【編集長取材手記】サンリオピューロランドはなぜV字回復できたのか——小巻亜矢さんが流した数々の涙と心の工夫

~本記事は月刊誌『致知』2025年12月号 特集「涙を流す」に掲載のインタビュー(私の人生は涙と共にある)の取材手記です~

小巻さんにご登場いただくことができた理由

「私の人生はある意味、涙と共にあると言っていいかもしれないですね」

そう語るのは、東京・多摩の「サンリオピューロランド」と大分・日出の「サンリオキャラクターパーク ハーモニーランド」、2つのテーマパークを運営するサンリオエンターテイメント社長の小巻亜矢さんです。

専業主婦から経営者に転じ、赤字に陥っていた同社を僅か2年で黒字化、前期(2025年3月期)は過去最高益を実現。一方、34歳の時に最愛のご子息と死別し、40代で立て続けに乳がんや子宮の病を患いました。小巻さんは悲喜交々の経験にどう向き合い、豊饒な人生を歩んできたのでしょうか。

人間学を学ぶ月刊誌『致知』2025年12月号特集「涙を流す」に、小巻さんのインタビュー記事が掲載されています。タイトルは「私の人生は涙と共にある」。

サンリオピューロランドの業績をV字回復へと導いた小巻さんのことは、ご著書やインタビュー記事を通して予て注目していました。ただ、過去に何度か編集部から取材依頼をしたものの、タイミングが悪かったのか、残念ながらご登場いただくことは叶いませんでした。

そんな中、『致知』の愛読者で放送作家の野呂エイシロウさんと全く別件でメールのやりとりをしていた際、「サンリオの小巻さん、ぜひとも一度、ご面会の機会をいただけたら幸いです」と思いがけないチャンスをいただき、有り難いご縁を結ぶことができました。

早速、小巻さんにご連絡を差し上げると、「以前より稲盛さんの記事をきっかけに『致知』を拝読しており、尊敬する経営者の皆様の言葉に学びと勇気をいただいております」と、これまた編集者冥利に尽きる嬉しいメッセージが届き、取材日は9月16日(火)に決まりました。

当日、多摩にあるサンリオエンターテイメント本社を訪れると、小巻さんは温かな笑顔で私たちを出迎えてくださいました。予定の時間を押して、1時間半以上にわたり、これまで他媒体では語られていなかったことも含め、波瀾万丈な半生を赤裸々に吐露されました。その壮絶な歩みと心のあり方に、胸を打たれずにはいられません。

その取材の内容を凝縮して誌面5ページ、約7,500字の記事にまとめました。主な見出しは下記の通りです。

◇「みんななかよく」の価値観を世界に広げたい
◇号泣から始まったサンリオ生活
◇最愛の息子との死別、自身も過労で生死を彷徨う
◇どん底の人生を劇的に変えた2つの転機と1冊の本
◇V字回復の起点になった「5つの質問」
◇いかにして意識改革を遂行したか

逆境に次ぐ逆境の人生……そこから見出した生きる意味

サンリオといえば、ハローキティをはじめ、キキ&ララ、シナモロール、マイメロディなどのキャラクターが有名でファンも多いですが、小巻さんは幼少期からそれらが特別に好きだったわけではありませんでした。

ただ、大学4年次にサンリオの会社説明会に参加したところ、会社の理念やメッセージに感動して涙が止まらなかったといいます。

「入りたい思いが強すぎて実は一回諦めたんです。あまりにも好きすぎて近づけないみたいな気持ちでした。それで他の会社に行こうとしたんですけど、何かの運命だったのか、最終面接で落ちまして(笑)。その時ちょうどサンリオの二次募集が出たんですよ。やっぱり後悔のないようにチャレンジしようと思い直し、ありがたいことに合格をいただき、1983年に入社しました。まさに号泣から始まったサンリオ生活です」

そんな念願の会社に入り、やりたい仕事に就き、1年半後に結婚を機に退社して11年間の専業主婦生活を過ごしました。その間に、3人のお子さんを出産。ご主人の仕事の関係でアメリカに滞在した時期もあり、傍から見れば非常に華やかで順風満帆な人生だったといえるでしょう。

ところが、34歳の時に、不幸は突如として訪れました。

「……忘れもしません、次男が2歳になって程なく、不慮の事故で」

涙を流しながら淡々と語られる姿に、思わずこちらも胸が絞めつけられるような気持ちになりました。僅か2歳、可愛い盛りの我が子がある日突然、帰らぬ人となってしまったのですから、その悲しみたるや計り知れません。

当時、ご長男の小学校受験を控え、お腹の中には3人目の子供が宿り、つわりも酷かったため、心身共にボロボロ。悲しみや苦しみのあまり、お互いにその環境から抜け出したい思いが強くなって離婚を余儀なくされます。

