一生懸命を信念に──今年100周年を迎えた「明和工作所」の創業の原点(取締役相談役・菊田晴中)

本記事は月刊『致知』2025年6月号掲載記事を一部編集したものです~

空襲、台風、占領政策……数々の試練を乗り越えて

一生懸命──。これこそは、本年創業100周年の節目を迎えた当社を今日まで導いた創業の原点であり、私自身の人生を貫く信条といえます。

当社は1925年、私の父・菊田九之助が広島県福山市に仲間と3人で創業した菊田木型所に端を発します。父は大阪の生まれで、地元の工業高校を首席で卒業後、一流メーカーへ就職するも、ほどなく病で休職を余儀なくされました。幸い病は快癒し、療養中にご縁のできた福山へ移り起業。メーカー勤務時代に身につけた当時の先端技術を元に、産業機械の鋳造用木型製作に邁進しました。

しかし、時代は徐々に戦争へと傾斜し、終戦を僅か一週 間後に控えた1945年8月8日、地元福山市は大空襲を受け、当社工場は全焼。同年9月には記録的な台風に見舞われ僅かに残った工具、機器類等の資財も流失。さらに翌年2月にはGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による一連の占領政策で当社は壊滅的な大打撃を受けました。

それでも当社は、他社設備の一部を貸与いただくなど、各方面より様々なご支援を賜りながら事業を継続し、不撓不屈の精神で工場を再建したのです。

その後、当社は念願の鉄工部門へ進出し、戦時下に軍の仕事で習得した技術を元に、産業機械に不可欠な歯車加工など新しい事業の柱を確立。「木型の明和」から「歯車の明和」へと飛躍を果たしました。

「せっかく起こした会社だ。少しでも長く存続させたい」

こんな言葉をしばしば口にしていた父は、毎日早朝から深夜まで工場に入り浸り、文字通り仕事一筋の男でした。その一生懸命さこそが会社の生命線だったのです。

思いがけず受け取った経営のバトン

一方の私は、小学校時代に病気で休学して以来勉強を強要されることもなく、両親の庇護の下で気まま、我が儘に育ちました。何事にも夢中になる気質が幸いし、大学を出て当社へ入社してからは一生懸命仕事に打ち込みましたが、後継の期待は7つ上の優秀な兄に注がれていました。

ところが1981年、兄は父が引退を宣言した直後にがんで急逝し、失意に沈む父もその僅か3か月後に死去。私は、思いがけず社長として当社を牽引することになったのです。38歳の時でした。

経営の勉強は何もしてきませんでしたが、後のことを心配しながら亡くなった父を安心させるためにも、とにかくこの会社を存続させ、立派にしたい。その一心でした。環境関連の新会社が頓挫するなど、失敗もたくさんしましたが、老朽化した製造設備を逐次刷新し、新たに歯車減速機製造にも進出。百年企業の仲間入りを果たした現在、売上高約10億円、社員約50名を擁するに至りました。

心安まる間もない経営人生でしたが、よきお客様、よきお取引先、よき社員に恵まれ何とか今日に至りました。7年前に社長を継いだ息子と社員に、私を突き動かしてきた一生懸命の創業精神を継承していくこと。それが残された使命と思い定めています。


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