稲盛和夫はなぜ『致知』を読み続けたのか(小林製薬会長・大田嘉仁)

全国津々浦々、たくさんの愛読者の皆様に支えられ、『致知』は今年で創刊48周年を迎えます。愛読者の輪は、職業や年齢、性別を超えて広がり誰もが知るような著名人の間にも、ご支持をいただいてまいりました。そのような皆様が一堂に会して今年1月に開催された新春特別講演会。懇親会パーティーに先立ち、京セラで秘書として稲盛和夫氏に約30年仕えた大田嘉仁氏(小林製薬会長)より、ありがたいお言葉を頂戴しましたので、ここでご紹介します。長年弊誌を愛読くださっていた稲盛氏は、どのように『致知』を読み込まれていたのでしょうか。

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『致知』は自分を律するための人間学誌

私は36歳の時に、稲盛和夫さんのもとで仕事をするようになりました。稲盛さんの様子を身近で見ていると、『致知』を真剣に読んでおられることが伝わってくるんですよ。

新幹線で移動する時など、時折真上を向いて、うーんと目を瞑りながら、少しずつ読み進めていくんです。

当時の私は、『致知』は教養を増やすために早く読むという意識が強くありました。ところが、稲盛さんに「もっと早く読めばいいじゃないですか」と聞いてみたところ、「自分はここができていない、ここはこうしたいというように、我が身を振り返るために『致知』を読んでいる。だから時間がかかるんだ」と。

『致知』は自分を律するために読むものであることを教えられた気がしました。

『致知』が説く人間としての誠実さや優しさ、努力は、多くの賢者の方々がいろいろな表現で伝えてきたことであり、知識としては誰もが分かっているわけです。しかし人間は弱いもので、知識として知っただけで満足してしまう。

そこを稲盛さんは、時折目を瞑りながら、反省をしながら『致知』を読むことで、自己を律しておられた。私はここに新春特別講演会のテーマである「人間力を高める」方法があると思っています。

そのように、日々自己を律していける方々がもっと増えていけば、日本はどんどんよくなります。

ですから、『致知』の部数が早く15万部、20万部、社内木鶏会が5,000社、1万社に増えていくことを祈念申し上げたいですし、一緒にその姿を目指していければと思います。


◇大田嘉仁(おおた・よしひと)
昭和29年鹿児島県生まれ。53年立命館大学卒業後、京セラ入社。平成2年米国ジョージ・ワシントン大学ビジネススクール修了(MBA取得)。秘書室長、取締役執行役員常務などを経て、22年日本航空(JAL)会長補佐・専務執行役員に就任(25年退任)。27年京セラコミュニケーションシステム代表取締役会長に就任(30年退任)。現職は、MTG取締役会長、学校法人立命館評議員、鴻池運輸社外取締役、新日本科学顧問、日本産業推進機構特別顧問など。著書に『JALの奇跡』(致知出版社)がある。


◇追悼アーカイブ
稲盛和夫さんが月刊『致知』へ寄せてくださったメッセージ

「致知出版社の前途を祝して」
平成4年(1992)年

 昨今、日本企業の行動が世界に及ぼす影響というものが、従来とちがって格段に大きくなってきました。日本の経営者の責任が、今日では地球大に大きくなっているのです。

 このような環境のなかで正しい判断をしていくには、経営者自身の心を磨き、精神を高めるよう努力する以外に道はありません。人生の成功不成功のみならず、経営の成功不成功を決めるものも人の心です。

 私は、京セラ創業直後から人の心が経営を決めることに気づき、それ以来、心をベースとした経営を実行してきました。経営者の日々の判断が、企業の性格を決定していきますし、経営者の判断が社員の心の動きを方向づけ、社員の心の集合が会社の雰囲気、社風を決めていきます。

 このように過去の経営判断が積み重なって、現在の会社の状態ができあがっていくのです。そして、経営判断の最後のより所になるのは経営者自身の心であることは、経営者なら皆痛切に感じていることです。

 我が国に有力な経営誌は数々ありますが、その中でも、人の心に焦点をあてた編集方針を貫いておられる『致知』は際だっています。日本経済の発展、時代の変化と共に、『致知』の存在はますます重要になるでしょう。創刊満14年を迎えられる貴誌の新生スタートを祝し、今後ますます発展されますよう祈念申し上げます。

――稲盛和夫

〈全文〉稲盛和夫氏と『致知』——貴重なメッセージを振り返る

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