シングルマザーとなって働き詰めの生活を送る中、過労で倒れ、一時は生死の境を彷徨うほど危ない状態に。夢の中で三途の川を3回も見たといいます。そこから奇跡的な回復を遂げられるエピソードはまさに圧巻、涙なしには読めない箇所です。さらに追い打ちをかけるように、40代で立て続けに乳がんや子宮の病を患う……。

「数年の間に、乳房も子宮も全摘する手術をしたんです。女性としての痛みを全部味わったような感覚でした」

逆境に次ぐ逆境に直面しながらも、小巻さんは「これも自分にとって必要な経験なのだ」と前向きに捉えていきました。ただ、息子さんの死をきちんと受け入れられるようになるまでには、やはり相当な時間を要したといいます。

どん底の人生を劇的に変えたもの、それは2つの転機と1冊の本でした。詳細は本誌インタビューに譲りますが、小巻さんは一念発起してコーチングや心理学を学び、何と51歳の時には、仕事の傍ら1日3時間睡眠で猛勉強を重ね、東京大学大学院に進学し、「対話的自己論」を修めました。

「大抵のネガティブな出来事は〝そのおかげで〟これに気づいた、これが得られたとリフレーミングできるんですよ。けれども、子供の死はそれがあったからありがたいとは到底思えない。

ただ、自己対話を繰り返すうちに、そこに感謝の種を見つけるとしたら、たった2年の人生だったけど、生まれてこなければよかったのかと言うと、そうじゃない。たった2年の短い期間でも、私のもとに生まれてきてくれたことに対しては、ありがたみしかない。失ったことではなく、いたことに感謝しようと。そう気づいた時、前に進む扉が見えてきたんです」

人生には時として受け入れがたい苦難や試練が降りかかってくるものです。そういう時にどんな心持ちでその出来事を捉え、向き合っていけばよいのか。小巻さんの言葉にその秘訣を見る思いがします。

本誌未収録のエピソード「日頃よく社員に伝えていること」

サンリオの関連会社に勤めていた小巻さんに、赤字に陥っていたサンリオエンターテイメント再建の白羽の矢が立ったのは、54歳の時です。

オープン当初はすごく素敵なところだったにも拘らず、どうしていつの間に評判が悪くなってしまったのだろう。それを知りたくて3回足を運び、気づいたことをまとめ、創業者の辻信太郎さんに励ましのつもりで手紙を書いたところ、「やってみるか」と思いがけない打診があったといいます。

「本当に迷いました。エンタメなんて全然分からないし、やったことがない」

決断の拠り所となったものは何か。経営トップとして常に心掛けてきたことは何か。
まずどんなことから着手していったか。V字回復の起点となった「5つの質問」とは何か。
社員の意識改革における驚くべき具体的な手法とは何か。

これらは本誌インタビューに凝縮されていますので、ぜひお読みいただきたいのですが、ここでは紙幅の都合で割愛せざるを得なかった本誌未収録のエピソードを紹介します。

「日頃よく社員さんに伝えていることは何ですか」との質問に、小巻さんはこうおっしゃいました。

「こうしなさい」「夢を持ちましょう」って言うことはほとんどなくて、「何をしたいの?」ってよく聞きますね。昨日もアメリカから帰ってきて、成田空港からの車中で、若い社員に「10年後何したい?」って聞いて、そこからいろんな話が展開していったんですけど、話しているうちに、「ああ、そういえば、僕こうだったんですよ」と本人も忘れかけていたことが想起されていくんです。

ですから、会社の中で、「優しく話す、温かく聞く」というのは、ずっとコミュニケーションの標語のように大切にしています。

このように社員のモチベーションを引き出し、高めていくことで、その他様々な取り組みの相乗効果により2年で黒字に転じ、平日の1日当たり平均来場者数が2014年から2018年で4倍超に増え、前期は売上高約165億円、営業利益約29億円と4期連続増収増益で、過去最高益を大幅に更新しました。

ちょうど今年12月にオープン35周年を迎えるサンリオピューロランドは、人気のパレードやショー、様々なアミューズメントを展開し、コロナ禍前にはオープン初年を上回る約146万人の来場者数を記録。コロナ禍で約45万人まで激減したものの、年々回復し、昨年度は過去最高の約150万人に達しています。

「よくⅤ字回復の立役者として紹介していただくんですけど、決して私が山の上から皆を引っ張ったのではなく、山の麓から一人ひとりに声を掛け、持っている力を存分に発揮できるようサポートしただけなんです」

真面目で誠実、どこまでも謙虚で飾らないお人柄が伝わってきます。一人の女性として、母親として、そして経営者として、本当に素晴らしい方だと取材を通して尊敬の念を深くしました。

小巻さんが体験を通して掴んだ人生と経営を好転させる「心の工夫」は、私たちの日常生活に生かせるヒントが満載です。

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