は二割」とおっしゃったように、二割程度のことで、心が変われば会社はガラッと変わります。

「心技体」という言葉はスポーツではよく使われますが、経営ではめったに出てこないんですね。そういうことを言うと精神論のように受け取られますが、やはり経営も「心技体」が揃わなければうまくいかない。

盛和塾は始まって以来ずっと、

「心を高める 経営を伸ばす」

を一貫したテーマに掲げてきました。自慢のように受け取られるかもしれませんが、今回のJALの再生を通して、これまで掲げてきたことは間違いではなかったと。絶対に不可能だと思えることでも、心を変えれば可能になることを証明できたと思っています。

「思い」を軽々に考えてはいけない

〈白鵬〉
私は参加できませんでしたが、去年の盛和塾の大会で稲盛塾長がお話しになった内容に皆さんが大変感動されたと聞きましたので、どんなお話をされたのか、ご紹介いただけませんか。

〈稲盛〉
あの時は、「永続的に発展する企業になるには三つの大切なことがある」とお話ししたと思います。これは企業に限らず、個人の人生にとっても大切なことだと私は思っています。

一つは「謙虚にして驕(おご)らず」。

例えば大相撲の世界でいえば横綱はトップですから、おそらく周りからチヤホヤされて、自分では威張るつもりがなくても、ついついそういう形になってしまうことがある。その中にあって、謙虚さを維持していくことは相当な修業だと思うんですね。

大体、頂点を極めた人が没落していくのは、謙虚さを失って傲慢になった時です。これは経営に限らず、スポーツでもなんでも同じだと思って、「謙虚にして驕らず、さらに努力を」と自分に言い聞かせてきました。

27歳で京セラの経営をやらせていただいて、KDDIをつくり、そして今回JALを再建しましたが、80歳になったいまもそう思っています。

二つ目は「思念は業(ごう)をつくる」ということです。

人間は人生のその時々でいろいろな思いを抱くわけですが、その思いが様々な業、つまり原因をつくっていくんだと。いいことを思えばいい原因をつくるし、悪いことを思えば悪い原因をつくる。仮に思っただけで、口に出したり実行しなかったとしても原因になるのです。

だから「思い」というものを軽々に考えてはいけないと思っています。本当に長い間、人生を極めていこうと思えば、「どんな思いを抱くか」が大切だと思いますね。

〈白鵬〉
「思いは実現する」という言葉をよく聞きます。

〈稲盛〉
そうですね。思念は実現します。それはすぐには実現しないけれども、思いが積み重なって、やがて現実になる。だから常日頃どんな思いを抱いているかが大切だと思ってきました。

三つ目は「宇宙の心と一体になる」ということです。

〈白鵬〉
宇宙の心、ですか。

〈稲盛〉
私は「謙虚にして驕らず、さらに努力を」「思念は業をつくる」と思って経営を続けてきたわけですが、ある時感じたんですね。宇宙には森羅万象、すべてのものをいい方向に生かそうとする、そういう素晴らしい愛の心、思いやりの心が充満しているということを。

ですから、その宇宙の心に沿った思い、つまり愛の心、優しい思いやりの心を抱いて行動をすれば、必ず宇宙は手助けをしてくれると思ってきました。長い間会社を発展させていくには、宇宙の心が支援してくれるような考え方を持たなければなりません。

JALの素晴らしい再生劇は、従業員の意識を変え、アメーバ経営という京セラ独自の経営システムを導入したからだと言われていますが、最近、どう考えてもそれだけじゃないと思うんです。それは人智を超えた宇宙の手助けがあったと思うんですね。

航空運輸業を何も分からない私が、JALの従業員を救いたいという利他の一念で乗り出していった。そういう美しい心でもって、必死で取り組んでいるのを宇宙が助けてくださったと思っています。

宇宙と調和する心があればどんな困難もやり遂げられると思ってきましたが、今回のJALの再生劇で改めてそれを再確認したと思っています。


(本記事は月刊『致知』2012年10月号 特集「心を高める 運命を伸ばす」より一部を抜粋・編集したものです) 


◇追悼アーカイブ
稲盛和夫さんが月刊『致知』へ寄せてくださったメッセージ

「致知出版社の前途を祝して」
平成4年(1992)年

 昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。

 このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。

 私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。

 このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。

 我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。創刊満14年を迎えられる貴誌の新生スタートを祝し、今後ますます発展されますよう祈念申し上げます。

――稲盛和夫

〈全文〉稲盛和夫氏と『致知』——貴重なメッセージを振り返る

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◇稲盛和夫(いなもり・かずお)
昭和7年鹿児島県生まれ。鹿児島大学工学部卒業。34年京都セラミック(現・京セラ)を設立。社長、会長を経て、平成9年より名誉会長。昭和59年には第二電電(現・KDDI)を設立、会長に就任、平成13年より最高顧問。22年には日本航空会長に就任し、27年より名誉顧問。昭和59年に稲盛財団を設立し、「京都賞」を創設。毎年、人類社会の進歩発展に功績のあった方々を顕彰している。また、若手経営者のための経営塾「盛和塾」の塾長として、後進の育成に心血を注ぐ。著書は人生と経営』『「成功」と「失敗」の法則』『成功の要諦』『致知新書 何のために生きるのか(いずれも致知出版社)など多数。

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