2026年08月20日
~本記事は月刊誌『致知』2026年9月号 特集「めざすものを持つ」に掲載の対談(経営と修行に通底するあり方)の取材手記です~
歩む道は違えども共通点の多いお二人
25歳で情報通信会社フォーバルを創業、僅か8年2か月という当時の日本最短記録、史上最年少の若さで上場を果たし、「第1回アントレプレナー(起業家)大賞」を受賞した大久保秀夫さん。
22歳の時に自ら発心して出家し、仏道修行に打ち込み、比叡山で最も過酷とされる行の一つ、「十二年籠山行」の戦後6人目の満行者となった宮本祖豊さん。
経営者と僧侶――歩んできた道は異なるものの、フォーバル会長の大久保秀夫さんと比叡山延暦寺観明院住職の宮本祖豊さんは、共に20代でそれぞれの志を抱き、数多くの困難や逆境に立ち向かい、精神を鍛え、秘めた可能性を引き出し、人格の完成と縁ある人々を幸せに導くことをめざす点で共通しています。
さらには、60代でそれぞれ脳梗塞とステージⅣの膀胱がんという試練に直面しながらも、決して屈することなく、いまなお前進を続け、感謝と反省の日々を送っているといいます。そんなお二人の求道者の生き方に学ぶものは多く、人間学の真髄ここにあり、といえるでしょう。
人間学を学ぶ月刊誌『致知』2026年9月号特集「めざすものを持つ」に、大久保さんと宮本さんの対談記事が掲載されています。タイトルは「経営と修行に通底するあり方」。
この対談を企画した発端は、このほど弊社から刊行された大久保さんの新著『絶対つぶれない会社をつくる方法』の中に、「心を磨く上で参考になる話」として、宮本さんに直接会いに行き、感銘を受けたと綴られていたことです。
振り返れば、お二人のご縁の始まりはいまから4年前の2022年9月でした。その年の6月号の『致知』に宮本さんの記事「人は皆、限られた命を生きる」が掲載されたのですが、それを読まれた大久保さんから「素晴らしい方がいらっしゃる。ぜひお話を聴きたい」と編集部にお問い合わせがあり、仲介させていただいたことがきっかけでした。
そこから着想を得て、お二人の対談を企画しました。宮本さんの体調不良により、取材は急遽オンラインで行うことになりましたが、2時間にわたって深い人間学談義に花を咲かせました。40年以上、一道に打ち込んでこられた方の言葉には迫力があります。
大切なのは〝やり方〟よりも〝あり方〟
そんなお二人が豊富な経験をもとに培ってきた人生論は、本誌対談記事でたっぷりと語られていますので、ぜひお読みいただければと思います。
先ほど挙げた点に加えて、お二人に共通しているものがあります。それは共に『致知』の愛読者でいらっしゃるということです。お二人から寄せていただいたメッセージをご紹介します。
まず宮本さん。
私が初めて『致知』に出会ったのは18年前である。先ず雑誌のタイトルが非常に魅力的であり、次に内容を読んで心の高ぶりを感じた。
その後、『致知』を読む度に感じるのは、一読するだけで人間性を高めたいと云う衝動に駆られることである。人生死ぬまで自分の人間性を高めていく、これこそ『致知』の真骨頂であろう。
48年続けられた功績は誠に素晴らしい。ぜひ50年と云わず100年、200年とこの雑誌が続くことを願って止まない。
次に大久保さん。
経営でも教育でも「今さえ良ければいい、自分さえ良ければいい」という風潮が蔓延し、効率重視の〝やり方〟ばかりに目を向けがちですが、本当に大切なのは、人間としていかに生きるべきかという〝あり方〟であり、目に見えない心構えや考え方なのです。
『致知』はその変わらない人間の本質を徹底的に掘り下げ、毎号、素晴らしい方ばかりが登場されるので、本当に感心します。しかも、それを50年近くも続けている。こういう月刊誌は他にありません。
僕自身、毎月楽しみに、自分と対話するように読み進め、1か月経つ頃にはラインマーカーだらけになっています。AIの進歩・普及が加速し、簡単に知識を得られる今の時代こそ、より一層求められる人生の教科書になる本だと思います。
功成り名を遂げてこられたお二人が、いまもなお謙虚・素直に学び続ける姿勢に感銘を受けると共に、編集者冥利に尽きる思いがします。
2時間に及ぶ白熱の取材を1万3000字に凝縮
2時間に及ぶ白熱の対談取材をギュッと凝縮して誌面10ページにまとめました。主な見出しは下記の通りです。
◇『致知』を通じて結ばれたご縁
◇問うべきはやり方ではなくあり方
◇難しいことを分かりやすく伝える
◇それぞれの原点と一生を貫く信条
◇稲盛和夫氏の叱咤で覚悟が定まった
◇堀澤祖門師匠の教えを信じて
◇いまこの一瞬に命を懸ける
◇言い訳しない、逃げない、諦めない
◇人を育てる秘訣は気づきと率先垂範
◇大病という試練を通して得た気づき
