2025年10月31日

2025年10月31日に公開される映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」。本作のモデルとなったのは、女性初のエベレスト登頂者で、世界初の七大大陸最高峰登頂者でもある田部井淳子さんです。弊誌『致知』にて、登山一筋の道を歩み続けた氏の登山家としての原点を語っていただきました。 ◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。
(本記事は『致知』2016年7月号 致知随想「平常心で日々を生ききる」より一部を抜粋・編集したものです)
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「山登りはゆっくりでいいんだよ」
1975年、35歳の時に私は女性として世界初のエベレスト登頂に成功し、1992年には、またしても女性として世界初の七大陸最高峰登頂者となりました。これまで雪崩に襲われ臨死体験をしたり、がんを二度患うなど困難に遭いながらも、登山一筋の道を歩み続けてきたのです。
76歳になったいまでも忘れられない出来事があります。それは小学校4年生の夏休み、担任の先生に連れられて栃木県の那須に山登りに行ったことです。生まれ育った福島県の三春町から出たことのなかった私は、山には緑が覆い茂っているものだと思っていました。しかしそこは火山で木も草もなく、川の水は高温でした。辺り一面に硫黄の臭いが漂い、山頂付近は夏なのに寒い。こんな場所があるのかと強い衝撃を受けたのです。
体が弱く全く運動ができない私に、「山登りはゆっくりでいいんだよ」と先生が声を掛けてくださったのも印象に残っています。登山は競争ではなく、どんなに辛くても自分が登らない限り頂上には立てないという明快なルールにとても納得しました。
初めて登頂した時に見た景色と達成感は鮮明に覚えています。学校で机に座っているだけでは学べなかった、自分の足で歩き、目で見て肌で感じたその経験はとても強烈で、私の登山家としての原点となりました。
山への思いは次第に膨らみ、就職した年の4月には、本格的なスキルを磨くため社会人山岳会に入りました。当時はまだ女性の登山者が珍しく、唯一女性を受け入れていた会を見つけ入会すると、何とそこは岩登りを中心に行う先鋭的なクライマーの集まりでした。いままで2本の足で登るのが登山だと考えていましたが、そこでは両手両足を駆使し、ロープを使って垂直に岩を登るのです。
仲間とロープを結び合い登るため、自分のミスで相手が怪我をする危険があります。また、体が大きく体力もある男性と一緒に登るには、力をつけなければなりません。そうした岩場での緊張感と切迫感にすぐに虜になり、毎週末、日夜練習を重ねる日々が始まりました。
(本記事は『致知』2016年7月号 致知随想「平常心で日々を生ききる」より一部を抜粋・編集したものです)
◎各界一流プロフェッショナルの体験談を多数掲載、定期購読者数No.1(約11万8,000人)の総合月刊誌『致知』。人間力を高め、学び続ける習慣をお届けします。※動機詳細は「③HP・WEB chichiを見て」を選択ください










