2025年09月08日
~本記事は月刊誌『致知』2025年10月号 特集「出逢いが運命を変える」に掲載のトップ対談(信じる心が運命の扉を開く)の取材手記です~
ベストなタイミングで対談が実現
2025年6月、世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期公演に46歳の若さでデビューした山田和樹さん。これは日本人指揮者としては佐渡裕さん以来14年ぶりとなる快挙です。
世界トップの団員たちの力を存分に引き出したその演奏に、会場ではスタンディングオベーションが巻き起こり、日本でも様々なメディアで取り上げられるなど大きな反響を呼びました。
一躍時の人となった山田さんが、まさかベルリン・フィルデビューの約半月後に弊誌の取材を受けてくださり、また、創刊47周年記念号の表紙にご登場いただくとは全く思ってもみませんでした。
そもそもの取材のきっかけは、今年(2025年)1月にまで遡ります。小中学校の合奏団やオーケストラを次々と全国優勝に導いてきた音楽指導の達人である佐治薫子さんと山田さんが長年交流されていることを編集部員が新聞記事で知り、お二人の対談企画が持ち上がったのでした。
さっそく取材依頼をしたところ、佐治さんは20年前に弊誌連載「致知随想」にご登場いただいていたこともあって、快くお受けくださいました。ちょうど来日公演中だった山田さん(ヨーロッパ在住)の事務局からも、「佐治先生とであればぜひ」とご快諾いただいたのですが、やはり近々では調整が難しく、対談は次の7月の来日時まで延期することとなったのでした。
そして山田さんの来日が近づくのをいまかいまかと待っていたところ、6月にベルリン・フィルデビューの報道が飛び込んできたのです。状況が全く変わってしまったため、対談の実現は難しいかもしれない……と諦めかけたのですが、そのタイミングで山田さんの事務局から7月初旬での日程調整の旨、連絡が入ったのでした。
結果的には、延期となったことによってベストなタイミングで対談が実現したと言えます。
【2025年6月、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮する山田氏 ©Bettina Stoess】
人間性がよい音楽を創る
対談は山田さんが来日公演中の7月1日(火)午後、都内のホテルにて開催されました。なんとその数時間後に、演奏会本番を控えている状況での対談でした。
お二方は音楽を通じて20年来の交流があり、対面するや否や、近況から思い出話まで、話は尽きないという和やかな雰囲気の中で対談がスタート。今年90歳を迎えるという佐治さんですが、全く年齢を感じさせないお元気さに驚嘆しました。生涯現役で音楽の道を歩んでいることが元気の源になっているのでしょう。また、山田さんも多くの団員たちを束ねる指揮者ということで、近づき難いタイプなのかと思っていましたが、人々を包み込むような温かいお人柄の方でした。
まず山田さんからベルリン・フィルを指揮した感慨が語られましたが、意外にもリハーサルの段階から冷静だったとのこと。というのは、最高の音楽を人々に届けるために目の前の演奏に全力を尽くすという意味では、ベルリン・フィルでも他のオーケストラでも違いはないからだと言います。山田さんの音楽に対する誠実さ、並々ならぬプロ意識を感じました。
佐治さんも、山田さんの今回の演奏が世界から高く評価されたのは、技術云々よりも、その人間性にあると絶賛されました。佐治さんと山田さんが最初に出逢ったのは、いまから20年以上前の2003年。佐治さんが音楽監督を務める千葉県少年少女オーケストラの定期演奏会では、必ずプロに指揮してもらうことになっているのですが、その指揮者として当時頭角を現していた若き山田さんに白羽の矢が立ったのです。
佐治さんは山田さんと初めて対面した時の印象を次のように語っています。
私は山田さんと初めて会った時、育ちがよいというか、人間性が素晴らしいなと感じました。音楽教師を40年やっていましたから、人を見ればどういう人かすぐに分かってしまうんです。