◇困難や逆境にどう処していくか
◇40年以上にわたって欠かさない習慣
「お二人の出逢い」や「著書に込めた思い」に始まり、「何をめざしてきたか――人生の原点」では、「この道で生きると覚悟を決めた時」「日々意識してきたこと、実践してきたこと」「深い薫陶を受けた人、繰り返し読んだ本、その教え」「己を鍛えてくれた最大の逆境・試練、支えとなった信念」について。また、「何をめざしていくか――今後の挑戦」では、「脳梗塞とステージⅣの膀胱がん、それぞれの病から得た気づきや学び」「それらの体験を通じて後進に伝えたいメッセージ」、さらには「経営と修行に通底するもの――40年以上一道に打ち込む中で見えてきた世界」として「大成する人としない人の差」「心と行動のあり方を正し、徳を積むために大切な要素」に至るまで、約1万3000字の記事の中に、一冊の書籍になるほどの内容が満載です。
本誌未収録エピソード「一隅を照らす生き方」
本当に盛りだくさんの内容だったため、紙幅の都合上、本誌では割愛せざるを得なかったエピソードも少なくありません。その一部をここに記します。
〈大久保〉
宮本先生のご著書『積徳のすすめ』(致知出版社刊)に紹介されていた、「一隅を照らす」という天台宗の教え、その実例としてスーパーのレジの女性店員さんの話には深く感応しました。
〈宮本〉
一隅を照らすとは、自分の置かれた場所でベストを尽くし、輝くことだと捉えています。その一つの象徴的なエピソードを本書で紹介しました。
何をやっても長続きせず、職を転々としていた派遣の女性社員がある時、スーパーのレジ打ちを担当するようになった。単調な仕事ですぐに飽き、ここも辞めようと思った。実家に帰ろうと荷物を整理していると、子供の頃の日記が出てきて、そこに「将来なりたいもの、ピアニスト」とあり、一番長続きした習い事がピアノだったことを思い出す。
同時に、この飽きっぽい性格を克服したいとの思いが湧いてきて、ピアノを再び習い始め、もう少しレジの仕事を続けることにした。すると、ピアノの鍵盤を見ないで弾けることができたように、レジのボタンも見ないで打てるように練習し、次第にお客さんと会話をする余裕ができた。その何気ない会話が楽しみとなり、自身の活力になった。
そしてある日、朝からレジが混雑していた。ふと気がつくと自分のレジだけ長い列ができていて、他のレジは人が少ない。係の人が空いているレジに誘導しようとすると、「私がこのスーパーに買い物に来ているのは、特別安いからではなく、ここのレジの女性と話をするのが楽しみだから」と皆が口を揃えた。あまりの嬉しさにレジの女性はその場で泣き崩れた。
その後、女性は仕事を辞めずに長く働き続け、最後は主任として後輩の指導をしたといいます。
〈大久保〉
その場において、なくてはならない存在になったのですね。
〈宮本〉
この女性は決して有名になったわけではありません。しかし、最澄さんが説かれた「一隅を照らす精神」そのものを体現していると思います。
とりわけ深く心に響いた2つの金言
この話を伺いながら、東洋思想家・安岡正篤先生の言葉を思い起こしました。
「賢は賢なりに愚は愚なりに、一つのことを何十年と継続していけば、必ずものになる。別に偉い人になる必要はないではないか。社会のどこにあっても、その立場立場においてなくてはならぬ人になる。そういう生き方を考えなければならない」
「人生は習慣の織物」といわれるように、日々の小さな習慣の積み重ねが、信用や信頼に繋がり、「一隅を照らす人」、つまり人間的魅力に溢れ、周囲を明るく照らし、必要とされる人になっていくことを、お二人の対談から教えられます。
最後に、本号の特集テーマである「めざすものを持つ」に関して、とりわけ深く心に響いたお二人の言葉を一つずつ挙げたいと思います。
「初発心時(しょほっしんじ)、便成正覚(べんじょうしょうがく)」
人は結果を気にしますが、結果より過程、過程より最初の動機が大切であり、その最初の動機が純粋で利他であればあるほど、その心が堅固であればあるほど、速やかに成就するものだと思います――宮本祖豊
「失ったものを悲しむのではなく、残ったものを最大限に生かそう」
なんでこうなっちゃったんだと後悔しても、先には進まない。どんな厳しい状況になったとしても、これは天が何かを教えてくれているとプラスに受け止める解釈力が大事だと思います――大久保秀夫
一流の経営者と僧侶が語り合う、体験や学びを通して掴んだ人生と仕事を好転させる「心身の習慣」「成功の法則」「珠玉の金言」には、私たちの日常生活に生かせるヒントがちりばめられています。お二人が織り成す人間学談義に興味は尽きません。
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