【取材手記】大怪我から奇跡の生還。柔の道をなおも歩み続ける柔道家・山下泰裕さんを突き動かすもの

~本記事は月刊誌『致知』2026年7月号 特集「続けてこそ道」に掲載の特別講話(我が柔道人生を語る)の取材手記です~

どんなに些細でも自分にできることを精いっぱいやり、最後まで柔道家らしく生き続けたい

ロサンゼルス・オリンピックの柔道無差別級で金メダル、世界選手権4連覇、対外国人選手無敗、公式戦203勝──現役時代に無類の強さを誇った柔道家の山下泰裕さん。

現役引退後も、全日本柔道連盟会長、日本オリンピック委員会(JOC)会長、国際オリンピック委員会(IOC)などを歴任し、世界を股にかけて柔道界の発展に邁進し続けてきました。

その山下さんが、事故で大怪我を負ったのは3年前。

そこから不屈の精神で見事に復帰を果たし、今年の4月に初めて公の場で講演に臨んだのが、フィロソフィ経営実践塾(旧盛和塾横浜)でした。

お話の中でも、とりわけ心に響いた言葉をご紹介しましょう。

「中学、高校時代にご指導をいただいた白石礼介先生は、人としてのあり方を分かりやすく説いてくださいました。
『皆は高い目標に向かって誰よりも厳しい練習に打ち込んでいる。これを道場以外の他のことでも発揮していくのが、柔の道だよ。それができたら、柔道のチャンピオンにはなれなくても、人生のチャンピオンになれる』」

「教員になる学生には、子供たちと共に成長していくよう繰り返し説いてきました。子供たちを磨こうと思う前に、まず自分を磨き高めよう。
そして自分を成長させてくれるのは、できが悪いと見てしまいがちな子供たちではないか。そんな子たちと一所懸命向き合うことを通じて、成長させてもらえるのではないかと私は考えます」

「あれほどの怪我をしたにも関わらず、こうしていまも生かされていることには何か意味があるのではないか。どんなに些細でも自分にできることを精いっぱいやり、最後まで柔道家らしく生き続けたいと念じております」

重い後遺症が残る身で、気力、情熱を振り絞って自身の柔道人生を語り尽くした山下さんに、
会場は深い感動に包まれました。

山下泰裕(やました・やすひろ)
昭和32年熊本県生まれ。小学4年で柔道を始め、全日本選手権大会9連覇、ロサンゼルス五輪無差別級金メダル、対外国人選手無敗、公式戦203勝の戦績を上げる。60年現役引退。その後、柔道教育ソリダリティー理事長、全日本柔道連盟会長、日本オリンピック委員会(JOC)会長などを務めた。著書に『背負い続ける力』(新潮社)など、共著に『武士道とともに生きる』(角川書店)などがある。

『致知』を読むと内省と奮起を促される。だからこれからもずっとずっと発刊を続けてほしい 

ご講演の内容を『致知』7月号でご紹介することになり、入院中の病院へお礼に伺うと、
山下さんは車椅子に身を預けながらしみじみとおっしゃいました。

「人生にはいろんなことがありますね。だからいまを一所懸命生きていく。自分に起きた不都合なことも甘んじて受け止め、それを教訓として生かしていくことが大事だと思います」

『致知』の愛読者でもあった山下さんは、ご自分のお話が誌面で紹介されることを大変喜んでくださり、『致知』に対する思いを次のように語ってくださいました。

「『致知』は私の大好きな素晴らしい雑誌です。様々な分野で一隅を照らす人のことが数多く紹介されていて、読む度に、あぁ俺ってちっぽけな人間なんだなぁと内省を促される。こんなもんじゃいけない。もっと上を向けと奮起させられるんです。

そんな気持ちにさせてくれる本は、これまであまり巡り合ったことがありませんでした」

「ですから私は、これまで結構な数の人に『致知』をプレゼントしてきました。教え子や、親の事業を継ぐ人、起業をする人に、『この月刊誌はすごく勉強になるから、ぜひ読んでほしい』と。

特に経営者など、大きな責任を担う人には、『致知』に登場する一流の人物に学んで、社員が誇りを持ってついてくる志の高い会社にしてほしいのです。

だから『致知』は、これからもずっとずっと発刊を続けてほしいと願っています」

大怪我を負ってなお柔の道を歩み続ける山下泰裕さん。偉大な柔道家が、私たちが毎月一所懸命制作している『致知』をかくも高く評価してくださっていることは誠に嬉しい限りです。同時に、その責任の重さも胸に迫ってきます。

山下さんの熱い期待にお応えすべく、これからも一層の誌面の充実に邁進することを決意した次第です。

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