人間性は音楽家、指揮者にとってとても大事な要素で、やはり意地の悪い人にはよい音楽は創れませんし、オーケストラの団員もついていこうとは思わないでしょう? ですから、山田さんは絶対にこれから活躍していく人だなと当時から思っていました。
今回のベルリン・フィルの演奏会も、きっと山田さんの人間性に世界トップの団員たちが魅せられて、盛り上がって、素晴らしい演奏になったのだと思います。
人間性がよくなければ、よい音楽は創れない――。これは音楽家に限らず、あらゆる分野に通じる真理ではないでしょうか。また、まだ駆け出しの山田さんを一目見て、その資質をズバッと見抜かれた佐治さんの眼力の鋭さには驚かされます。
山田さんも、佐治さんとの出逢いを次のように振り返っています。
恥ずかしながら、当時私は千葉県少年少女オーケストラのことを知りませんでしたが、紹介者の方に素晴らしいオーケストラだから行ってみてと言われ、とにかく引き受けることにしたんです。
行ってみたら、音楽監督の佐治先生に随分叱られ、鍛えていただきました。先生はもう忘れているかもしれませんが、練習をしていると、「この速度では子どもはついていけない」などと言われたりして、その度にいたたまれない気持ちになりました。
でもそうして率直に指摘してくださる方は、佐治先生しかいませんでした。先生の子どもたちに向き合う姿勢からもまた、多くを学んだことを覚えています。
それからお二人の長い交流がはじまりますが、山田さんは、オーケストラの子どもたちとの対話を大事にする佐治さんの姿勢や「これくらいでいいだろう」と安易に妥協せず、できるようになるまで徹底して練習する指導者としての信念に大きな影響を受けたそうです。実際、山田さんは対談の中で、「先生の教え子はたくさんいるけれども、私が一番の教え子だと思っているんです」とおっしゃっています。
お互いの出逢いを嬉しそうに話す様子を見て、まさにお二人の出逢いは、哲学者・森信三先生の言葉、
「人間は一生のうちに逢うべき人には必ず逢える。しかも、一瞬早すぎず、一瞬遅すぎない時に」
「縁は求めざるには生ぜず。内に求める心なくんば、たとえその人の面前にありとも、ついに縁は生ずるに到らずと知るべし」
そのものだと感じました。
運命の扉を開くもの
対談では、お二人の人生の歩みを交え、「音楽との出逢い」「師匠の教え」「直面した困難や転機」「団員や子どもたち、組織の力を引き出す秘訣」などを縦横に語り合っていただいています。全文はぜひ本誌にてご覧ください。
●本記事の内容 ~全10ページ(約14,000字)~
◇一回一回の演奏に全力を尽くす
◇20年以上の長い付き合い
◇音楽の存在が人生を支える力に
◇出逢いに導かれて指揮者の世界へ
◇「家を一歩出たら指揮者だと思いなさい」
◇「それでいいんだよ」師匠の愛情に包まれて
◇洋裁か、音楽か、運命を分けた出逢い
◇音楽室も楽器もないゼロからのスタート
◇「最高の一音」が子どもたちを成長させる
◇音楽を楽しむ―原点回帰で次のステージへ
◇巡り合わせが人生を導く
◇感謝の心が出逢いを本物の出逢いにする
最後に取材中、最も心に残ったお二人の言葉をご紹介します。
出逢いはただじっとしていてもなかなかやってこないと思っています。開かないと思っていた扉でも、ノックし続ければ向こうの人が気づいて開けてくれるかもしれません。それと同じで、自分が何か意志を持って一所懸命に努力して向かっていく先に、運命を変える出逢いが待っている。そんな気がするんです――佐治薫子
指揮者になって感じるようになったのは、指揮者はたくさんの人の思いや夢を託されて指揮台に立っているということです。それぞれがいろんな思いと夢を胸にコンサート会場に来られて、音楽に耳を傾けてくださっている。指揮者の仕事はやってもやっても終わりがありません。命を懸けるに値する仕事だと思っています――山田和樹
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