【取材手記】読書は心を強くする秘薬!——數土文夫×齋藤 孝

~本記事は月刊『致知』2025年6月号 特集「読書立国」掲載対談の取材手記です~

経済の低迷と読書離れは無関係ではない

共に読書家として知られる數土文夫氏、齋藤孝氏。経済界、教育界でそれぞれ名を成してきた著名なお二人ですが、『致知』でご対談いただくのは今回が2度目です。最初は2023年12月号、かつて日本の寺子屋で子供たちのテキストとして用いられてきた『実語教』『童子教』についてのお話がテーマでした。この時、お二人は初対面ながらとても意気投合されたため、「読書立国」をテーマに改めてご対談いただくことになりました。

並外れた読書家のお2人がいまの日本の現状を見て、とても憂慮されていることがあります。言うまでもなくそれは日本人の深刻な読書離れです。

〈數土氏〉
「よく『失われた30年、40年』と言われますでしょう。私はそうなってしまった原因の一つは日本人が読書をしなくなったことにあると思っているんです。経済と読書に何の関係があるのかと思う人もいるでしょうが、これは決して無関係ではありません。……学生だけではないんです。政治家、官僚、学者から一般庶民に至るまで共通して本を読まなくなってしまった」

〈齋藤氏〉
「例えば、大学生に何かスピーチをしてもらって1分くらい聞いていると、その学生の読書量がおおよそ分かるんですね。話の中に読書をして得られる語彙が含まれている学生とそうでない学生がいて、話し言葉だけでは、どうしても思考が限られて浅くなってしまう気がします。……読書量の差はそのまま語彙力や思考力の差であることは間違いないでしょうね」

この対談では、この厳しい現実を踏まえ、生きていく上でなぜ読書は大切なのか、衰退しつつある読書文化をどうしたら取り戻せるのか、という視点でそれぞれの読書体験を交えながらお話を展開されています。

「認められたい」と言っている間は精神的な子供

ところで、いま心の折れやすい人が増えているといわれます。いわゆるZ世代の離職率の高さなどはその象徴と言えるかもしれません。この難題をどうしたら克服できるのか。

「読書を通して精神力が強くなる」

これがお二人の共通した意見です。その提言に耳を傾けてみましょう。

〈數土氏〉
「これも読書の効用の一つといえるでしょうが、私は読書をせずに精神力が強くなったという人はあまりいないように思うんです。なぜ本を読むと精神力が強まり勝負強くなるかというと、過去の歴史で自分以上に苦労の人生を歩いた人をたくさん知っているから驚かなくなるんですね。反対に何も知らないままの人は、小さな試練でもすぐに動揺してしまう」

〈齋藤氏〉
「どれだけのことを想定できるかが心の強さにも繋がっているのでしょうね。福沢諭吉は『福翁自伝』の中で「極端に悪い状況を想定するのが自分の精神の保ち方だ」という意味のことを言っていますが、(戊辰戦争の苛酷な環境を生き抜いた)柴五郎のような生き方に触れると、自分が大変だなんて言えないよな、という気持ちになりますし、決して自分のことでいっぱいいっぱいにはならないんです」

齋藤氏のお話で興味深かったのは、人間が子供から大人になるラインというものがあるそうです。それは承認欲求から脱皮する時。つまり「認められたい、認められたい」と思っている間は、精神的な子供だというのです。

「人は肚で覚悟を決めると、他の人からの承認が必要なくなる。私は承認欲求が日本人の成熟を遅らせていると常々思っているんです」「18歳になったら、認められたいという承認欲求から脱却しないといけない」

齋藤氏のこの言葉は日本人に重く響くことでしょう。

読書習慣が根づくだけで、日本は明るく豊かな国になる

最後に、「読書立国」という特集テーマを総括するお二人の言葉。

〈數土氏〉
「読書というものは年齢に関係なく希望や志を惹起するんです。逆に絶望や悲歎からは解放してくれる。名著を読むことで自殺を思い止まった人の数は計り知れません。社会の病巣の原因をつくったのはやはり読書の喪失なんです。読書習慣が国民に根づくだけで、日本は必ずや明るく豊かな国になると思います」

〈齋藤氏〉
「一冊の本が一本の樹木だとしますと、百冊読めば百本の木が心の中に育つ。百人の著者によって森ができる。本を読んで心の森をつくろう」

短い言葉ですが、お二人の溢れるほどの思いが伝わってきます。ぜひ、この特集を手に取り、読書の意義について考えていただけたら幸いです。

この対談の概要は以下の通りです。

◇読書量の差はそのまま語彙力や思考力の差
◇精神文化の継承なくして心は安定しない
◇読書を通して人間の多様な生き方を知る
◇欧米人を感動させた日本人のインテリジェンス
◇学び続ける風土が日本に根づいていた
◇承認欲求が人の成長を遅らせる
◇新渡戸稲造が説く読書の効用
◇読書を通して精神力が強くなる
◇読書活動を学校教育の中心に
◇日本の精神文化は読書によって培われた


◇數土文夫(すど・ふみお)
昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17年JFEホールディングス社長に就任。経済同友会副代表幹事、日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長を歴任し、令和元年より現職。著書に『徳望を磨くリーダーの実践訓』(致知出版社)。

◇齋藤 孝(さいとう・たかし)
昭和35年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在明治大学文学部教授。著書に『国語の力がグングン伸びる1分間速音読ドリル』『齋藤孝の小学国語教科書全学年・決定版』『人生がさらに面白くなる60歳からの実語教/童子教』(いずれも致知出版社)など多数。

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